第十九話 強キャラ多々良くん
ジリリリリリリリリッ!
目覚ましの大きな音に驚き目を覚ます。
俺は嫌々目を開け時計を止める。時間を見てみると、時計の針は7時ちょうどを指していた。
着替えに5分、朝ごはんを食べるのに10分、歯を磨くのに5分、学校に向かうのに30分。
8時10分の朝礼へ遅れないように登校するには、最適な時間と言えるだろう。
「はぁ……ねみぃ……」
俺は愛しい布団の中から這い出ると制服へと着替える。
眠い目を擦りながら居間へ向かうと、そこには静かに朝ご飯を食べる妹の姿が見えた。
半熟の目玉焼きに焼いたソーセージ。小さなサラダに味噌汁と少量のご飯。
もしレストランに[朝食]と言う名のメニューがあったとしたら、きっとこのラインナップを思い浮かべるだろう。
「おはよう、桜」
「……………」
反抗期の妹に朝の挨拶をするが当然返事は帰ってこない。
だが俺はそんな事気にもせず、自分に用意された朝ご飯へと目を落とした。
つるりとした白い表面が眩しい、一つの茹でられた卵。それが俺に用意されたbreakfastだ。
「………そろそろ俺も反抗期迎えてもいいか?」
「……もし自分の置かれている立場に不満があるのなら、さっさと楽ねぇに謝りなよ」
レタスをもそもそと食べる妹がそんな事を言ってくる。
俺と楽は家族のような仲である。
つまりそれは、妹や姉にとっても家族同然の仲だということだ。
あのデート後、どうやら楽が二人に事の顛末を愚痴ったらしい。
その日以降、俺は姉と妹からとても冷たい目で見られ続けていた。
「だからあれは、クラスメイトによる妨害のせいだと何度言ったら…」
「嘘つき!どこの世界にたった一人のデートを妨害するために全員が遊園地で働いてくるクラスがあるのよ!」
妹がソーセージを箸で刺しながら声を荒げる。
すみません、そんなクラスがこの世界に存在するんです。花団高校の一年B組って言うんですけど……。
「どーーせ、直前になって告白するのが怖くなったんでしょ?へたれなおにぃらしいよ」
「そ、そんな事ない!俺だって自分を奮い立てて告白しようとしたさ!」
「それで?スパッツが好きだと告白したと?ばっっっかじゃないの?」
「う、うぐぅ……」
妹にここまで言われるだなんて屈辱的だが、事実なのだから仕方のない。
その後も、俺は妹にこれでもかと罵倒され続けた。俺はそれを無心で聞き、朝ご飯の茹で卵をもそもそと食べるのだった。
「と言う訳で俺、今日お腹空きまくってるんだよ」
「…○していいですか?」
細やかな日常会話をしていたつもりだが、突然聞いていた白井に殺害予告をされてしまう。
「どうした白井?冷静なお前らしくないじゃないか」
「すみません、感情が先走ってしまいました…。ンンッ、ふぅ…、よし!○していいでしょうか?」
「変わってない変わってない!本当にどうした?野外撮影会をしているコスプレイヤーを見つけた李みたいになってるぞ」
「すみませんすみません!つい罵倒してくれる妹がいる事を自慢する多々良君に対する殺意が先走ってしまいました」
白井がそんな事を言いながらヘコヘコと頭を下げてくる。
「罵倒してくる妹を自慢って……言っておくがな、妹って言うのはお前らが思っているほど良いものじゃないんだぞ?」
「ふふふ、多々良君。妹を持つ兄の殆どがそう言うのです……が。男ならば、罵倒してくる妹の一つや二つ、憧れるものなのです!」
白井は拳を強く握り、いつもの演説風力説を繰り出してくる。
「俺一人っ子だから兄弟自体が羨ましい」
「罵倒してくれる妹かぁ……クリスマスに何度サンタさんに頼んだことか……」
「そもそも妹と一緒に朝ご飯を食べていることが妬ましい」
そんな白井の言葉を聞いた周りにいたクラスメイト達が次々と欲望を口に出す。
こ、こいつら……。
「ふぅ……ですがまあ、妹がいるだけで○すのは少しやりすぎですね。まあもし酔っ払ったらだる絡みしてくる姉も居る、と言うのなら極刑ですけどねw」
「……え?うちの姉、よく酔っ払って俺の布団に入ってきたりするんだが?」
「……………………」
白井が無言でその場に立ち上がる。
そしてそれに呼応するように、周りにいたクラスメイト達もが無言で立ち上がった。
「……手伝おうか?白井」
「昨日研いどいて……良かった」
「ふぅ……妬ましいのを超えて、自分が嫌になって来たぜ」
「………皆さん、まもなく授業が始まりますので、手短に済ませましょう」
ぼきぼきと指を鳴らし準備運動を始めるクラスメイト達。
なるほど、大体察した。
ならば俺が今取れる行動はただ一つ!
「逃げるんだよぉぉぉぉぉ!」
「「「「羨ましねぇぇぇぇ!」」」」
男子校に行ったので幼馴染に告白しようと思います 盆回し @himazin_EX
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。男子校に行ったので幼馴染に告白しようと思いますの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます