このハナ咲くや

笠置エナ

序章

第1話 少女ハナ


王都西地区、小さな湖のほとり、

”お気に入り”と親しむ場所で少女が一人、

物思いに浸っていた……


「アタシにも誰かの役に立てる事があればいいのに……」


王立訓練学校に通う16歳のハナは、

漠然とした想いの中、日々を過ごしていた。


少女の両親は既になく、父方のお婆さんに育てられた。

母は元々病弱であったため、ハナを産んですぐに亡くなっており、

父は10余年前の”魔族による大進行”の時に行方不明のままだ。


”両親”という支えのない子供時代は、非常に泣き虫だった。

そんなハナをお婆さんは、優しく抱き寄せ頭を撫でてくれていた。


いつからだっただろう、少女に”誰かを救いたい”という想いが溢れてきたのは……



15歳、中等部卒業後、ハナは幼馴染のヒロと共に訓練学校の門を叩いた。

ヒロは両親が営む”冒険者斡旋所”を継ぐための選択だったが、

ハナはいつの日か”冒険者”になるべくその道を選んでいた。


それから1年、今までお婆さんの愛情だけで箱入りのように育った少女には

当然、冒険者としての意識・資質があるわけではなく、

突きつけられたのは厳しい現実だった。


はびこる魔物と戦い、人々を守り、死の覚悟がいる職業、それが冒険者。


泣き虫だったが故の負けず嫌いはあるものの、

ハナには決定的に足りないものがあった。それは、戦闘能力。


木刀は振れても、剣を振るえるほどの筋力はなく、

魔法といえば、小さな擦り傷を治す程度の治癒能力しかなかった。


職業適性”無し”、それが今のハナに突きつけられた現実であった……


素質の無さを痛感し、悲嘆に暮れて、お気に入りの湖畔で一人ため息をつく……


「落第を言い渡されたわけじゃない、まだアタシはやれる、やれることがあるはず!」

持ち前の負けず嫌いだけが、少女を奮い立たせていたのだった……



続く。

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