第29話 極寒の白虎 リュシアン・ギヴェロン
雪のやまないこの国は天と魔のバベルから一番遠い地に居城を構えていた。
背後の岩山は
その凍りついた居城は巨大な山を削って造られていた。白い居城は千年樹よりも太い五本の石柱で支えていた。その柱は”死の石柱”と呼ばれてきた。幸運にも未だ使われた事の無い雪の城を支える柱だった。
この巨大な城は、ヴラジミール・ギヴェロンが造り上げた白城で、何故わざわざこのような作りにしたのかは兵卒でも知っていた。
再び暗黒竜ギヴェロンのようなものが来た時に、一泡吹かせるために彼が考案して造り上げた城だった。
この地に住む者多くの国民たちは、吹雪や寒さには慣れてはいたが、居城よりも遥か南に住んでいた。その地も一年中雪が降っていたが獣も多く生存し、民たちは皆、それを食料として狩りをして暮らしていた。
生きていくために幼き日から弓の訓練をして、
古来よりこの国の兵士として仕える制度は、強制的な徴兵制度を敷かれていたが、時代が進むにつれてグリドニア神国との争いが激化していき、徴兵された男たちは家族の元へ生きて戻る姿を、二度と見ることは無かった。
長い争いは終わりが見えない程で、兵たちは皆疲弊していた。そうなると当然の如く
国民の逃亡は、年や日を重ねる事に増えていき、逃亡者を捕えて見せしめのために処刑すればするほど、どうせ殺されるなら少しでも生き残れる可能性が高いほうへ懸けると言い残し、逃亡者を増やすだけであった。
最前線では既にグリドニア神国の制圧した領土を取り返され、押し負けだしていた。このままでは国境線も突破されると危惧したヴァンベルグの王子リュシアン・ギヴェロンは、父である王に進言した。
彼はまず士気を高めるためにも強制的な徴兵制度から志願兵としても可能な召集制度に変えて、兵士を輩出した家族には衣食住の確約をした。
更にベガル平原北部の一部を制圧して、雪の無い肥沃な大地での農耕や、牙の無い獣を狩ることの出来る地への移動を家族にさせた。
それをヴァンベルグ君主国が買い取るか、自分たちの食料にさせる方針にすれば、行く当てもない逃亡者は、激減すると主張した。
そしてある程度の兵士もベガル平原北部に移動させ、大部族を刺激しない程度に年々領土の拡大を浅く西へと伸ばしていき、グリドニア神国に繋がる攻勢への道を整備して、現在攻防を繰り返している北の道と、西南からの同時に二本の道から攻め込む事を献策した。
父王であるイシドルはこの進言を聞き入れ、この件を考案した息子であるリュシアンに一任することにした。
彼はまず、ベガルの民である部族たちから軽視されている、ベガル平原最北部の地を制圧し、徴兵制度で強制的に兵士にさせられた家族を集めて、詳細を話した上で制圧した平穏なベガル平原に移動させた。
リュシアンは可能な限りベガル平原との争いを防ぐために、制圧したベガル平原までをヴァンベルグの国境とし、元々北部のベガルの部族たちは、ヴァンベルグ君主国とは争いを避けるため距離を出来るだけ置いていたため、制圧戦などは一切なく国境をそれ以上南には伸ばさず、西へと領土を拡げていった。
肥沃な大地で命を懸けずに済む農耕と、牙の持たない動物の狩りで、生活は約束されていた。元々ベガル平原北部をヴァンベルグの領土とし、グリドニア神国への攻勢を目論見ていたため、領土を西へと拡大していく事に、多数の兵士も配備された。
名目上ではベガル平原北部に対しての防衛であったが、これにより安全も同時に確保されている事で、逃亡者は徐々に減り、志願兵はそれに比例して増えていった。こうして再びヴァンベルグは勢力を持ち直した。
この地には季節はなく、雪景色しか見ることが出来ない土地だった。
夜には黒い空に白い雪が舞い続けた。雪国で白い世界しかないホワイトホルン北部で
漁港や貿易が出来るグリドニア神国は、新しい武器や兵器を手に入れる事が出来る為
戦争は終わりが見えないほど長引いていた。
しかし、ある日、天使が夜空を埋め尽くした。あの光輝く天使たちを見て、恐れを知らない父王であるイシドル・ギヴェロンは、今まで見せた事の無い、真に恐れた表情を見せた。それからしばらくの間、玉座の間から姿を消すように、王室へ籠ったままだった。
このヴァンベルグ君主国の兵たちも天使の存在を知り、天使がいるなら悪魔というものも本当にいるのだと気づかされた。
