第十五話 クラスメイトスレイヤー
どうもこんにちは、僕の名前は鳥巻(とりまき)。対して特徴のない平凡な高校生だ。今回お話しするのは、とある高校のとあるクラスで起きた出来事。それは一人の男が教室に入って来た事で始まった。
その日の朝は少し騒がしい朝だった。
みんな先日の成功を讃えあい、まるで祝賀会のような雰囲気だった。
かく言う僕も、昨日友人たちと撮った記念撮影を見ながら、その時の楽しさを再度噛み締めていた。
そんな時教室の扉が大きな音を立てて開かれた。扉から入って来た男はとてもにこやかな顔をして、みんなに朝の挨拶をした。
「やぁ皆おはよう、今日は何とも気持ちのいい朝だね。でも俺は少し寝不足かな…ははは、土の中で寝たからかな?ははは…」
彼は何故かカバンと共に二十九本ほどの花を持っていた。そして無機質な笑い声をあげながら、静かに自分の席へとついた。
『不気味』
僕の脳内にその言葉が浮かび上がって来る。
てっきり全身武装をしてやって来ると思っていたが、彼が持って来たのは何の変哲もない花束だけ。それは誰が見ても不気味でしかない光景だった。
クラスメイト全員が遠巻きに彼を警戒し始める。
いつも仲良く話をしている友人二名も、その時ばかりは彼の元へは近寄らなかった。
すると全員が彼の行動を警戒する中、彼は突然体を震わせ小さく笑い出した。
それはまるで、今にも爆発しそうな自分を抑えているようだった。
「…くっ…ふふふ、はははは、それにしても…スパッツって……確かに…好きだけどよ……あの場で言う事が……スパッツが好きだとか…くっ…ははははは…」
脳によって発せられた畏怖の念が全身を駆け巡る。
今すぐその場から立ち去りたい衝動に襲われる僕だが、何故か僕の体はその場から一ミリたりとも動く事はなかった。
その後彼は、一分ほど何かを呟きながら体を震わせ続けていると、何かが溜まったのか、突如ゆらりと立ち上がった。
そして静かに…静かに言葉を発した。
「出席番号…一番…」
「………は、はい?」
その言葉を聞き、出席番号一番である相生一番が疑問に思いつつも返事をする。
その時、
「……□□」
窓の開いてないはずの教室に大きな風が吹く。それはまるで何かが高速で移動したように感じた。
風が止み、閉じていた目を開けてみると、僕の隣を一番の大きな体が横切っていった。そして彼の体は無惨にも、教室の後ろの壁へと突き刺さった。
[人間が壁に突き刺さる]などと言う表現は、漫画の世界にしか存在しない物だと僕は考えていた…が。
あの日僕はその考えを改める事になった。
一番を突き刺した犯人と思しき彼は、静かに自分の机へと向かうと、持って来た花を一本取った。そして埋まっている一番の側へと優しく添えた。
花を添え終えた彼はまた、静かに言葉を発する。
「出席番号…二番…」
「う、うわぁぁぁぁぁ」
出席番号二番は返事をする事なく、恥もプライドも捨て惨めに教室の外へと逃げ出す。
しかし、
「……□□」
また大きな風が吹いたかと思うと、廊下の方から大きな音がする。
そしていつの間にか廊下に出ていた音の元凶は、また一本花を取り、そのまま静かに廊下へと持っていった。
その後の起きた事は想像に難くない。
「ウルヴァ」
ドグォン!
「は、花道?この前のことはさ、ちょっとした悪ふざけなんだよ…だ、だから許し」
ドゴォ!
「まさか殴るの?オレの可愛い顔を殴るの?冗談はよして」
バゴォン!
「こんな教室いられるか!俺は別行動をとらせてもらうぞ!」
グシャア!
「て、てめぇなんざ怖かねぇ!野郎オブクラッシャー!」
ドゴドゴォ!
静かに出席番号を告げられ、埋められる。出席番号を告げられ、埋められるの繰り返し。
そしてついに、
「出席番号…十九番…」
僕の出席番号が…呼ばれる。
埋められた友人と同じように、命乞いのように謝罪をした方が良いのだろうか。それとも蛮勇を奮い立たせ、彼に挑んだ方が良いだろうか。
しかし、僕はそのどちらでもない行動をとることにした。
今にして思えば、何故この時こんな事をしたのかわからない。多分恐怖で可笑しくなっていたのだと思う。
僕はこちらへと笑みを浮かべるクラスメイトへ、こう尋ねた。
「…あの可愛い幼馴染の連絡先、教えてくれない?」
「……□□」
僕は埋められた。
何なら一番深く埋められた。
ちなみに、彼が埋めた後に添えていた花の名前はトリカブト。
花言葉は「復讐」だ。
「みんな、おはようであれぇぇぇえ?み、みんな!な、何があったのだーー」
唯一生き残ったのは、普通に花道の恋を応援したいと話していた1年B組の良心、闇野ダークネスだけであった。
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