第七話 おれたちのほうかご


 とある日の放課後。

 俺はいつもの3人と何をするわけでもなく、ただ呆然と教室にいた。

 田中は本を読み、李は携帯をいじり、銀杏は何故か電卓で計算をしている。


 ゆっくりとした時間が四人の間を流れていく。平和とはこのことを言うのだろう。

 そんな平和な放課後のひと時に、俺はとある言葉を3人に向けて放った。


 「……彼女が欲しい」

 「「「⁉︎」」」


 俺の言葉を聞くと三人は手を止め、三者三様の回答を俺に返してきた。


 「諦めなよ花道。オレならともかく君に彼女なんて出来るはずがないね」

 「吾輩は別に…彼女とか欲しくなくはないのである」

 「ふんっ、そもそも彼女など一円の利益にもならんもの、作る気など毛頭無い!まあ、秘書のような者ならば大歓迎だがな」


 李は後でぶっ飛ばすとして、銀杏の答えには少し疑問を覚える。


 「銀杏は彼女いらないのか?男子高校生なのに?お前本当に男?」

 「彼女を欲しがらなかっただけで、何故男かどうかを疑われなきゃいかんのだ。別に男子高校生だからって、必ずしも彼女を欲しがる訳では無かろう」

 「……と言っているが、他の二人はどう思う?」


 他二人にそう聞くと、二人は親指を下に向け「ブーブー」と批判の声をあげていた。


 「正直に話せよ銀杏ボーイ。本当は欲しいんだろ?可愛い彼女が」

 「何度言われても変わらん。万が一価値のない女と付き合うと、こちらの価値まで下がりかねん」


 銀杏はこちらがしつこいためか、少しイラつき出していた。

 ならばここはジョーカーを出すとしよう。


 「……なら付き合うのが貧乳の女性だったら?」

 「それは大変価値のあるものだ。是が非でも付き合うだろう」


 一瞬にして手のひらを返す。

 そんな銀杏を見て、俺は一回ほどため息をついた。

 

 「はぁ…、結局男の理想的な彼女って、自分の性癖に合う女性がいるかどうかだよな」

 「……そうなると花道。君は絶対に彼女を作れないね」

 「え?何で?喧嘩売ってるのか李?」


 俺は拳を振り上げファイティングポーズを取る。だが李は落ち着いたトーンで理由を説明してきた。


 「だって君の性癖、○○○○○○○○○○だろ?」

 「ぐわぁっっ………」


 思わず椅子から転げ落ちる。

 くそっ、まだその事を覚えている奴がいたとは…。


 「あ、あれはキャラを濃くするためについた嘘みたいなもので…本当の性癖は別にありますですよ」

 「へぇ、それじゃあ本当の性癖は何なんだい?」

 「……え?」


 突然の質問に思わず目を丸くする。

 田中と銀杏も、おもちゃを見つけた子供のような目をさせながら話に乗っかって来た。

 

 「吾輩も気になるのである」

 「人にあれこれ答えさせたのだ。むろん自分も答えるよな?」

 「え、ええとな…そ、それはな…」


 俺は盛大に目を泳がせる。

 そんな俺を見て、3人は手を叩き俺のことを煽り出し始めた。


 「「「せーいっへき!せーいっへき!」」」

 「くっ………おねロリです……」

 「「「くーわっしくくーわっしく」」」

 「くそぉ、男子高校生のノリの良さめんどくせぇ!」


 いつもは「ふんっ」としか言わない銀杏も何故かこの時は一緒に手を叩いていた。

 これが男子校ノリ……。


 「お、おねロリ……鬼畜調教物です……。ちなみに……姉と妹がいます」


 俺は観念して自分の性癖を白状する。

 ちらりと李と銀杏の方を見てみると、二人ともニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。


 「…聞いといて何だけど、思いもよらず濃いのが出てきたね」

 「おい李……それは性癖だけにって事か?」

 「ふふふ、そういう事」

 「くははは、面白いじゃあないか!そのセンス、価値があるぞ」


 銀杏と李がそんな下ネタで大笑いをする。

 こういうノリ、実は嫌いじゃないです。

 

 「………」

 「あ!しまった!」


 ふと後ろを見てみると、田中がいつものように難しい顔をしていた。

 きっと「おねロリって何?」と聞いてくるに違いない。


 俺は純粋無垢攻撃に備え、防御を固める。

 しかし田中はそんな俺の予想に反し、こちらへ冷たい視線を送ってきた。


 「多々良君…1ヶ月もこの学校に通っていたら否が応にも覚えるのだ。つまり、吾輩はもうあの純粋無垢な闇野ではないのである!」

 「えええぇぇぇぇぇ……」

 「実は先ほどから読んでいた小説も、白井君に借りている官能小説なのだ!」

 

 なんて事だ。すでに田中の純白は黒く塗られていたなんて………ま、いっか。


 「ちなみに何ていうやつ?」

 「えーと、[囚われの女騎士に転生したけどオークを飼育して牧場王になりました]というやつなのだ」

 「なんちゅうタイトルだよ…それ本当に官能小説なのか?」

 「正直エロすぎるのだ。思わず吾輩の闇の聖剣が光線を放って、最後のガラスをぶち破りそうである」


 この童顔ショタ…知識を得た瞬間から一気に下ネタを言うようになったな。

 でもそういうの、嫌いじゃないです。


 「それじゃあ闇野が知識を得ていた訳だし、久しぶりにちゃんとした猥談でもしようか」

 「「「おおー」」」


 俺の提案に三人が乗ってくる。

 

 「それで?議題はどうするんだ多々良」

 「ありきたりなのだと面白くないよね〜」

 「吾輩もう大人だからどんなものでも話せるのだ!」

 

 よし、ならば前々から思っていた事を聞いてみるとしよう。

 俺は一度深呼吸をし、落ち着いた表情で議題を発表した。


 「……エロ漫画で一番興奮する瞬間って、本番の2.3ページ前だよな?」

 「「「意義あり!」」」

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