第十八話 放課後の一存


 「王様だーれだ!」


 そんな李の掛け声と共に、俺は紙コップに入った割り箸を一本取る。

 割り箸には数字の1が書かれており、俺はそれを見て深く肩を落とした。


 「オレが王様だー!」

 「李、なるべく穏やかな命令で頼む」


 俺は手を合わせ李に懇願する。

 すると李は王と書かれた割り箸をこちらに見せつけ、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ命令してきた。


 「それじゃあねー…。一番の人は廊下に出て「ギャルのプラジャーをおくれ!」と叫ぶ」

 「うぉぉぉ、覚えてろー!」


 俺は李を睨みながら廊下に出ると、李に言われた通りの言葉を叫んだ。


 「ギャルのブラジャーをおくれ!」

 「はっはっは、無様だねぇ花道」


 教室の中から李の大きな笑い声が聞こえてくる。

 俺はそんな李をまた睨みながら教室に戻り、顔を真っ赤にして席に着いた。


 「………流石に二人だけで王様ゲームをやるのは無理があるな」

 「………だよねぇ」


 夕日が差し込みオレンジ色に染まった放課後の教室には、俺と李の二人だけが残っていた。

 

 「王様ゲームセットを作ったから遊びたかったんだが…まさか今日に限って銀杏も闇野もいないとはな」

 「そうだ花道。次に教室に入ってきた人物をゲームに誘おうよ。拒否してきたら無理矢理にでも」

 「……それ、採用」


 俺は李の提案をのみ、二人で教室の扉を虎視眈々と見張ることにした。

 するとタイミング良く、教室の扉がゆっくりと開きだした。

 

 さあ、犠牲者第一号は誰だ?


 「……おや?李君と多々良君、まだ教室に残っていたのですか?」

 ((青先生キターーーー))


 俺と李は顔を引き攣らせる。

 なんと入って来たのは俺たちのクラス担任である、佐々木青洲先生だった。


 入って来た人物をゲームに誘うと言ったが……仕方ない。

 ここは丁重にお帰り頂くことに……。

 

 「あ、あの青先生。もし良かったらオレ達と王様ゲームしませんか?」


 李ーー!おい李おい李!

 何で誘った?何で誘った?

 別に他の人物を待てばいいだろ?

 お前そんなに王様ゲームやりたいのかよ!


 「王様ゲームですか?まあ…20分程度なら良いですよ」

 

 それで青先生もやるんだ。

 俺、今から担任の先生と王様ゲームするんだ。


 「それでは多々良君、隣失礼しますね」


 青先生が俺の隣に座る。

 確かにだらしない先生だとは思っていたが。

 いいんすか?先生が王様ゲームして?


 「じゃあいきますよ。王様だーれだ!」


 李の掛け声と共に、俺は紙コップに入った3本の割り箸のうち一本を取る。

 割り箸にはまた1番の数字が書かれていた。


 「おや、どうやら私が王様みたいですね」


 青先生が冷静に王と書かれた割り箸を見せてくる。


 「それじゃあ先生。命令をお願いします」

 「命令ですか……わかりました。それでは1番の人は……」


 俺の番号が呼ばれる。

 だがまあ、大人の青先生だったらそこまで変な命令をしないだろう…。


 「1番の人は先生の結婚相手を探してきてください」

 「あの…あの先生…」

 「家事ができてあまり騒がしくなくて…あとできれば実家がお金持ちの人でお願いします」

 「すみません先生。確かに王様の命令は絶対かもしれませんが、俺は○龍じゃないので無理なものは無理です」


 俺は真顔で残念な事実を先生へと告げる。

 だが青先生は俺の発言に少し眉間に皺を寄せ、強めの口調で叱ってきた。


 「多々良君、何故行動を起こす前からできないと言うのですか。若者なら少しは動いたり努力をしてみてはどうですか」

 「先生それブーメランです。何も行動せず何も努力をしなかったから、先生は未だに独身なのだと思います」

 「そんなことありません。惚れ薬を作るために化学の勉強をしたから、私は今ここで化学教師をしているんです」

 「斜め上の方向に努力しちゃったかー。何故近道を作るためにそんな遠回りをするんですか」


 そんな俺の問いに、青先生は手を顎にやり、深く考え始めた。


 「そうです…ね。確かに惚れ薬を飲ませて結婚するのは、少し卑怯かもしれませんね」

 「気づいてくれましたか青先生。大丈夫です。今からでも間に合います。頑張って結婚相手を探しましょう!」

 「わかりました。それでは今度から惚れ薬の研究は諦め……頑張って結婚相手を『創る』ことにしますね」

 「漢字がちがぁぁぁぁぁう!」


 俺はツッコミのあまり机に頭を叩きつける。

 そんな俺のことを李と青先生は気にも留めず、何事もなく会話を続けた。


 「それで青先生。王様の命令は何にしますか?」

 「そうですね。多々良君が結婚相手を見つけてくれないのでしたら……」


 俺はよろよろと顔を上げる。

 すると先生はそんな俺に真顔で王と書かれた割り箸を見せつけ、命令を下してきた。


 「一番の多々良君。廊下に行って「ギャルのスパッツをおくれ!」と大声で三回叫んできてください」

 「うわぁぁぁぁぁん」


 俺は泣きながら廊下へと走る。


 後ろからは李の大きな笑い声が聞こえる。

 少し振り返ってみると、青先生も声を出して笑ってはいないものの、こちらを見てニヤニヤと笑っていた。


 やっぱりこのクラス担任敵だ!


 「やっぱり無様だなぁ」

 「確かこれは滑稽ですね」

 「くそぉーーー!ギャルのスパッツをおくれーーーーーー!」


 そんな俺の魂の叫び声が、人の少なくなった花団高校に三度響き渡った。

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