第八話 エルドール王国


 城に到着したディリオスは、御庭番衆筆頭であるサツキとアツキに東の関門警備と偵察の指示を出し、西には少数の俊足の偵察部隊だけを出した。

 

 青年は領主の近衛兵隊長であったギデオンとレガを連れて、ヨルグの部屋に入った。



「一体どういうことか説明してくれ」ヨルグは部屋に入るなり聞いてきた。レガは絵巻物や神典を見せ説明した。


「絵巻物の化け物をディリオスは倒したのか……しかもあの神木で襲われたのなら、悪魔の穴はすぐ近くにあるということか」ヨルグは少し思案し顔色が青くみえるような不安な表情を見せた。


ギデオンも信じ難い真実であったが、ディリオスやアツキたちが無駄な嘘や、事を大袈裟にするような人物ではないと知っていた。それだけに、今後どうすればよいのか分からない不安に襲われた。


「僕は人間とですら、稽古程度しかしたことない。一体どうすればいいんだ? 僕にはどうしたらいいのかわからない……」ヨルグは頭を抱えて、苦悶の表情をみせた。


「お前だけじゃない。多くの者たちが実戦は未経験者ばかりだ。どう動くのが最善か、サツキとアツキに周囲を調べさせてから考えてみる。俺が倒したのはせいぜい百体ほどだからな」


ディリオスはヨルグに遠回しに皆、同じく不安だと話した。

「……つまりどういうことだ?」

王位を継ぐものは意味がわからず聞き返した。


「百体程度の数しかあそこに来なかったということだ。魔界の穴が、ベガル平原にあることはすでにアツキが確認している。穴の大きさは刃黒流術衆の領土よりも広いと言っていた。


それだけ大きな穴からたった百体だけ、出てきたわけではないはずだ。

大勢の魔物の多くはベガル平原や、北や南に行ったと考えられる。


ただ俺にもわからないのは、あの魔物どもは人間を食ってすぐに現れたほど、食われた人間の死肉は新鮮だった。

それと奴らは死ぬと、十数秒で微塵も残さず消えていく、それを踏まえると今までも出ていた可能性も十分ある。


一番弱い魔物は小さな裂け目から出ることがあるらしいし、今まで見つからなかったのはそういうことかもしれない」ギデオンとヨルグは話を少しずつ理解したのか、絵巻物や神典に目を向けた。



「しかし、今回はそこに書いてある天魔の激闘が起こることは確かだろう。俺とレガが隈なく読んだからそう断言できる。

魔のバベルの塔は、天の塔と逆で、塔とは名ばかりで地中深くにのびている。

天の塔の高さは想像も出来ないが、下天げてんにも届くほどだと考えられる。

魔界の穴からどれほどの数が出てきたのかは不明だが、被害はおそらく甚大だろう。


今日は皆酔っているから、応戦もできないまま、食い殺された者は多いはずだ。

俺が倒した化け物どもの腹には、人間の無残な死体が入っていた。

腹の満たされ具合から、ベガル平原の小部族のものだろうと考えられる。


ベガルは見渡す限り大平原が広がっていて、多数の部族がいる。

この化け物どもも、散り散りになったはずだ。


見渡す限り平原だから、特定されたものに狙いを定めたわけではないはずだ。東の関所に、部族が援軍を求めてきてないようだから、魔の穴は南部ではなく中部か北部に多くは向かったはずだ」


リュウガは続けて己の考察した結果を話した。


「西のドークス帝国は問題外だが、天の塔はベガル平原か、その近くに出たら最悪の展開になる。天使の思考などわからないが、見渡す限り広いし、残念ながら大部族でない限り、ほとんどの小部族はすでに魔物にられているだろう」



