第27話 至高の強さを求める戦士たち

 騎兵でも十日ほどかかる距離をたったの六時間で到着したほどの者の言葉には重みがあった。彼は常に最短距離を取っていた。

馬では通れない川や湖、迂回しなければ通れない山岳地帯なども、一直線に進んできていた。


「今の我々がやらなければならないことは何でしょうか?」


「三つ葉要塞を今であれ先であれ、いずれは捨てるしかなくなる。

戦いが進めばさらに強い天使が天の塔から出てくる以上、間近にある三つ葉要塞に兵を置くのは無謀でしかなくなる……ダグラス王にアツキのビジョンを見て欲しいが彼らがイストリア城塞につくにはまだ時間がかかる。


手がないわけではないが、今のこの状況を維持したままダグラス王にビジョンを見せるとアツキは死ぬ可能性がある。最近みにつけた能力で、通常の手順を踏んでも精神エネルギーのほとんどを消費する。


精神エネルギーを使い果たしたら、生命エネルギーを消費しだす。アツキの能力は精神エネルギーを多く使うため、精神エネルギーの鍛錬を重点的に鍛えてきた。


だから生命エネルギーは精神エネルギーよりも圧倒的に低いため、非常に危険な状態になる。


遠方の人間にビジョンを見せることは今は出来ないが、彼の能力は非情に重要な役割を担っている以上、死なせる訳にはいかない」



「ドークス帝国のおかげで時間稼ぎは相当出来るだろう。

まずは三つ葉城塞を捨てるしかない。奴らの強さを見れば即断するでしょうが、


俺が倒した大天使は副官だった。布石を活かして翼を先に斬り落としたから武装化できず、難なく倒せたが武装化されていたら厄介だったはずだ。


塔から次軍が出てきたら天使たちはドークス帝国に向かうでしょう。

その間、隠れて天使が行き去るのを待ち、敵対しないようにしなければ見せしめのためのためではなく、邪魔者として皆殺しにされる可能性はかなり高いです。


悪魔のほうが厄介ではありますが、天使たちは人間のような感情は持ち合わせていません。


そのため、ドークス帝国が何をしようと、使命を妨げる存在だと天使が判断すればあの国を滅ぼしてもその考えを改めることはないでしょう。


天使が現れる前にドークス帝国に攻めるのが最善ですが、奴らと鉢合わせになる可能性もあるので動けないのが実情です。天使は最初人間をそれほど警戒していなかったが、九位の激闘で人間を食らった悪魔に、天使は苦戦を強いられた。


そして八位の争いでは予定外であったが、俺は大天使の副官を倒したためか狙われている事が分かった。


その後で私は均衡を保つために、上位の悪魔を皆殺しにした。

俺が動かなければ確実に大天使の指揮官は負けていた。


アツキが奴らの会話で俺を殺すよう尖兵たちに指示を出したことで、

限定して俺は倒さなければいけない



「いいか。これで分かった事は重大なことだ。意味がわかるか?

人間の思考を捨てて、考えなければならない。天使が不利な状況であったにも関わらず、悪魔を倒したことで俺をより一層警戒対象とした。この天魔聖戦は完全な三つ巴になったんだ。


悪魔が有利不利に関係なく、天使も敵と見なさなければならない。

状況次第では悪魔のために、奴らを倒すことにもなりかねない。


それが現実だ。今はまだ我々は非力ではあるが、生き残りつつ強くなっていくしか道はない。今は耐えて力をつけていくしかない」


ディリオスは言いにくそうな顏をした。



「大天使の体は人間のゆうに数倍あり、身長は三メートルほどもあった。空中での移動速度も巨体に見合わず、俺の通常の空中移動速度よりも速かった。



飛苦無を使えば俺のほうが圧倒的に速いが、一応警戒されないよう全力では戦わなかったが、地上に降りたら翼で武装化する。武装化したら、巨大な盾と身の丈ほどある大剣と鎧を身にまとう。多少身体能力が高い能力者程度では、一振りで数人は簡単にやられるほどの大剣を自在に操る大天使と地上でまともに戦える人間は少ない。



空中にいるうちに翼を斬り取ってしまうのが理想だ。翼さえ斬り離せば地上に落ちる。武装化もできないため頭部か心臓を破壊すれば倒せる。


当然、相手はそこが弱点だと分かっているから、簡単には倒せない。

地上なら俺のほうが遥かに戦い慣れしているから十分に対応できた」



「だが指揮官に至っては特殊な能力を今後は持った者たちが出てくるだろう。第八位の悪魔はすでに特殊な能力を有していた。速さよりも彼らの覚悟から来る使命感により、強さを発揮していると俺は思った。


