第十三話 まめマメ豆ビーン


 その後も妨害があったりなかったりする中、俺は楽とのデートを最大限楽しんでいた。

 途中名状しがたいものが現れた時はどうしようかと思ったが、なんとか楽がクリティカルを出し、事なきを得た。


 そんな波瀾万丈のデートもやっと前半戦が終了し、俺たちはお昼ご飯を食べるため園内にあるレストランにやって来ていた。


 「あははは、なんだか今日は騒がしくて楽しい!花もそう思わない?」

 「そ、そうなんじゃないでしょうか…」


 俺は机にぐったりと倒れたまま答える。

 妨害のおかげで楽は暇をせず楽しめているが、標的である俺はどんどんと体力が削られていた。


 だがもしここで俺が力尽きようものならば、きっとクラスの猛獣どもは一斉に楽へと襲いかかる事だろう。

 それだけは絶対に阻止せねば。

 

 「よし、取り敢えずなんか食べようか。楽は何が食べたい?今日は俺が奢ってやるよ」

 「え、本当!普段十円ガムでさえ奢ってくれない花が奢るなんて!にひひ、明日は台風が降るね」


 俺はそんな訳あるかと軽く返しメニューを開く。

 そして何を食べようかと考え…ようとしたのだが。


 (よ、読めねぇ!なんでこのメニュー、全部ドイツ語とかフランス語で書いてあんだよ!)


 ちらりと楽の方を見てみる。

 彼女はふんふんと鼻を鳴らしながらメニューを見ると、迷いなく「これが食べたい」と指を差してきた。


 流石は才女、このよくわからない文字が読めるのか。

 一方俺は英語でさえ三級の実力者。こんなもの読めるはずがない。


 「お客様。お決まりでしょうか?」


 メニューを悩んでいると店員が来てしまった。

 仕方ない、こうなっては適当に頼んでしまうほかない。


 「じゃ、じゃあ俺はこの[Gekochte Sojabohnen in Salz]ひとつと[Haricots bouillis avec coquilles salées]をひとつ…それと[Maharagwe ya kuchemsha na makombora yenye chumvi]を一つください」

 「あたしはこの[Luxus teures Essen]を一つ!」

 「良かったのか?一品だけで。遠慮することないぞ?」

 「花こそ。それ三つで良かったの?」

 「も、もちろんだとも。ちょうどこれらが食べたい気分だったんだ」


 楽はふーんそうなんだと口をアヒルにする。

 やだこの子、可愛い。



 数分後。

 俺たちの頼んだ料理が来た。よくよく見てみると店員がクラスメイトだった。

 おかしいと思っていたが、こんな所まで妨害してくるとは…。


 「お待たせいたしました。こちらがご注文の[大豆の塩茹で(ただの枝豆)]と[殻付きの豆を塩茹でした物(つまり枝豆)]と[豆を殻がついたまま塩水で茹でた物(俗に言う枝豆)]になります」

 「……あざます」


 俺の目の前に枝豆が三皿置かれる。

 何だろう…この気持ちは。これではご注文ではなく誤注文だ。

 取り敢えず今度ドイツ語の辞書を買うとしよう。


 「そしてこちらが…[無駄に高い食べ物]です」

 「わーい!美味しそう!」


 楽の目の前に霜の入った分厚いステーキが置かれる。

 よく見るとステーキの上にはキャビアとトリュフが乗っている。付け合わせはフォアグラだろうか。


 「にひひ、食べようよ花!美味しそうだよ!」


 楽はそう言うと、大きな口を開けステーキを口いっぱいに頬張る。相当美味しいのか、何回もほっぺを触って笑顔を見せてきた。

 可愛い…恐ろしく可愛い…遠目から見ていたクラスメイトが鼻血を吹いて倒れるほど可愛い。

 

 それに対して俺は、


 「プチっ…モグモグ…プチっ…モグモグ……。塩薄い…」


 枝豆が山盛りに積まれた三つの皿を前に、無心で枝豆を食べる作業を繰り返した。



 ちなみに、お会計は俺が900円だったのに対して楽のは…。


 「お会計は合計で20900円になります」


 無駄に高かった。

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