「魔物と違って天使は必用性がない限り自ら人間を襲わないと書かれていた。西にはドークス帝国や西の関門がある。

人間が何も知らない場合、奴らに対して攻撃を仕掛ける可能性は非常に高い。そうなればここも危険内に入るだろう。


今のうちにドークスに悟られないように、西の関門の守衛についているエルドール兵をこの主城に移動させたほうがいい、西の監視は我々がするから心配ない」


ディリオスは抜かりなくエルドール王国の守りをアツキとサツキに配備させるよう命令を出していた。


「魔のバベルが出現して、まだそれほど時間はたってないが、ベガル平原が今のところは主だが、俺たち人間たちにはすでに大被害が出ている。


仮に西門に兵がいないと気づかれても、ドークスが攻めて来るとしても出征には数日以降になる。


俺たちのようにいつでも闘える態勢を整えている訳ではないから、戦闘準備を整えるには時間が必要になる。天の塔がドークス帝国の近くに現れた場合が最悪の事態になる、ドークスは必ず攻撃するだろう。


そうなれば僅かでも人気ひとけがある西関門から、連鎖していくように天使らほぼ間違いなく、この城も攻撃を受けることになってしまう。

ドークス帝国から北部へ行くには、山岳地帯を越えないと人間はいないからな。

人気の無い西関門なら仮にドークスが攻撃したとしても天使は西関門を黙殺もくさつするはずだ」


ディリオスはいつも通り自分の意見を淡々と述べた。


「レガはどうみる?」

「私には到底わかりかねます。ただわかっているのは、この地エルドールはホワイトホルン大陸の中央にあります。

我らの技が通用する相手ならこの地は難攻不落の要害ですが……地上でない上空からの攻撃は想定外です。

速さにもよりますが、苦戦は強いられることになるかと思います。

ですが、両の塔が出現したら人間の身体能力上昇と特殊能力を身につける者も現れるとありますので、それが一番の要になるかと思います」


レガはホワイトホルンの地図を見ながら難しい顏をした。



「確かにそうだな。天の塔が出てきたら、最初に俺たちにどのような変化が現れるか知るのが大事だ。それを知るにも時間がかかるだろう。

この古絵には誰しもが知る天使の姿が描かれている。翼をもつ天使。


魔のものたちも魔界で生まれた魔物には、翼を有するやつと無いやつ以外は、元天使であり、神に負けて堕天使となった奴らだから、翼はあると考えたほうがいい。

いずれにせよ戦うことになるのは、戦闘態勢を整えている我らが一番手だ。


身体能力上昇がどれほどのものか、そして特殊な能力を身につけることを最初にモノにして、奴らと戦えるようになるのが最も大事だ」



「一番手はもうディリオスが倒したじゃないか?」

ヨルグは思考がまとまらないままのようだった。


「あの程度で一番槍とは言えないな。こっちから今はまだ手は出さないが、色々わかってきたら話はまた別になる。能力はそれぞれ個性が色濃く出るようだから、身につけるまで何とも言えないが、身体能力の上昇は天の塔が出ればすぐに感じるはずだ」ディリオスは愉しそうな顔をしていた。


 愉しそうに命を懸ける死闘に身を置く彼を見てヨルグは不思議だった。



 ディリオスは自分自身の考えで自由に動ける事が、単純に嬉しかった。

そして今まで尋常ではない鍛錬を繰り返し、人間には彼と対等に戦える者も数少なく、刃を交えることは一生涯でないであろうと思っていたからだ。



 中央に位置するエルドールは、一番危険だとディリオスは考えていた。人間にとって最悪の展開はベガル大平原に天の塔が現れる事であったが、ベガル平原に拠点を置く、多くの部族は天魔の戦いだと知る由も無い。


人間が攻撃するのは目に見えていた。その余波よははエルドール王国にも届くと彼は考えていた。


小部族はすでに全ての人間たちが、魔物の餌食になった可能性は高かったが、大部族は犠牲は出るであろうが、魔物を倒した見込みは高かった。


そのため先制攻撃してきた、今まで見たこともない魔物を倒した後に現れる、同じく見た事もない天使たちに先制攻撃を仕掛ける可能性が高いことが、ディリオスは一番気がかりだった。



その場合、魔物と天使から敵視されることになることだけは、避けなければいけないと考えていた。


あらゆる状況を熟慮しても、好戦的な部族も多いベガル大平原に天の塔が出現すれば、同じように突然現れた魔物を倒した部族は武器を持って近づくのは必然であり、武器を持つ複数の人間を前にした天使が、何もしないと考えるのはあまりにも浅はかでしかなかった。



 天のバベルの塔がどこに現れるかで、人類の戦局は大きく変わりすぎることをディリオスは誰にも言えなかった。

それを話したところでどうにも出来ないと、分かっていたからだ。



「レガ。絵巻物の通り天のバベルの塔が現出したらどうなる? お前の考えられる限りで話してみろ」若者はレガに探りを入れてみた。


「我々の寿命はせいぜい長く生きても百程度ですが、両の塔が現れれば時が感じるのを忘れるほど寿命はのびます。戦闘などでの死は別であくまでも寿命に限りですが、今の我々からすれば、不老不死に近い状態になるでしょう。

そして、その人間のあらゆる素質から身体能力上昇や特殊な能力が身につきますが、能力に関しては必ずしも身につくものではありません。

天魔との同化や、天使が人間に対してどう動くのかについては情報不足でまだ何とも言えないのが現状です」レガは己の意見を述べた。



「いいぞ、その通りだ。天の塔が現れれば人間の寿命も時が止まったようにゆっくりと進むようになるはずだ。

奴らと戦ってわかったが、トドメはしっかりめろ、心臓か頭だ。頭の場合は吹き飛ばすのが確実だ。

手強い相手なら翼を落とすのも有効だ。

俺たちは修業によって相手の強さの程はだいたい分かる。


俺が倒したのは最下位の魔物か魔族だろう、あの程度なら皆問題なく倒せるが、明らかに自分よりも格上だと感じたら、即座に逃げに徹するよう伝えておけ。先ほどから話している敵についてや、まだ話しきれてない情報も今のうちに共有し、我らも知らない情報があればいつでもいうよう皆に話してきてくれ。

頼んだぞ。


編成についてはすでに俺が考えている。

ただ、天の塔が出てくるまでは何とも言えない。天の塔が出たら編成は俺が改めて考える」


ディリオスの話が終わると、レガは一礼して仲間の元へ行った。(レガはまだ気づいてないな)ディリオスは話すべきか迷った。



 ディリオスはヨルグをみた。明らかに危惧きぐに駆られていた。それをみて悩める王子に話しかけた。


「ヨルグ。俺たちはこれでも人間の中では最強だと自負している。あの程度の魔物なら俺一人で事は足りる。異例であることは認めるが、少しは俺たちを信用してくれ。今のお前の顏を見るとロバート王は心配するぞ。


たわいもない話をして気分転換してきたらどうだ? 俺にはまだやらねばならない事があるから、時間ができたら顏を出すと伝えてくれ。礼節をわきまえているロバート王は、俺がいると知れば必ず挨拶にこようとするだろう」


 ヨルグは少し気が楽になった。「ああ、ありがとう。父と話してくるよ」王子は部屋をあとにした。



ヨルグはひんやりとした石の階段をのぼって、父である王の部屋に向かった。玉座にはもうしばらく座っていない。母である王妃ローザが春に他界して以来、ロバート王は生きる気力を失ったように、床にせっていた。



 母が逝ってから、一年がたとうとしていた。

平和な時が過ぎ、雪がゆっくりと、一粒ずつはっきりと見える緑に積もらない頃を、さらに過ぎた季節の変わり目が、気持ちの良い朝を花々が迎えていた。

 