しかし、北部の被害は最小に留まっていた。それは魔のバベルの塔がベガル平原の国境辺りに出現し、天のバベルの塔が北部の三つ葉要塞近くに現れたからでもあった。
父王が姿を玉座の間に出始めたのは、天のバベルが出現してからだった。糸と糸が絡まるように、複雑な何かが自分の知らない所で、何かあると彼は思った。父が天使を異常なまでに恐れていたのは確かだが、天使を恐れる何かをしているという、結論にしか至らなかった。
簡潔に言えば、悪魔的な邪悪な事を密かにしているか、過去にしたかのどちらかだということは分かったが、王に対して従順な彼は、それを父に問うことは出来なかった。
世継ぎであったリュシアンは、南部までもその名を知られている、ヴァンベルグ君主国のハウンド特殊部隊という恐ろしさと、
隊長ではあったが絡む事も殆どなく、かれらの冷徹さに同じ人間とは思えない時も度々あったが、リュシアンの命令には忠実に従った。
全ての隊員は志願兵であったが、選抜され正式にハウンド特殊部隊に入隊して、喜ぶ者は誰一人としていなかった。所属している者たちは皆、無口で与えられた命令をただひたすら遂行していった。
ハウンド部隊選抜施設は、幾人もの王直属の強者たちが管理していた。王子でありハウンド部隊隊長のリュシアンですら入室するには
父王であるイシドルの許可が必要なほどだった。
その訓練施設は居城よりもさらに極めて厳しい厳冬しかない、山々の隙間をぬったような場所にあった。
リュシアンは直属の配下で幼い頃から訓練係でもある最も信頼できるハウンド部隊副長を務めるレオニード・ラヴローに、ある日相談しに行った。
「レオニード。話したいことがあるんだが聞いてくれるか?」
思い詰めた顔つきのリュシアンを見て、レオニード・ラヴローは紙に何かを書いてリュシアンに見せた。
「若、どうかされましたか?」
“父君専属の察知能力者が会話を聞いています。問題が起きそうな事を、口頭で述べたら全て報告されます”と書かれていた。
リュシアンはそれを見て、自分の知らない多くの事をラヴローは知っているのだとすぐに気づいたが、王子が更に思い詰めた顔つきをしたため、その様子を見たレオニードは再び紙に書いた。
“刃黒流術衆のディリオスとの試合を思い出してください”
その事を考えると心が少し楽になり、冷静さを取り戻した。彼とは敵対したくないと二度目に会って以来、ずっと思っていたからだった。
友と呼べるほど親しくは無かったが、友のように思っていた。
刃黒流術衆はホワイトホルン全土で、勇名を天下に轟かせていたが、実情を知るのは南部でも極僅かな人間に限られていた。
リュシアンは二度目にイストリア城塞で会って以来、彼の事を秘密裏に調べさせた。
そして彼の境遇は簡単に理解できた。リュシアンも似たような環境で育ったためだった。そして月日が経つ事に、あの時の礼を直接言いたいと願っていた。
「今は忙しそうだからまた後で来る。邪魔をして悪かった」
“遠出すれば能力者の圏外になります。天使や悪魔が出てきた今では、ありきたりな理由では警戒されます。何か理由を御作りください。貴方さまの直属の部下には信用できる者も私以外にも二人います”
それを読んで心が休まった。
「とんでもございません。後でまたお話はお聞きします」
リュシアンはレオニードの部屋から出て行った。
そして、その足のまま玉座の間まで向かった。
父王の横に見た事もない者が黒いフードを深く被り、口元を隠して立っていた。
「リュシアンか。どうかしたか?」
「天使や悪魔がベガル平原の多くの者を襲って小部族の多くは、全滅したと聞きました。今後、我らはどう動けばいいのかご命令があるかと思い、参上致しました」
その見た事の無い者は父王に耳打ちした。
「我らの所に来るまでにグリドニア神国を通るはずだ。悪魔の穴に近いし、悪魔がグリドニア神国に大打撃を与えた後に我らは動けばよい。今は様子を見るべきだ」
「確かにその通りです。失礼致しました」
「またその時が来たらお前は部隊を率いて攻め込めばよい。準備だけしてあとは待機しておくのだ」
「はい。それではその時が来たらご命令ください。失礼致します」
リュシアンは踵を返す時に一瞬だけ父王を見た。再びその知らない者が耳打ちをしていた。王子は何か不穏な動きが起きそうな予感を感じながら、玉座の間を後にした。