絶対に使命を果たすための執念は、限界以上の力を引き出す。強さは当然恐ろしいが、あれほどの執念深さは油断禁物だ。完全にトドメを刺すまでは油断するな。


指揮官である大天使だけではないが、翼は奴らのエネルギーの源だと判明した。悪魔に苦戦した大天使は、武装化した盾や剣をエネルギー化して傷を治していた。


翼は奴らにとって重要なものではあるが、そこだけに囚われず常に全体を見て戦うのが理想だ。翼を狙っていることを奴らに気づかれたら確実に利用される。


私が愛馬だけをイストリアに戻したのは、俺が一緒にいる限り距離的にも奴らが此処まで来る可能性が非常に高かったからだ。

俺が単身で大天使の副官を倒したことによって、奴らの目標ターゲットは俺になった」


 ディリオスはカミーユを見た。


「カミーユ。お前はヴァンベルグ君主国と繋がりがあるよな? あの国の王は危険な思想を持っているとは聞いているが実際はどうなんだ? その息子であるリュシアン・ヴァンベルグとは二度会ったことがあるが、悪い人間には見えなかった。

リュシアンの名は北部大陸でも強者で名が通っているが、どのような人物か教えてほしい」



「はい。ディリオスさんの言う通り、ヴァンベルグ君主国のイシドルは危険な王です。そしてリュシアン率いるハウンド部隊は優秀な者ばかりの精鋭です。リュシアンは話のわかる男ですが、王に逆らうような真似はしないでしょう。正直に先に申し上げておきますが、ナターシャには関わらせたくありません」ディリオスは黙って頷いた。


「勿論わかっている。だからナターシャ王女の事は聞かなかった。俺がミーシャに抱く気持ちと同じだろうと思ったからな」


「確約はできないし、これはここだけの話だが、ナターシャ王女は何とか助け出すつもりでいる。ナターシャ王女と俺は面識はないが、お前の為に何とかするつもりだ」


「ありがとうございます」

「礼は助け出せたら言ってくれ」


「俺の名義で刃黒流術衆三十名の使者を送った。正直言って命懸けの伝令だと思っている。三十名にしたのは襲われても何人かは必ず生きて戻れるだろうから増やした。

俺はリュシアンとは二度会っただけだから、話のわかる男だという情報だけでも助かる。


お前はしっかりナターシャを守るためにも強くならなければならない」カミーユは引き締まった顏で黙って頷いた。


「ダグラス王。三つ葉城塞はいかがしますか?」しばらく黙ってダグラスは言葉を口にした。


「今までのように隠れてやり過ごすことは不可能ではないのですな?」


「不可能ではありませんが、可能とも言い切れません」


「では警戒を強くしてこのまま様子をみようと思う」

その言葉にやはり多大なる犠牲を人間は払わないと、同盟は成しえないとわかった。ディリオスは目を伏せて頷いた。


こうなるであろうとは分かっていた。分かってはいたが進言はした。

途方もなく積み上げられた人柱ひとばしらの上でしか、予測通り事が運ぶのは無理だと改めて感じた。



「わかりました。それでは訓練の話をします。我々は二人に御庭番衆棟梁に命じて各自独自の暗殺拳と内殺拳を習得させ、更に連携も瞬時に取れるように訓練するよう命じました。

 

レガとギデオンを棟梁にして師団を結成させます。

それぞれ師団として動けるよう刃黒流術衆の多くの人数を両人に与えて、再度鍛え上げた後に連携を取れるように更に鍛えあげます。主な任務は敵の中部隊壊滅などが出来るようになるまで訓練させます。仮に世界が滅ぼうともレガとギデオンが納得するまでは戦う事を禁じました。



各自に七百名ずつ与えるつもりです。能力者は五十名ずつ組み込みます。

私を倒せるようになるまで、両名は訓練のみ重視させます。

 

 それとは別に数人の洞察力や分析力に長けた者を隊長として相性の良い能力者を十人前後の暗部を数部隊作らせます。



おそらく主に秘密裏な特殊任務にかせることになるでしょう。お二人にはまだ話してませんでしたが、私は大天使の副官と話した時に、私としては人間を存続させるにはどうしたらよいのか聞きました。