まだ桜がそよ風と共に舞い、優しく頬を撫でる清々しい青い空が続く頃、

ロバートの妻ローザは、病魔におかされ床にせていた。

王妃が庭の桜並木を、見たいといった。

ロバートは彼女を支えて車椅子に運び、青い空と桜の平原が一望できる開き窓をあけて、後ろからローザに話しかけた。

「今日は暖かい。風も気持ちのよい日だ」



ローザはこたえた。「そうですね。またゆっくりあなたとこの満開の桜並木を歩きたいわ」

愛し合うロバートとローザは、同じ風景をみて幸せをかみしめた。

「来年もあなたと一緒にみれたらいいわね」夫は声が喉まで出かけた。



一緒に見ようの一言が、喉まで出かけた時には、涙で言葉が詰まった。

彼女の後ろで、その言葉に声をころして、心が晴れることの無い止まない涙を流した。



翌日、彼女は帰らぬ人となった。



昨日までの満開の桜が風に舞い、愛妻の好きだった桜たちに、永遠の眠りについたローザは見送られた。

この身分ではあまりない、愛のある結婚をした二人は半身を失ったように、父も床に臥せた。使用人が一礼をして、扉を開け王の部屋へ入った。



「父上。ただいま戻りました。お加減はいかがですか?」ヨルグの声に寝たきりだった父親は体を起こした。

「ご無理をなさらず横になっていてください」

ロバートは息子ヨルグをみて言った。「今は何時だ?」

ヨルグは時計に目をやった。「年の終わり前の二十三時です」

ロバートは息子ヨルグの目を見た。

「何かあったのか? 帰るには早すぎるであろう」正直者の王子ヨルグは何も真実の言葉はでなかった。

「なんでもありません。マーサはお酒に弱いので気分がすぐれぬようでしたので早めに引き上げただけです」ヨルグは意識せず目をそらしていた。

「お前はすぐ顏や態度にでる。それは非常に良き人間ではあるが、真面目な良き王になるには時には嘘も必要だ。私はもうそう長くはない。年明けに王位を譲る算段を宰相につけさせておる。帰りが早すぎるには意味があろう。何があったのだ? 何があろうと我がエルドール王国と北とは縁を絶やしてはならぬ」

命のともしびが小さくなっていく王であったがはっきりとした意識のもと力強い声で言った。

「実は、下に長子のディリオスとその配下がきております。明日にでも父上のお加減がよろしければお話にきます。

ですから今日はご安心しておやすみください」王の息子は安心させるために彼がいることを話した。

「ヨルグよ、わかっているとは思うが北の力は長子ディリオスだ。彼が長子で領主の後継者だからではない。

人間として一貫性があり己に対して厳しく智勇を持ち、それが魅力につながりそれに惹かれて優秀な者たちが集まる。

心から信頼できる人間にあの若さで成長したのは、実に気の毒には思うが幼き頃から辛い日々に悩み、そこで自分を諦める者がほとんどではあるが、リュウガは絶望に何度も何度も耐えて愚かな王や王妃、一族に屈しなかったからだ。

 一族の誇りと自らに課した厳しい約束を守る彼を慕う人間は善悪を問わず各地に大勢いる。

 あのような人間を余は他には知らん。病であろうとも挨拶はせねばならぬ」賢明な父は起き上がろうとした。

「しかし、ディリオスが父はそういうだろうと言って挨拶は明日にとの伝言をすでにもらっています」息子ヨルグは彼の言葉を伝えた。王はそれを聞き再びゆっくりと横になった。

「そう言っていたのなら明日のために今日はやすむとしよう。何かが起きているのは確かではあるが、それも明日聞くことにする」ロバートは大きく息をついた。

「ヨルグよ。余の代役ご苦労であった」そういうと目をゆっくり閉じた。


 ヨルグは自室に足を運んだ。中に入るとディリオスとギデオンがいた。

「ディリオスがきたことを伝えて、明日にでも調子が良ければ会いたいといっていたよ」その言葉を聞き北の男は頷いた。「あくまでも仮定だが、すぐに会わねばならないかもしれない」その言葉の意味がヨルグにはわからなかった。

そして夜は深まっていった。



 ディリオスはついてきた直属部隊の御庭番衆に、それぞれ指示を出していた。

刃黒流術を会得した兵の隊長はレガであるが、次期領主には、それぞれ直属部隊である御庭番衆が存在する。精鋭中の精鋭で刃黒流術を体得後、刃黒暗殺拳という徒手としゅでの必殺拳を会得できた者のみで構成される、領主や後継者にはそれぞれ最大人数は精鋭百人まで、従えることが出来た。領主になると近衛兵と呼び名は変わる。