(カミーユの手紙には悪魔や天使は指揮官が倒される度に、遥かに強くなる者たちが出てくると書かれていた。グリドニア神国が弱る事など絶対にない。滅びるだけだろう。そしてそのまま我らの国へなだれ込んで来るはずだ。この居城は守りには適していない。持久戦になればまず勝ち目はないだろう)
彼はナターシャの様子を見に行こうと思った。妹のことを不安に思うほど何かわからない事が起きていそうな予感がしたからだった。
ナターシャの部屋の前まで行くとナターシャの良き相談役でもある護衛官ソフィア・ウルノフがリュシアンに気づいた。
彼女は笑みを浮かべて礼をとった。
ソフィアはドアをノックした。
「兄上さまがお越しになっています」
「入ってもらって」
ソフィアはドアの前から離れて、リュシアンのために道を空けた。
「お兄さまと会うのは久しぶりだね。天使とか悪魔はこっちにも来るのかな?」
「ここは空から少し見た程度では山にしか見えないから、来たとしても安全だから心配しなくて大丈夫だよ。奴らの拠点からこの地は一番遠いようだしね」
「そう、それならここは安心だね。わたしね、カミーユが心配なの」
リュシアンは言葉に気をつけながら、ナターシャと話した。
ナターシャがリュシアンに手紙を見せた時から、カミーユがナターシャを気遣っている言葉が並べられていた。二人はこの手紙の事は口には出さず、情報はリュシアンの配下から得た情報にすることに決めていた。
「イストリア城塞は難攻不落で有名だし、南で一番の勢力を誇っているから大丈夫だよ。部下が言うにはすでにイストリア城塞にエルドール王国、
そして刃黒流術衆のディリオスがアヴェン一族を抜けて、志願兵だけ連れてイストリア城塞に集結中という情報が入ってきてる。
ディリオスはすでに多くの悪魔や天使を倒しているみたいだし、
彼等がいる限りあの双子は安全だよ」
「わたしもカミーユと……」
リュシアンは口元に指を当てて口には出さないようにさせた。
ディリオスたちが旅に出る情報は極一部の者しか知らなかったため、リュシアンにも届いていない情報だった。
「カミーユ王子の情報が入ったら知らせにくるよ」
「ありがとう。お兄さま」彼女はその雰囲気だけで寂しい感情が、彼の心に伝わってきた。
リュシアン自身も父王であるイシドルに対して、何とも言えない怖さを感じていた。以前の父も確かに怖かったが、今は邪悪さを感じるような目つきをしていた。
それに加えて、今後は発言に気を付けないといけない事も自覚した。
それにしてもあの男か女か分からないあの者は、何者だろうかと彼は考えた。
父王に平然と耳打ちしていた事から、我が国で厚遇を受けている者だとは分かったが、王は世継ぎであるリュシアンに紹介すらしなかった。
父王は果てしないほどの野望高き人であると知ってはいたが、この雪国に突然現れたあの者が悪魔だとすると……ゾっと寒気を感じた。
ベガル平原北部の部族たちは形だけの不戦条約を結んだらしいが、情報の少ないこの国では知る術もなく、世界はそれほどまでに追い詰められている状況なのかと彼は考えた。一番遠い地ではあるが、この死闘に巻き込まれるのは、時間の問題だと彼は思った。
何故ならベガル平原の一件については、彼自身が一任されたからだった。
争いを避けるために、リュシアン自らが国境線を引いて出来るだけ部族を刺激しないよう配慮して制圧した。
そしてその地へしばらく留まり、北部の部族の動きも見張らせていたが、争いを起こそうとする動きは無かったからであった。
それ以後は、リュシアン率いるハウンド部隊を撤退させ、新たに国王軍を配備していた。
天使と魔族の戦が始まった事はイストリア王国王子カミーユが、ナターシャの事が心配で南部での近況を書き記して、北部でなるべく目立たないように白い伝書鳩を送ってきていた。
ナターシャは前線で戦う兄リュシアンが心配で、その手紙を見せていたから彼は知ってはいたが、あまりに突飛すぎて最初は信じられなかったが、天使の大軍勢が夜空を光で埋め尽くし、身体能力上昇率者が続出しだして全て本当の事なのだと理解していた。
南部での刃黒流術衆ディリオスの活躍ぶりや、状況は北部にいながらそれを知っているのは兄妹だけであった。
リュシアンはこの真実を誰かに話すべきか迷ったが、カミーユの手紙にベガル平原北部の多くは悪魔の犠牲となったと書かれていた。