返答は……人類は再び滅びると言われました。過去に起きた争いで、人類は一度滅亡しています。

我々人間を再びつくった理由はわからないが、何か意味があってのことだろうとも言ってました。

今度の争いも同程度になると言われました。

天使は嘘をつきません。つく必要がないからです。

私は人類を存続させるために仲間を鍛えあげるつもりです」



「我ら南部にはもうこれ以上勇気ある者はいないと判断し、北部の闇の者たちや抵抗軍などに会いに行くつもりです。

当然、訓練も兼ねていきます。

私は毎日欠かす事なくミーシャに会いにきます。


すでに決まっている志願者はアツキ、サツキ、ジュンは厳しい訓練にもなる事は、承知してついてくると言いました。あと二、三名連れて行くつもりです」


ディリオスの言う事は、今まで外れたことは無かった。

それは身を以て彼は一人で、戦ってきていたからだった。

その為には判断力、決断力、洞察力などを持ち合わせることにより、先手を打ってこれたからであった。


その男が再び行動を起こそうとしている。

北部を知らない者が、再び知らない相手に接触し、人類のために仲間を集う。それを実現していく己に課した使命感は、ただならぬ心の決意を感じた。


 彼は同盟を結ぶのを待っていたら、人類は滅亡すると確信していた。国々は実質何もしていない事をダグラスは王として恥じた。カミーユを行かせたくない気持ちも、恥じるべきものだと思い始めていた。

ディリオスはアヴェン一族抜け、彼を主として多くの者が従った。死地だと知りながら、己よりも強い敵に対して臆する事無く、志願して皆がついてきた。そしてカミーユも志願している。父としては止めたいが、男としては止められないとダグラスは思った。


「エルドール王国には現在ロバート王を始めとして、能力を身につけた者は複数いますが、攻防の原点のエネルギー総量も低く、身体及び精神能力上昇が低いため能力を活かせていない状況です。


現在彼等は昏睡状態です。身体能力上昇した者に鍛錬はさせていますが、偵察隊の任務程度しか出来ないでしょう。

ただロバート王の特殊能力には期待できそうです。予知夢系の能力のため精神エネルギー消費が非常に激しいので、こちらについて鍛錬可能な状態になるまで待ってから、精神エネルギーを主軸とした鍛錬をしてもらう予定です」



「父上。私もディリオスさんについて行ってもよろしいでしょうか? 私はまだまだ弱いことを身を以て知りました。お許しいただけますか?」ダグラス王は暫く黙った後、言葉を口にした。


「ディリオス殿、安全な旅ではないのですよね」


「今はもうこの大陸に安全な所は、何処にも存在しません。率直に話ますが、仮に大天使の軍勢が三つ葉要塞に人間がいると分かれば皆殺しになるでしょう。私の予測では相当な実力者が仮にいたとしても、多数の犠牲は必ずでます。


天使や悪魔は位がひとつ違うだけでその力量は遥かに差があります。感知する者がいればたちどころに隠れていても、バレて全員死ぬことになります。


人間同士の戦いではない事をロバート王もなかなか理解できず、後手に回ってしまい今逃げてきてます。


次に出てくる敵の強さはだいたい予測がつきますが、仮に私が敵の指揮官と対峙している間に、大勢の者は敵わず死ぬでしょう。大天使が言うには私の強さは中位クラスだと言ってました」


 イストリアの若き勇者が一緒に来たいと言う事は分かっていた。ディリオスから話を持ち出す事は出来ないのは、すでに多くの事をすでにダグラスに頼んでいたからだった。カミーユの意思の強さに期待して、ディリオスは話を出していた。



「仮に来るのであれば、カミーユの能力の多くは身体能力エネルギーを要します。私がカミーユに合った闘い方を幾つか考案しましたので、それをマスターできる程度の身体エネルギーをまずは身につけさせます。


すでに限界に達しているようで自動上昇が止まっているようなので、我々の鍛錬方法で底上げをさせます。幸いカミーユの能力は装備などで問題なく補えるので、我々が出来る限りの事は叩き込みます。


私が教える事が無くなれば、それまで教えた事から自分で鍛錬に励むことになります。最終的にはカミーユの根性次第になるでしょう」カミーユは刃黒流術衆の修業に命を懸けて会得する覚悟を、ディリオスはその目に見た。


「カミーユ。再び成長して帰る日を待っているぞ」


「ありがとうございます。必ず生きて帰ってきます」


「皆、手練れだ。命の保証程度は出来るから安心していい。出発はエルドールの者たちが到着してからにします。私はこの後、ミーシャに会ってから三つ葉要塞にいきます。エルドールの者たちが三つ葉要塞を越えるまでは私が最後の防衛線として残ります」


