第六話 この素晴らしい議題に祝福を!


 今日も花団高校一年B組は平和だ。

 

 黒板前では筋肉発表会が開かれ廊下ではボウリングが行われ教室の隅では闇のゲームが開催されている。


 どこから見ても、いつもと変わらぬ平和な一年B組だ。

 なので、現在後ろの席で繰り広げられている性癖会議もきっと平和な日常に違いない。


 「だーかーら!コスプレイヤーはキャラになりきっているからこそ萌えるの。別に美人がエロい格好しているから萌えるんじゃなくて、一生懸命なりきろうとしている部分に萌えるの!」

 「笑止!それは違うぞ。コスプレイヤーに求めるものは尻と胸以外ありえない。萌えるなどと耳あたりの良い事を言っているが、結局『萌える=○これる』ということに変わりはない!」


 李と銀杏が机をバンバンと叩きながら言い合いをしている。

 とても熱い議論を交わしているが、内容はもう少し何とかならなかったのか?


 「エロい!」

 「エロくない!」

 「エロエロだ!」

 「エロエロくなーい!」


 相変わらず仲が良いなこいつら。


 俺は仲間だと思われないよう、二人から少しずつ距離をとる。

 だが、そんな二人の言い争いにあえて近づくものが一人いた。


 その男は涙を流しながら二人の間に立ち、こう叫んだ。


 「何をそんなに言い争っているのかと思えば…なんと素晴らしい議題なのですか!」

 「お前は…白井!」


 現れたのは自称エロ本研究家の白井黒貞。

 整った顔立ちにきらりと光る黒縁メガネ、前髪に一本の白いメッシュの入った黒い髪の毛。

 銀杏同様ぱっと見イケメンだが、彼も例に漏れず変態だ。


 白井は銀杏と李の間に姿勢良く立ち、まるで演説をするかのように語り出した。


 「コスプレイヤーはエロいのかエロくないのか…この議題は長年多くの衝突を起こしてきました。楽しんでいる女の子に欲情してよいものなのか。エロい格好をしている方がいけないのか。多くの学者がこの難問に挑み…敗北していきました」

 「「(その通りだと深く頷く)」」

 「…?(こいつらは何を言っているんだと首を傾げる)」

 「ですが!私はここに!今こそ公平の名のもとに!判決を下すべきだと考えるのです!」

 「おお、流石白井だ。なんて素晴らしい考えだ」

 「なんでだろう…感動で涙が…」


 何故だろう?一ミリも感動することが出来ない。

 もしかして俺がおかしいのだろうか?


 「そこで私が提案するのは!ツイッタ〇の投票機能です!私はこれで白黒つけるべきだと考えます!」

 「賛成だ!」

 「ツ〇ッターならオレもやっているから力になれるよ」

 「お力添えありがとうございます!では樋口君と李君の力をお借りして…レッツ投票開始です!」

 「「うおおおおおお!」」


 ……あ、クラスのグループラインに何か貼られている。

 どうやら先ほど言っていたツイートのURLのようだ。


 せっかくなので見てみよう。


 [質問:コスプレイヤーは Aエロい Bエロくない]


 と書かれたツイートが表示される。

 下には李と銀杏のものだと思しきコメントが書かれていた。


 『コスプレイヤーがエロいとか常識なさすぎる!みんあ純粋に楽しんでいるだ け!』

 『明言するのは少し失礼かもしれませんが、言わせてもらいます。コスプレイヤーはエロいです。エロいです。大事な事なので二度言わせていただきました』


 …とてもくだらないと思うのは俺だけだろうか。コスプレイヤーがエロいかエロくないかを決めて、何になるというのだろう。


 呆れた俺は、回答のAを押すとアプリを閉じた。


 心の中であのツイートが拡散されないことを祈り——



 その祈りが届くことはなかった。

 

 何故か世界的大スターがそのツイートをリツイートしたのだ。後に判明したことだが、どうやら銀杏の差し金だったらしい。

 おかげでツイートは世界中に拡散され、例の議題はクラスだけの問題ではなくなってしまった。


 有名動画投稿サイトではエロいかエロくないかを議論する動画で溢れかえり、テレビの討論番組でも議題として取り上げられていた。


 世界中の人々が、コスプレイヤーはエロいのかエロくないのかを日夜真剣に議論し始めたのだ。


 だが、その議論はたった一つのツイートによって破滅を迎えた。

 いや、更なる発展を迎えたといった方がよいだろうか…。


 『エロいかエロくないかって、胸の大きさで決まらないか?』


 それは、珪藻土にニトロを注ぐようなものだった。

 そのツイートは大爆発し、何故か議論の内容が巨乳派vs貧乳派に変わってしまったのだ。



 そしてツイートが大爆発した次の日、一年B組は今日も平和だった。


 「だーかーら!巨乳の方が包容力がありエロくもあり、うんたらかんたら」

 「笑止!貧乳はステータスであり希少価値のあるものだ!つまりあーだこーだ」


 李と銀杏は、今日も机をバンバンと叩きながら言い合いをしている。

 そしてそんな二人の間に、涙を流した白井がまた入ってきた。


 「何と……何と素晴らしい議題なのでしょうか!」


 


 ちなみにだが、例の投票の結果は[A 99% B 1%]となった。

 まあ仕方ないよ、だってえっちぃもん。

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