仮に状況を自ら見に行くには、この話をしなければならなくなってしまい、非常に不味い状況になるのは分かり切っていた。
カミーユとナターシャの関係を知るのは、リュシアンとレオニードしかいなかった。遠い国故、現在は無関係に近い状態ではあったが、昔のように決して交流を交わしていい相手ではなかった。
そして国民も兵士も誰一人として戻ってこなかった事から、ベガル平原北部にいた者たちは生きてはいないと判断した。
リュシアンとディリオスの境遇はある意味似ていた。大きな違いは性格的な面で、一族に従順かどうかだけだった。リュシアンは頭では悪いと思っていても、命令されれば実行してきた。
逆にディリオスは気に入らないことは、はっきりと言う性格だった。それだけの違いではあったが、今の世界では重要な事だとリュシアンは思った。
ディリオスは一族と縁を切って、刃黒流術衆の殆どが志願兵として彼に従いイストリア王国に身を寄せていると、カミーユの手紙には書かれていた。
勇名さではどちらも多くの人に言われてきたが、ディリオスこそ本物の勇気ある者だとリュシアンは認めていた。
自由奔放と言えばそれまでだが、曲った事が大嫌いで自由に生きていた。
しかし、我々の世界で自分を通して自由に生きるということは、非常に困難なことを二人とも理解していた。
あのイストリア王国の生誕祭で、彼に試合を申し込んだ。皆が認める彼を知りたいと思った。そして彼と戦ってその意味は理解できた。
あのまま戦っていたら確実に私は負けていた。
しかし、彼にとって勝敗などどうでもいいのだと気づいた。
常人ならば勝って更に勇名を轟かそうとするだろう。
だが、彼は会うのは二度目だが、話したこともない私を気遣ってくれた。
負ければ色々問題が起こることを、彼も同じ境遇だから知っていた。
知っていたからと言って出来るものではない事を、彼は自国の一族の流儀より自分の流儀を通した。一族から責められる事を承知しながら、彼は私の名声を守った。
リュシアンは自分の信念を通したことによって、彼が自国で一族に責められると思っていたが、彼が共として連れて行った二十二名は、ディリオスを主としていたため口外される事は無かった。
彼を慕うカミーユや、多くの人がいるのは、彼が自分の信念を貫いているからだと思った。それは辛く厳しい道ではあるが、彼は今も歩き続けている。
最前線にはいつも彼がいて皆を守ってくれていると、カミーユはナターシャへの手紙だという事も忘れて、書き続けられていた。
彼と一緒にいると勇気が持てると、そして合った事もないナターシャを気遣い、問題には巻き込ませるなと、言われた事などを書いていた。
北部と南部が協力関係であることは異例であり、洩らせない秘密であったため、天使と悪魔の事などの手紙はレオニード・ラヴローにだけ見せていた。
そして、リュシアンやレオニードも能力に目覚めてから、その力を振るう事なくここまで来ていた。
関係が表沙汰になると、ナターシャは利用される事は目に見えていた。
北部には未だ大きな情勢変化がなかったが、内部に大きな問題を抱えていることを彼は知った。
突然、角笛が鳴り響いた。彼は城壁から外を見た。
明らかに分かる姿をしていた。漆黒の戦士たちだった。
リュシアンは城門を開かせると、一人でその黒い集団に向かって行った。
最近の父王は何かがおかしい、話に来たのは間違いだと伝えるために。
彼は雪の上を滑るようにして、黒い者たちの所へすぐに着いた。
ディリオスの信任の厚い、エヴァン率いる刃黒流術衆三十名だった。
会話をすれば全て聞かれる事を承知で、彼は命を懸けて言葉にした。
ディリオスの直属部隊である御庭番衆の洞察力を信じて、意味のある言葉を含んで話した。
「私はハウンド部隊隊長のリュシアンだ。見たところ刃黒流術衆の方々だとお見受けしたが、この地に何用があって参られたのかお聞きしたい。
ここは南と違って年中雪が降る。夜にはもっと寒くなるので、雪の無いヴァンベルグの南北を分かつ国境で、お話をお聞きしたい。
今夜にでも伺いますので、国境でお待ちください。あと、あの試合で私の勇名はさらに轟き、非常に感謝していますともお伝えください」
リュシアンは紙を握り締めていた。近くまで近寄りその紙を先頭の男に手渡した。