「身体能力の高い刃黒流術衆に現時点では体術で勝てる人間は、私が知る限り南部にはいません。

その上、未だ限界到達せずに身体能力上昇中の者も多数いますのでその者たちには引き続き基礎能力の鍛錬を継続していきます。


刃黒流術衆は皆、元々非常に身体能力の高い者たちです。

能力を身につけなかった者には師団に入れて新たな連携技を組み込みます。予想では相当な戦力になると思います。

御庭番衆には撤退を命じてそれぞれの隊に所属させて能力向上を命じる予定です」



ディリオスの思惑通りに事は何とか運んだが、まだまだこれからが勝負だと分かっていた。あくまでもこれは最低限必要なことでしかないと。


「そしてイストリアですが、非常に良い人材が揃っていますので、鍛錬すれば必ずや大きな戦力となるでしょう。訓練隊長ともしもの時のために防衛隊として私が選抜したハヤブサを隊長として、能力に長けた者たちは残していきます。


防衛隊長に任命したハヤブサは非常に強い男です。第七位が攻めてきても、対応できるだけの力は持っています。


北への旅に向けての準備はすでに終えています。出発まで残された時間は少ない。カミーユはしばらく帰れないだろうから、やり残した事を今のうちに済ませて、北部への準備も済ませておくんだ。俺たちは寒くても大丈夫だが、カミーユには寒い地となるだろう。それも兼ねて準備しろ。日々走り込み今の私だとイストリア城塞から三つ葉要塞に容易に行けますので問題ありません。


毎日速度を徐々に上げながら走り込めば鍛錬前の準備運動くらいにはなりますので丁度いいと思います。


ですから、しばらくは私とカミーユは一緒に鍛錬をすることになるでしょう。当然私の鍛錬とは別の鍛錬をさせてからある程度強くなったらカミーユの能力に適した指導を、しようと思っています」



 ミーシャはディリオスの深い悲しみを感じていた。言葉の裏にある本当の心の中にある気持ちを理解するほど、ミーシャも悲しくなっていた。礼を失せぬように、何度も何度も、三つ葉要塞からの撤退を進言するも、彼の思いは誰にも届かず、嫌な予測の方向ばかりに進んでいた。



実現する日も近いだろうけど、圧倒されるのは明白だとディリオスは考えていた。

そしていつも、どんな時でも私のことを一番に考えて熱い想いを募らせていた。


刃黒流術衆は皆、ディリオスを心の底から慕っている。彼の為なら命を簡単に投げ出さず、最後の最後まで、彼の命令に対して命を懸ける大勢の人たちも、彼がわたしのことを愛していると知っている。

それを知る彼を慕う人たちは、わたしを守るためなら命を懸けてくれている。彼にとって一番大切に想っているわたしのために、あの人たちは毎日鍛錬してる。

彼が作る暗部はわたしを守るために、作ることもミーシャは知っていた。

さっき彼が食事中に涙を流したことも、気づいていた。

悲しみの涙ではない、私への愛から生まれた涙だったことも……ミーシャは理解していた。

ミーシャは自分の部屋で嬉しくて泣きながら、ディリオスの心を共に感じていた。



「それでは鍛錬のほうもよろしくお願いします。ミーシャも待っているでしょうから今日はこの辺で」ダグラス王は立ち上がり、自室で待つ王妃ミアの元に向かっていった。


「カミーユ……次の天魔の死闘には手を出すな」彼は本音で話した。


「私ではまだ全く通用しませんか?」ディリオスは黙ってしまった。


カミーユの言葉でダグラス王もカミーユも、俺が二人の事を案じて最悪の事態の話を言っているのだと、勘違いしているのだと感じた。



「お前もダグラス王も勘違いしている。

もう俺たちの命や国や城の問題だけではなくなっているんだ。

俺たち人間で、それを理解しているのは俺と俺の配下にしかいない。


人間の戦いではない事に気づいている人間が少なすぎる。

我々は闘士も少ない……勿論勝つつもりだが、三つ葉要塞で鍛錬する兵士は前線に出れるほど強くもないのに、最前線に出されるとなると、おそらく全滅するだろう。


仮にイストリアの強者が何人いても関係ない。

必ず全滅するのは目に見えている。お前も戦えば分かる。

本当の戦いの意味が。悪魔も天使もお互いに、ひとつの主張の元に、命を懸けて戦っている。俺たちのように、愛する者のために戦う者以外には、理解できない聖戦なんだ。旅を通してその事にも気づいていくだろう」



