第13話 戦果


誰も大きな傷を負うことなく勝利を収めたハナ達、

4人は各々に顔を見合わせ笑顔で頷きあった。


パチパチパチ……

マキシ班長が物陰から拍手しながら現れた。


「見事だったよ」

マキシ班長も満足そうに4人を見回した。


戦闘結果については山小屋で話そうということになり、

一行はひとまず拠点である山小屋へと向かった……



野外演習用に設営された山小屋は木造で、これといった特徴さえ無いものの、

手入れが行き届いていて、清潔な空間だった。


お手洗いや更衣室といった最低限の部屋が用意されており、

それらに準するドアが数戸、あとは板張りののっぺりとした室内。


(寝るときはここに皆で雑魚寝かな……)


「さて、戦果を話し合おう、反省会議とも言うね」

マキシ班長が”座って”と手で合図しながら、その場に腰を下ろした。


皆が座るのを見計らって、マキシ班長が話し始めた・・・・・


「まず、作戦会議にないスタートを切ったこと、これはダメだったね、

 全体の意思疎通に関わるし、結果が良ければいいというものではない、

 せっかくの作戦会議が水の泡だ。

 次に倒す順番だが、敵視を取れていたとはいえ、

 まずは近い敵から確実に倒す方が盾役の負担を減らせたね。

 ラズ君はなにより、いくら敵視を取るためとはいえ、

 早々に自分の武器を投げるなんて、無謀すぎる。

 キリ君は自分の攻撃に自信があるのあろうけど、大技すぎる。

 アニィは素晴らしい命中だったけど、敵視が来るかもしれないリスクがあったね。

 そして、ハナさん……正直、魔法力が低い」


(ガーーーーーン!)

大岩を真上から落とされたような衝撃がのしかかった。


「勝ったんだ、そこまで言われる程ではない」

キリさんが班長を睨むように反論する。


「いや、もっともだよ……僕の”剣投げ”は無謀だった・・・・・」

素直に非を認めるラズさん。


「……」

アニィちゃんは特に何も言わず班長の方をずっと見ている。

(マキシさんの連れてきた子だし、彼への信頼があっての事なのかな……)


「うん、そうだね、勝った。

 だからこそ、次はもっと上手くやれるようにアドバイスしたいんだよ」

班長はさらに話をつづけた。

「作戦会議ではあくまでラズ君が敵視を取り、キリ君が仕留める。

 そういう連携だったはずだ。

 当初の作戦と、僕の見立てで今回の戦いを整理するならば、

 まずは石でもなんでも投げつけてラズ君が注意を引き、

 最初に近づいてきた敵をキリ君とアニィで対処、

 すぐに2体目が来るようならライトと弓で応戦、

 囲まれないように確実に1体づつ倒していく。

 多分、この方がラズ君の負担も少なくすんだし、

 4人の連携もより一層際立ってただろうね」


(スガーーーーン!)

今度は稲光が脳天に直撃したような気分だった。

確かにその方が事前の作戦通りに進んでると言える。


「だが、ライトの目くらましも効いていた」

なおもキリさんは班長に食ってかかる。


マキシ班長の口元が少しだけ”ニヤッ”としたように見えた

「ん~、そこなんだけどね。ハナさん、ライトは1個しか出せないのかい?」


「え? ……いえ、2個まで同時に出せます」

私は突然の振りに素直に答えた。


「なっ?!」

キリさんが驚愕の表情で私を見る。


(え、え? なにこの展開……)


「そう、つまり、目くらましも2体同時か、

 もしくは1体に対してより効果的に放てた可能性があるわけだよね」

班長はどこかドヤ顔っぽい。

畳みかけるように話をつづける班長、

「キリ君の一撃が強いのは解った、だけどね、

 あの場合、小技で翻弄して足止めしていたなら、

 アニィはもっと弓を引き絞って強力な一撃を放てただろう。

 敵視はラズ君が取り、足止めをキリ君が務め、

 アニィが後方から強撃で仕留める。

 これで、ラズ君の損傷も少なく、途中でハナさんのヒールも要らない。

 それが可能だったとは思わないかい?」


4人の候補生達は一同唖然とした……


たった1戦観ただけで、ここまで分析できるなんて、

それも今朝初めて会って組んだばかりのメンバーなのに。


「もっと作戦会議で、自分たちが”できること””できないこと”を

 話し合えれば100点だったね」


「ぐっ・・・・・」

キリは歯を食いしばった……


ラズさんも反省しているようで、うつむいたままだ。


「だけど、誰かと組んだり、なにより初戦だった者もいる、

 今日はよくやったよ、明日の朝まで自分たちで考えて、

 それまでは自由行動にする。 解散!」

そう言い残し、マキシ班長は山小屋を出て行った……


空はうっすら赤く染まりはじめ、夕焼けが近い、

残された4人に、しばし沈黙の時間が流れた……



続く。

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