城までまだ距離がある。彼は意味もなくハウンド部隊を呼び寄せた。
その隙にエヴァンは紙を見た。
”父王はすでに悪魔の手に落ちた”と殴り書きでかかれていた。
ハウンド部隊が近くまで来ると止まるよう手で合図した。
「主であるディリオス殿に、リュシアンがそう申していたと言えば、必ず思い出して下さるはずです。それからこれ以上外部の者を、これ以上進ませる訳にはいかないのです。あとこうお伝えください。試合での返礼を直接お渡ししたいとリュシアンが申していたと、必ず伝えてください」
「わかりました。引き揚げさせて頂きます。我らの将は直に言葉を聞かねば納得されないお方ですのでご安心ください。必ず今夜までには国境の雪の終わる場所で、待機しておりますので、お忘れものなきようお待ちしております」
エヴァンは紙を渡された時に、会話は聞かれていると理解した。そのことから危険な状況なのは察知できたが、ナターシャの事は言葉にするわけにはいかないので含みを込めて、理解していることを彼に伝えた。
黒い集団の隊長エヴァンは、リュシアンの立たされている状況は非常に危険だとすぐに理解した。探知能力に長けた者がいるので居城から離れるまでは不自然さを出せないまま消えて行った。
緑が見える位置まで行くと、エヴァンはアツキに連絡した。
(アツキさん。エヴァンです。急を要する事態のためご連絡させて頂きました)
(エヴァンは確かヴァンベルグ君主国だったな……何事だ?)
(王子リュシアンは非常に危険な立場に立たされています。我々が城に着く前に”父王は悪魔の手に落ちた”と手渡された紙に書いてありました。
ナターシャ王女とリュシアン王子と彼らの味方を救出するべきかと思いご連絡しました)
(ナターシャ王女はカミーユ王子と恋仲だ。我らの将は助け出そうとするはずだ。リュシアン王子たちの味方は少数だろうから助け出すことは可能だ)
(何故少数だとお分かりになるのですか?)
(大勢いるなら我らの将のように、国から出ることは容易いはずだ)
エヴァンは納得した。
(一応、ヴァンベルグ君主国の国境近くで、我々は待機していることだけは伝えました)
(ご苦労。そのまま待機していてくれ。ディリオスさまに指示を乞う)
ディリオスとカミーユはすでにドークス帝国に来ていた。
生きている人間は一人もいず、能力者が作ったであろう木偶や土偶が各所に配備されていた。
場所に間違いはないということは、地下に本拠地を作ったのであろうとすぐに分かったが、それらしい入口も無い事から、能力者によるものかと思案していた。
避難系監視型能力者がいる事がわかり、ドークス帝国を調べるには、それなりの能力者が必要だと思った。ここに長居はできない、天使が来るのも時間の問題だと考えていた。そうしている間にアツキから連絡が入った。
危険も要する事態に成り兼ねないとアツキは考え、エヴァンから入ったヴァンベルグ君主国の事情を話した。
彼はすぐに理解して、自分の漆黒の黒衣をカミーユに纏うように言いつけた。ディリオスは常に身に着けている黒衣であったため、能力を使って軽くした。
そしてこれからヴァンベルグの領土に入るが、何が起きてもフードを深く被り口元を隠して、一切何が起ころうとも声を出すなと厳命した。理由を話さなかったのはまだ確実では無かったからだった。
そして、ナターシャを馬に乗せて疾駆させた後に、黒衣の留め金を外すよう言い渡された。つまりはディリオスは残って戦う事を意味していた。
しかし、父王に対して従順なリュシアンが大胆な行動に出るほど、状況は厳しく成功確率も行ってみなければ分からなかったからだった。
カミーユは黙って頷くとヴァンベルグへ向かって走り出した。
ディリオスは常に最悪を想定して、戦況の変化や何かが起こる事に対して、いつもそこから最善案を出し動いていた。
彼の不安はカミーユもエヴァンも強さ的には、問題ないが実戦をしたことが無い。
と言う最も戦いにおいて初歩的ではあるが、今回のように失敗は許されない事を
考えると、一抹の不安では考えは収まらなかった。
力をつけた事への自信が、実戦への不安を軽くしているのだと彼は思っていた。
どちらにせよ、苦戦する戦いになるだろうと彼は考えながら疾走していた。
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