第12話 初戦


「どうやら作戦会議は終わったみたいだね」

マキシ班長が、満足そうに私たちに問いかけた。


「はい! やってみます!」

頼りがいのあるいい返事をしたのは、やはりラズさん。


「うん、いい返事だね。この先に準備した群れが居るのは話したね。」

頷きながら続けるマキシ班長。

「初心者でも戦えるような弱小モンスターですが、

 群れですから、十分に注意してね」


「はい!」

この返事もラズさん。


(何か言おうと心掛けないと、全部ラズさんが話してしまいそうだ……)


「……倒せばいいだけの話だ、行くぞ」

出発の口火を切ったのはキリさんだった。


「ぅ、うん!」

私も生唾を飲みながら、苦し紛れの返事をした。

「……」

アニィちゃんは黙って頷いた。



身をかがめ、ゆっくりと木や茂みに隠れながら、

魔物との距離を取る……。


(魔物は……トレントかな……3体だね)

私たちにだけ聞こえるように、ひそひそ声で話すラズさん。


(ハナ、一番遠いやつにライトをぶつけろ)

キリさんも小さく話す。


(え?! 私?? 作戦会議と違くない?)

私は指で自分を刺して、首をかしげた……。


(うん、いい戦略だね、それで行こう。

 ハナさん、タイミングは任せる、合わせて僕が飛び出すよ)

と、ラズさんも乗り気だ。


(うひゃぁ~、私が開始の合図役ってわけね……)

冷や汗が頬をつたう……。

私はゆっくりと胸元に意識を集中して、

”ライト”を発生させた。


”ライト”を飛ばすのは、大して難しいことではない。

きっちり相手を見据えて、ボールを投げるようなイメージ。

あくまでイメージで飛ばせるから、

本物のボールを投げるより、楽なのだ。


私が”ライト”の準備を整えたのを見て、

ラズさん、キリさんが剣を抜いた。

アニィちゃんも弓をゆっくりと構える。


(行きます)

ハナは言葉と共に、立ち上がり、手を振り上げて、

”ライト”を一番遠いトレント目掛けて放った!


小さい魔法ということもあるが、単なる”明かり”の玉は

音もなく一直線に飛び、ボンっ!と命中し、敵の目元で弾けた!

トレント達は慌てて周囲を見渡した。

そこへ、ラズさんが飛び出した!


「うおぉぉ!」

鋭く強い雄たけびのラズさん。

近いトレントに確実に攻撃を当てて、注意を引く!


一番遠いトレントは”ライト”が命中し、目が眩んでいるようだ。

”明かり”の魔法だから、追加効果が出てくれた。


真ん中のトレントがいきり立って、ラズさんに向かう!

不思議な籠手を着けているけど、盾を持たないラズさん、

2:1では分が悪くなる!


次の瞬間、私の耳元で風を切る音がした!

カンっ!と矢が的に当たる音が響く!

アニィちゃんの矢が真ん中のトレントに命中し、動きが止まった。


すかさず身を潜めていたキリさんが、横の茂みから飛び出し、

勢いそのままに矢の刺さったトレントを薙ぎ払った!


『ギィ!!』

断末魔と共に、朽ちた木が砕けるが如く、まずは1体を倒した!


一番遠かったトレントは目くらましが解けて、

1体目を仕留めたキリさんを睨んだ!


「させない!」

ラズさんが先頭のトレントを引き付けながら、

なんと、右手の剣を遠い方のトレントに投げつけた!


(えぇ~! 武器投げちゃうの?!)

私は思わず心の中で叫んだ。


動きながらのため、剣はトレントをかすめただけで、

ダメージはほとんど与えられていない。


だが、注意を引きには十分だった!


カンっ!と再び気持ちのいい音が鳴り響く。

矢は遠いトレントに見事に命中!

敵視を逸らされ、動きが一瞬鈍った所を、

アニィちゃんは見逃さなかった!


その間に足場を固めたキリさんが、再び斬り込む!

『ギャン!』

2体目のトレントも砕け散る。


残るは先頭だったトレントのみ、

いまだラズさんが剣を失いながらも、注意を引き続けていた。


(盾もないのに、いままでどうやって?)

答えは簡単だった。


左手の不思議な籠手で戦っていたのだ。

つまり、盾のように籠手で攻撃を受け止め、

盾より動きやすく、攻撃にも使えるのだ。


”セオリー通り”などというセリフを言っていたが、

本人が一番イレギュラーなスタイルのようだ。


だが、ダメージは少しづつ蓄積していた。

顔は強張り、通常装備でしかない右手からは、血が流れ出ている。


”ヒール”

さっきと同じように回復魔法をラズさん目掛けて放つ!


右手の流血が止まった。

「ありがと、ハナさん!」

ラズさんの目に生気が戻る。


回復の勢いのまま、左の籠手でトレントを殴りつける!

鈍い音と共にトレントの動きが止まった……


『ガッ!』

直後にキリさんの渾身の一閃で、トレントが砕け散った!



私たちは、初戦を輝かしい連携で勝利した。



続く。

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