「必ず世界に通用する戦士になってみせます。ところでネストルはどうすればいいのですか?」


「お前の従者だろう? お前から離れる事はしないはずだ」


「では同行させてもよろしいのですか?」


「ネストルもまだまだ強くなるはずだ。連れていく価値は十分にある。同行させるなら出発前の準備など色々あるだろう。共に行くのであればそれを伝えてやれ。同行が決定したら教えてくれ」


「わかりました。ありがとうございます」



 ディリオスは同行するかしないかである話を、するべきかどうか迷っていた。カミーユの同行が決まった以上話しておかなければならないと思った。



「……前線にも出るお前にも関係がある未来だから話しておこう。これはヨルグとロバート王しか知らない事だ。


ヨルグに内密に相談されたんだが、それがいつ起こるかもわからないんだが、ロバート王の能力で分かったんだが、予知夢を見たらしい。


俺の生死はわからないが、最大の危機に対して俺はある作戦を立てるらしい、その作戦で俺は布石として命懸けの役目を果たす。


そしてお前が凄まじいダメージを盾で受け止め、その最大の危機から皆を救うらしい。いつ起こるのかもわからないが、俺とお前は何があっても死ぬわけにはいかない。どちらか死ねば未来は消える。


俺にもまだ何の話かもわからないし、いつどこで起こるかもわからない。まだロバート王は能力に目覚めたばかりだ。もしかしたら未来は変わるかもしれないがそれもわからない。


莫大なエネルギーを消費することだけはわかる。だから全貌ぜんぼうを見る事はできないんだと思う」


カミーユは父に何故話せないのか考えたが、知らない事が多すぎてわからなくて質問した。


「父には何故話せないのですか?」


「お前と俺は何があっても生きなくてはならないが、同時に誰よりも強くなる必要がある。


俺が自らを布石にする作戦を立てるんだ……そしてそれを実行するとなるとレガやギデオン、アツキ、サキツ、ジュン、ハヤブサなど今後どんどん強くなる奴らが俺の配下には大勢いる。


それでも尚、俺が布石になる予知夢を見たんだぞ? 俺が適任だという訳ではなく、俺にしか出来ないほどの事だと分かる。


未来の皆の生死は別としても、大勢生き残れるのは俺の配下たちが一番多いだろう。俺の身代わりになれるのなら、全員ででも立ち向かう覚悟ある者たちだ。


つまり俺以外には務まらないとんでもないことが起こる事だけは、確かな真実ということになる」



 ディリオスはミーシャとの未来を考えていた。その想いが強いため彼の力が増し続けて強くなり続けている事を本人も知らなかった。鍛錬は誰よりもしていた。ミーシャを悲しませないように、彼は彼女の大切にしているもの全てを守るために鍛錬していた。


彼女を想うと力と勇気が湧いてくる。その度に彼は強くなった。


ミーシャとの永遠の愛は本物だった。

それは二人ともが思っていた。

運命の人はこの人しかいないと。


ディリオスは彼女との約束である未来を実現するために、強くなろうとしていた。

天使や悪魔を倒すのが目的ではない、永遠の愛の為に、命を懸けて彼は強くなろうと最初から心に誓っていた。



「お前はその時のために、その能力を自由自在に操ることができるようにならなければならない。それがお前の使命でもある。


俺はロバート王からその事を聞いて、お前の能力を最大限に活かす方法から、通常の戦い方まで全てを考案した。

お前の死に場所はここではなく、人類を担う未来にある」



カミーユは納得していない表情で考えこんだ。


「私がディリオスさんよりも強くなるということですか?」ディリオスは首を横に振った。

「そうじゃない。お膳立てが俺の役目で、最後の一手はお前の役目だということだ。能力には相性がある。俺の能力はあらゆる事に対応しやすい。俺でしか対応できない戦いが未来に待っているのだろう」


「この地にいる間はミーシャのお供とお前を個人鍛錬するつもりだ。カミーユのその能力は正直言って完全に攻防に適している。仮にエネルギー総量が同じなら、俺がお前に勝つには相当難問でもあるし、無事に勝つことは不可能だろう。


