第11話 作戦会議


野外訓練のしおりによれば、今回の日程は2泊3日。


王都より北東の山間部にある、山小屋を拠点として訓練を行うと書いてあった。


細かい指示は書いていない。

臨機応変さも、冒険者の素質として問われるからだろう……


春らしい気持ちのいい風が吹く、よく晴れた空の下、

マキシ班長がアタシやアニィちゃんの歩幅に合わせてくれているのか、

順調に山間部へと歩を進めていた。


隊列は班長が指示した通りで、

先頭ラズさん、次にキリさん、後ろにアタシ、隣り合うようにアニィちゃん。


少し木が多くなってきて、どうやら山間の林に入った頃だった。

マキシ班長がおもむろに口を開く、

「事前に調査して、君たちに初戦の相手、つまり魔物を用意しておいた、

 この中に戦闘経験のある者はいるかな?」


(いきなり戦闘ぉ?!)

ハナの心臓は爆発寸前だ。


すぐ前を歩くキリさんが、静かに手を挙げた。


「うむ……気負いせずに挑んでもらいたい。

 なぁに、強い魔物ではないから安心してくれ」

笑顔で諭す班長だったが、アタシとアニィちゃんも緊張で顔が強張っていた。


(キリさんは魔物と戦ったことがあるんだ……凄いなぁ)


それから坂道になり、ゆっくりと登る一行、そこで班長が足を止めた。


「この先に準備しておいた魔物の群れがいる。

 少し時間をあげるから、作戦会議をしておいてくれ」

そう言うと班長は近場の岩に腰を掛けて、手持ちの水筒を飲み始めた。


(作戦って……班長が決めてくれないなら、誰かリーダーが必要にならない……?)

不安そうに3人を見渡すハナ。


経験があっても、あの無口なキリさんが作戦を立ててくれるとは思えなかった。


「じゃ、じゃあ、僕からいいかな?」

まず口を開いたのはラズさん。


「ぁ、はい。ラズさん」

とっさに返事をしたハナ。


「まずは各々の役割を確認したいんだ、僕はナイト志望で盾役をやれるんだけど、

 キリ君はどんなスタイルなんだい?」

”優等生”といった仕切りで話し始めるラズ。


「剣士……とどめを刺すなら任せてもらおう……」

ちょっと小さめの声だけど、喋った!


「なるほど、心強いよ。経験者みたいだし、まず僕が敵視を取るから、

 あとはお願いする形で。あとの二人は……まずハナさん?」

(話し上手って感じで、仕切りも上手いなぁ~ラズさん)

おぉっと、感心してる場合じゃない!


「えっと、治癒師……見習いです。”ライト”が使えるので、明かりや、

 ちょっとした攻撃にも使えます……魔物に使ったことは無いけど……」

ハナがこの日までに覚えれた魔法はたったの二つ、

一つは元々使える”ヒール”(かすり傷を治す程度)と、

”ライト”神聖魔法の初歩であり、たいまつ代わりになる光を出す魔法で、

一応は魔物にぶつけることで攻撃にも使える。


「ふむふむ、初戦は班長さんも言ったように、強くはないと思うから、

 冷静に僕たちの回復に専念してもらえると助かるよ、あと弓の君は?」

(そうか、ラズさんは最後に来たから、皆の名前を覚えきれてないんだ……)


「アニィちゃんです。ラズさん」

ここもアタシが割って入った。


「あぁ、ごめん。アニィ。弓士でいいんだよね?」

(素直に謝れるし、やっぱり育ちがいいんだろうな……)


「ぁ……はい……手……挙げなかったけど……戦ったこと……あります……」

ゆっくりでボソボソと喋るアニィ。


「え?! アニィちゃんも経験者なの!!」

(こんなに小さい子でも、もう魔物と……)

あ、アタシも背は小さいけど……


皆の話を聞いて、ラズは少し考えこみ、やがて話し始めた。


「ここはやっぱりセオリー通りがよさそうだね、

 まずは僕が魔物の注意を引いて、キリとアニィが攻撃しやすい方に向かせるから、

 そこを二人で叩いてほしい。ハナは皆をよく見て、治癒魔法を。」

(おぉ、授業で習った”役割分担”【ロール】ってやつね!)


当たり前のことだが、授業で教わった単語が出てくるのが、新鮮でワクワクした。


(でも、アタシの治癒で回復しきれない大怪我を誰かが負ったらどうしよう……)


すると、ずっと黙っていたキリが口を開く、

「3人が攻撃系だ、ハナの負担が大きすぎる。ラズは徹底防御でダメージを抑えろ、

 アニィは魔物に絶対追いつかれない距離から攻撃だ、

 俺は自分でなんとかする。」

冷静だが、自信たっぷりに言い放つ。


(なんか凄い、経験者だと、説得力が違う)

ハナは皆の話し合いに、ついボォっと聞いているだけになっていた。


それに気づいたキリが、

「何をボォっとしてる。お前はパーティの生命線、要だぞ」


(え?! そうなの??)

急に話を振られて、キョトンとしてしまった。


「……回復が遅れれば、攻撃の手が止まる、もっと悪ければ全滅だ。」

ため息交じりにキリが言う。


”全滅”

一気に現実味を帯びた言葉が飛んできた。


訓練だからと、甘く見ていたハナの心を一刀両断された言葉だった。

青ざめて下を向くハナ……


すると、アニィがそっと手を取ってくれた

「大丈夫……」


透き通るような青い瞳が、ハナに安心感を与えてくれた。


「う、うん。アタシ頑張ります!」

(作戦会議だけで落ち込んでられない!)


「いい答えだね。それじゃ、決まりだ」

ラズは一転笑顔で皆を見渡して、

「僕らパーティの初戦だ、気を引き締めていこう!」


「はい!」

と張り切って返事するハナ。

「……ハイ」

小さく頷くアニィ。

「……」

また無口になるキリ。


(本当に大丈夫かな、このパーティ……)

一部の不安はあるけれど、作戦会議は無事終わった……



続く。

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