第十六話 このイラストには問題がある!


 ある日の放課後。

 俺と李は教室に意味もなく残り、二人して何をすることなく暇を持て余していた。

 

 「なあ花道」

 「なんだ李?」


 読んでいた小説が区切りの良いところになったのか、李は小説を閉じ、こちらへ話しかけて来た。


 「オレ考えたんだけど、この高校には可愛さが足りないと思うんだ」


 何を言い出すのかと思ったら、本当に何を言っているんだこいつは?


 「…別に可愛さなんて必須じゃあないだろ。そもそもここは男子校、可愛さとは正反対に位置する存在だぞ」

 「だからこそだよ。あえて可愛いさを作って、ギャップ萌えを狙うんだ。そうすればきっと「は?あんた花団の生徒なの?ウケるw」何て言われずに済むと思うんだよ」

 「うちの高校の評判、ひどいからなぁ。ここらへんの女子高生、花団高校から半径50m圏内には入らないらしいぞ」

 「それってもしかしてあの子情報?」

 「あぁ…お前らのせいで嫌われた、あの子情報だよ…」


 俺は静かに拳を握る。

 あのデート以来、朝起こしに来てくれないほど嫌われてしまった。この恨みは末代まで持っていくつもりだ。


 そんな俺の様子を見て李はまずいと思ったのか、慌てて鞄からノートを出して来た。


 「は、話を戻すと、この高校にゆるキャラなんかを考えれば可愛くなるかなと思って、オレ、書いて来ました!」

 「暇人過ぎるだろお前…。まあ良い、それなら見せてくれよ」

 「へへへ、所で花道。ゆるキャラに大切なものって何だと思う?」


 李からの突然の問題に、俺は少し頭を傾け考える。

 

 「…それこそ可愛さ?」

 「まあ近いと言えば近い。正解はゆるさ、つまり丸みだよ。丸というのは人を和ませるものなんだ」

 

 なるほどと頷く。


 確かに、よく目にするゆるキャラは丸っこいものが多い。

 どうやらこの暇人、曲がりなりにも勉強をして来たらしい。


 「そこで考えたのが!丸みを意識しまくったこのキャラ!その名も」

 「待て李!ちょっとそのキャラ、こちらへ静かに見せてみろ」

 「ど、どうした花道。いきなり息を荒げて」


 李からノートを受け取る。

 するとそこには丸が三つ並べられ、まるでネズミのような形をしたキャラが描かれていた。


 「これはな…あかんのや」

 「な、何でだよ!丸みを意識した完璧なゆるキャラじゃないか!ちなみに名前は三つの丸だからミッ」

 「やめろバカ!死にたいのか!」


 こいつ…世界共通のタブーを知らないのか?


 俺があまりにも批判するので、李は不機嫌そうに顔を膨らませる。


 「何だよ人がせっかく考えたキャラなのに…じゃあ花道はどんなキャラが良いって言うんだよ」

 「それこそ花のキャラとか団子のキャラで良いだろう。もっとうちの高校の特徴を生かせよ」

 「た、確かにその通りだ。そうだなぁ…それじゃあ…」


 李は何か考えついたのか、ノートへと何かを描き始めた。

 ふぅ…何とか一命は取り留めたぞ。


 「出来た!見てくれよ花道!傑作だぞ」

 「お、どれどれ?」


 ノートを覗いてみる。

 それにしてもこいつ、この短時間でキャラを考えつくなんてもしかして才能があるんじゃないか?


 「男子校特有の野獣らしさを取り入れて熊のキャラに。でも可愛さも加えて人形風に。全体的に丸くして色は奇抜な黄色に。名前は可愛いパ行からプーs」

 「その言葉を口にするな!消されるぞ!」

 「え、えぇー」


 こ、こいつ。もしかしてわざとなのか?


 ノートには明らかに口にしてはいけない、蜂蜜が好きそうな熊のキャラクターが描かれていた。


 「なあ李……もうちょっと凝ったキャラにしてみるのはどうだ?もっとこの高校の歴史を調べてみるとか」

 「なるほど一理ある。調べてみるよ!」


 そう言い李は、スマホでこの高校の歴史を調べ始めた。


 ふぅ…これで安心だ…。


「花道、良いの考えついたぞ!この高校、昔は共学で女子の服はセーラー服だったそうだ。そこで学校の池に住み着いたアヒルと合わせて、セーラー服を着たアヒルのキャラなんて」

 「お前絶対わざとだろ!」

 「名前は近くにある店からとってドナルd」

 「だから、その名を、口にするな、ドアホがぁぁぁ!」


 俺の声が高校中へ響き渡る。

 お父さんお母さん、今日も花団高校は平和です。

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