お前とミーシャだけには話しておくが、その未来の為に俺は絶対に死なないが、途中で一時、戦線離脱することになりそうだ。

だが必ず戻る……絶対にな。


 ロバート王の能力は予知夢では、俺は死なないが皆を守るために、しばらくは戦えないほどの怪我をするようだ。かなりの無茶をするしかないんだろう。


俺の見立てでは俺たち刃黒流術衆以外では、後を託せるのはお前だけだ。

その能力を完全にお前のモノにしたら、俺の予測では高位の奴らとも激闘できるはずだ。


そのためには厳しい基礎修業もする、お前をロバート王の予言が来るまでに出来るかぎりお前を育てる。俺の個人鍛錬は命懸けだと思え。奴らと対抗するには俺の命懸けの作戦とお前が必要になる」



「ミーシャを待たせているだろうから行ってくる。カミーユの能力は身体能力の上昇で、飛躍的に強くなる能力だ。頑張れよ」ディリオスの目を見てカミーユは頷いた。


ディリオスは部屋を出てミーシャの部屋へと向かった。


「ミーシャ。用意はできたか?」部屋へ入ると女性の召使と着ていく服で悩んでいた。「ディリオスはまだ入っちゃダメ!」「わかったよ。じゃあシャワーでも浴びてきていいか?」「うん! 丁度いいくらいだと思う。また後でね」


タイミング的にミーシャを泣かせてしまったと、彼は気づいた。

何があっても大丈夫だからと、心で何度も彼女に語り掛けた。



 ディリオスは部屋を出て用意されていた客室に入った。彼は裸になり肌身離さずつけている袋に入った四つ葉のクローバーを首から外すと、冷たいシャワーを浴びた。


その冷たさで煙がたつほどだった。冬の凍るほどの冷たさが懐かしかった。刃黒流術衆の鍛錬では、凍りついた水の中で、数分息を止める訓練もあった。久しく浴びたこの冷たさで、心身ともに更なる厳しい鍛錬をしなければと、彼は覚悟した。


(アツキ。今話せるか?)予定は早めに立てないといけない状況に立たされていた。


(はい。大丈夫です。イストリア王国の方針は決まりましたか?)


(ああ。悪いほうの予想通りだ。そっちはどうだった?)


(こちらは予定よりも早くイストリアにはつけるでしょう。ただ新たなビジョンをロバート王は見たのですが、内容は教えてくれません)


(わかった。先行部隊が三つ葉要塞に着く前に連絡してくれ。俺が殿しんがりは引き受ける)


(悪魔が先にでれば、危険だと天使は理解している。

天使が先に出れば魔族の餌である人間を殺すくらいは、悪魔からすれば簡単に考えはたどり着く。


今後の教訓のためとはいえ、人間は何も知らないに近い。


我々の力がここまで通用しないのは私のせいだ。甘く見積もりすぎた。そこで鍛錬の武官を変更することにした。


イストリア王国に我が刃黒流術衆の能力者を全て集める。


ギデオンの元御庭番衆もいるし、刃黒流術衆の中でも特に身体能力が高い者を隊長として三十名つける。


サツキとお前はまたイストリアに到着してから話そう。

アツキは今のうちにできるだけ休んでいてくれ。


今もまだ身体能力上昇者が複数いるはずだ。

そいつらは間違いなく特殊能力を有している、基礎エネルギーがまだ上昇しているのは能力者だから能力に目覚めるまでは、基礎鍛錬を続けさせろ。能力に目覚めた後でも能力への対応が速くなるからな。


それから三つ葉城塞にいる全ての御庭番衆と刃黒流術衆の中にいる能力者共々(ともども)イストリア城塞に引き上げさせる。


刃黒流術衆に天のバベルが光ったら、それぞれ身を隠して気配を消すよう伝えてくれ。くれぐれも戦闘は避けるように全員に、俺の厳命だと伝えろ。とにかく刃黒流術衆の全員をイストリア城塞に集めろ。

三つ葉要塞を通過する時に一緒にイストリア城塞に引き上げるんだ。次の第七位の指揮官どもは今の俺に近いくらいは強いはずだ)


(わかりました。くれぐれも無理はなさらないでください)


(ああ。アツキもな。これが前哨戦だと考えるだけで嫌になるな。俺は次に奴らが現れるまで、ミーシャと逢う時以外は全ての時間を鍛錬につぎ込むことにした。

今もまだ身体能力は日々上昇中で下がる気配どころか上昇力が上がっていそうなくらいだ。


鍛錬をすれば急速に力はつくだろう。能力はどこまで何ができるかを試して、技を自分のものにする。お前たちには色々面倒事を押し付けてすまないと思っている)


(我々の心配は御無用です。命令を遂行しましたら、またご連絡いたします)


(ああ。それじゃあ連絡を待ってる)

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