第十四話 男子校に行ったので幼馴染に告白しようと思います


 昼ご飯をお腹一杯(十割枝豆)食べた俺は、その後も楽との遊園地デートを大いに楽しんだ。


 ゴーカート(妨害あり)やフリーフォール(妨害なし)、キャラクターと記念撮影(○ルヴァリン)にミラーハウス(怪我人多数)などなど、多くのアトラクションを楽しみ尽くした。


 そして日も落ちて辺りが暗くなり始め街灯にも光が灯りだした頃、楽にちょっとした変化が起きていた。


 「…えへへ、ごめん花。あたしちょっと疲れてきたかも…」

 

 楽が申し訳なさそうにそんな事を言ってくる。

 無理もない、今日一日ハイテンションに遊び回ったのだ。いくら天真爛漫を地で行く彼女でも、そろそろガス欠になって当たり前だ。


 ふと周りを見渡してみると、近くにベンチがある事に気づいた。しかも観覧車も眺めれて人気が少ないベストポジションだ。


 「それじゃあ楽、そこのベンチで休もうか」

 「うん、そだね。あ!しかも観覧車を眺めれるじゃん。にひひ、ナイスアイディーア!」

 「ははは、なんだそりゃ」


 俺たちはそのまま仲良くベンチへと座る。すると甘えたがりの楽が、不意に頭をこちらの肩へと乗せてきた。

 まあ俺と楽の仲だ。こんなスキンシップは日常茶飯事……のはずなのだが。


 (楽の頭が、体温が、重みが、しゅごいのぉ!)


 俺の頭の中は沸騰寸前だった。


 いつもの俺だったら「重い」と肩から頭をどかしていただろう。

 だが楽に告白をしようと考え始めてから、俺の楽に対する意識は180度変わっていた。


 今の俺にとっての楽は可愛い幼馴染ではなく、頭の良い犬みたいで天真爛漫な女の子でもない。俺が一生添い遂げたい魅力に溢れた女性だ。


 これは俺の心境の大きな変化であり、一緒に学校へ通っていたら決して気づくことのない、俺の楽に対する本当の気持ちでもあった。

 花団高校で日夜性癖…つまり自分の愛について語り合っていたからこそ、辿り着くことのできた結論。


 つまり俺はのだ!



 ——フル回転する脳内、上がり続ける体温、隣から香る女の子のいい香り。

 

 夏が近づいてきていると言っても、日が沈むとまだまだ肌寒い五月中旬七時ちょい過ぎ。遊園地の隅にあるベンチの上で、二つの影がそっと肩を寄せ合っていた。


 楽の綺麗な赤毛と少し焼けた肌を、日の沈んだ遊園地に灯る照明が二割増しで美しくさせる。


 俺はその姿に思わず生唾を飲みこむ。

 彼女はそんな俺に気づくと、八重歯を見せながら「ニヒヒ」と笑って来た。



 「…………ッ」

 「これは予想外の破壊力。李が倒れたか」

 「他にも負傷者多数…可愛いは兵器とはこの事です!」

 「衛生兵!衛生兵!」


 後ろにある茂みから、そんな悲鳴とも取れる声が聞こえてくる。

 どうやら楽の可愛さに奴らも攻撃を仕掛けられずにいるらしい。

 

 つまり、今なら何の妨害もされずに告白ができると言う事だ!


 俺は軽く深呼吸をすると、腹の奥底から考えてきた楽に対する告白の言葉を出す……その時。

 阿鼻叫喚の茂みからこんな話し声が聞こえてきた。


 「……ふふふふ」

 「ん?どうした白井。不敵な笑みなど浮かべて」

 「ふふふ、いい雰囲気ではありますが、実はすでに布石は打ってあるのです。先程多々良君が食べた枝豆、実はあれに薬を仕込んでいたのです」

 「薬だと?もしや毒薬か…」

 「それは違いますよ。流石にそれでは多々良君が死んでしまいます。ですので…」

 「ですので?」

 「ですので…『飲んでから24時間以内に異性へ愛の告白をすると息子が機能停止する薬(青先生監修)』を飲んでもらいました」


 喉から出かかっていた言葉が、回れ右をして喉の奥へと帰って行く。


 今の会話…聞き間違いだよな?

 そもそも異性に告白したら息子の機能が停止する薬だなんて……そんな物が現実に存在するわけが無い!


 「そんな物が本当に存在するのか?眉唾物だな」

 「まあ私も青先生にそう言われて渡された物で、本当なのかどうかはわからないのです。ですから治験も兼ねて、裏切り者の多々良君に飲んでもらったんです」

 「なるほど、それは賢いな」


 お前らは倫理の授業を受けたことがないの?

 というか俺のデート、クラスメイトのみならず、担任にも妨害されているの?

 この世界に俺の味方はいないの?


 「……どうしたの花?口を大きく開けながらこっち見て。…にひひ、まさかあたしを食べようとしたの?狼みたい、花は」


 心は狼だってんだよちきしょう!


 クソッ!さっき聞こえた会話が気になって告白の言葉が喉の奥から出てきてくれない。たった一言「好き」を伝えるだけだってのに…何で息子を人質に取られなきゃいけないんだ。


 「もしかして花、あたしに何か伝えたいことでもあるの?もしそうなら…い、言って欲しいかな」


 楽はそう言いと顔を赤らめ、何やらもじもじとし始めた。


 え?マジ?もしかして脈ありなん?

 彼女いない歴=年齢から遂におさらば?

 勢い余って童貞卒業コース?


 でも今ここで告白したら、俺の息子と永遠のお別れして男も卒業する可能性?


 どうすべきなんだ俺…どうするんだよ多々良花道!


 「………花?」

 「楽!よく聞いてくれ。俺は…俺はずっとお前の事が、す…す…」

 「…す?」


 俺は…俺は!


 「お…お前のスパッツがずっと前から好きだったんだ!」

 「…はぁ?」

 「スパッツって良いよな。あのムッチリ感に下着とは違うエロス。特にスポーツ系女子のミニスカから見えるスパッツなんて最高だと思う!だから、俺は、お前の履いている、スパッツが、好きなんだ!」


 俺は息子を守り、息子に従うことにした。



 そこから先の事は良く覚えていない。

 頭に激しい衝撃を加えられた後気を失い、気がつくと俺の体はベンチ近くの地面に埋まっていた。


 そして俺の周りには、ぐるりと二十九本の花が俺を囲むように添えられていた。

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