第2話 おとぎ話

それは、誰もが知るおとぎの話……



「千年ほどの大昔……今はおとぎのものがたり。


とある小高い山に、それはそれは立派なお城がございました。


王様はとても寛大で、国民の信頼を一心に浴びておられました。


そんな王様には、一人のうら若き王女様がいらしたのです。


名は「オヴェリア」、小柄ながらも端正な面持ちは国民のあこがれです。


しかし、融和を重んじるこの王国にも、いつしか魔の手が迫っていました。


隣国とは対話を通じて平和を獲得してきたこの王国には、

魔族の攻撃に成す術がありません。


いよいよ魔の手がお城へ伸びようとしたとき、

魔族から一つの提案がなされました。それは……


”王女を差し出すならば、かの国を避けてやろう”

というものだったのです。


誰よりも王女を愛する王様は、悩みました。

「国」か「愛する娘」か……


城壁へ押し寄せる魔物たちに対して、王女は決断します。


「ワタクシの命で国が救われるのならば、この命いくらでも差し出しましょう」と。


魔族はその言葉を聞いて、一瞬の油断をしてしまいます。

王女を迎えようと魔族が一人、隊を離れ飛び出します。

それが王女の本当の狙いでした。


魔族が隊を離れ、魔物が孤立し、統率が行き届かない状況が生まれた瞬間を、

王女は逃がしませんでした。そこへ決死の大魔法を繰り出すのです。


「これ以上好きにはさせません。地の果てへとお戻りなさい!」


魂の輝きで光となった王女が放った大魔法は

国民にも、魔族にも犠牲を欠く事無く、大軍隊を退けることに成功しました。


目先まで迫っていた魔物が消えうせ、大喜びの国民たち、

しかし、魔物達が去った城壁の傍には一人の小さな遺体があったのです。


事態を察した王様が遺体に近寄り、泣き崩れました。


そこには命の光を燃やし、大魔法を使って息絶えた王女が眠っていたのです。



かくして、ひとときの平和を取り戻した王国でしたが、

魔族を遠ざけるも、寵愛の象徴の王女を失った王国は、

この代をもって滅んでしまいました……」


これは、誰もが知るおとぎ話……


”聖女オヴェリアの奇跡”の一説より抜粋。



続く。

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