現在のディリオスの御庭番衆の数は百七十二名。

七十二名は領主の近衛兵であったものたちだった。

領主の質にもよるが、刃黒流術衆で満足出来ない者が、更に強さの高みを望む者が御庭番衆になる。


当然ではあるが資質が足りず、涙を流して諦める人数のほうが遥かに多かった。

七十二名しかいなかったのは領主の資質が大きく影響を与えるが、仕える主が変わるごとに増減する。城内広場ではディリオスが御庭番衆筆頭であるアツキとサツキそれぞれに、刃黒流術衆八十名を指揮するよう命じて、ディリオスは自らにギデオンを含めた十名を、連絡係と戦闘補佐兼任としてつけた。そして皆に現状把握と、改めて今後どうするか話すため刃黒流術衆を広場に集めた。



御庭番衆となったギデオンと広場まで歩きながら、少し話しておこうと思い、話をふった。

「ギデオン。お前とは父との怨恨もあり、あまり接したことはなかったが相当強いな」彼はギデオンに話しかけた。


「ディリオスさまのほうが遥かにお強いのはお分かりのはずですが……」

「ああ。俺は強い。だが、俺が強いと思えるほど、強い奴はこの世界には少ない。我らの誇りを守るために想像を絶する戦いになるだろうが、期待させてもらうぞ」

ギデオンは笑みを浮かべて頷いた。


 ディリオスは命令を出すが特に細かい指示は出さない、それだけ皆を信頼している証としていた。そして闘争は戦っている本人が一番分かっていることであり、いずこかの領主のように、最前線に出ることなく命令だけ出すのを嫌っていた。

そのディリオスが初めて厳命を出した。


「死ぬな」


 皆、鳥肌がたった。彼が死ぬなと厳命するということは、敵が強いことを意味したからだ。あらゆる戦いにも即対応可能な人類の最強の部隊である自負は、皆が持っていた。彼の言葉だからこそ、かれらの心と顔つきが変わった。

レガには残りの刃黒流術衆約千三百名を、主要任務である防衛を任せて自らは攻勢部隊の要とした。


 まるでこれから何かが起こることを知っているように、ディリオスは徹底した指示を出していた。

当然知っているからこそ、布石も幾重にもレガにひかせた。

その光景をみてヨルグはあまりにも信じ難い事実が本当に起こるのだと、自分一人覚悟が出来ていないことを恥じた。


しかし、知らないことを知っているからこその、布石だからこそ、幾重にも張っていた。

それを知るのはディリオスとレガとギデオン、アツキ、サツキだけだった。

ありとあらゆる状況に対応できるよう、ディリオスが全て考案した。


自分たちが死ぬのは、まだまだ先にならないといけないと分かっていたからだ。

真の力に目覚めてからが、本当の戦いになると彼は思っていた。


だからこそ厳命も出した。布石も誰一人死なせないためだけに、幾重にも仕掛けた。

北の者たちである黒装束の者たちが、これだけ勢揃いしているのは異例であることから、事の真実味が増してきた。


ディリオスがヨルグの部屋に戻ってきた。

「ヨルグ。エルドールの全兵士と家族、民たちを城内に入れて何が起きても騒がないよう厳命してくれ、入りきれない場合は西の関門内部に入らせてくれ」王子は黙ってうなずいた。

 

いつもの友であるはずのディリオスはそこにいなかった。彼の顔つきは、異名通り黒い武神と呼ばれる普段は絶対に見せない顏をしていた。

彼が部屋から出たあと、恐ろしさと息苦しさから解放されたように、汗がどっと噴き出した。


「俺たちは闇に入るが、何が起ころうと対処するから大丈夫だ。レガの采配に任せるが出来る限り仲間を死なせるな。これはあくまでも前哨戦だ。天の塔が現れても、騒がず、気配を消して己の身体能力上昇状態や特殊な能力の事に集中して絶対に殺意を出すな。


特殊な能力の兆候がある場合はエルドール城に戻り、己の能力に集中しろ。この先に本当の戦いが待っている。この城にはレガが約千三百の手練れをつれて、防衛だけに集中する。


御庭番衆が逃げてきたら刃黒流術衆で追ってきた奴らだけを排除しろ。レガ、エルドールの事は任せたぞ」

青年はそういうと黒いフードをかぶり口元を隠して冷たい闇にとけていった。



しばらくしてエルドールから人の気配は消えた。時間ときは午前零時をつげようとしていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る