第八話 恋に気づく。そして連行される。

  俺こと多々良花道は悩んでいた。

  

 花団高校に入って1ヶ月ちょいが経過したが、一向に彼女が出来る気配がしないのだ。

  

 原因はわからない。

 もしかして、これが男子校に入学した弊害なのだろうか…。

  

 ふと目線を黒板前へと移す。

 現在黒板の前では白井主導のもと、モテる男講座(受講料100円)が行われていた。

  

 「まず、モテるにはですね……キザな男アピールが必要不可欠です!ですのでこの[女を落とす百の甘い言葉]を読むことをおすすめします!」

 「はい!質問なのだ!まずその言葉を聞かせる女性を見つけるにはどうしたら良いのだ?」

 「田中君、良い質問ですね!それは……各自適当に考えてください!」

  

 そんな白井の無責任な回答に、講座を聞いていたクラスメイトたちが白井に殴りかかる。

 おかげでモテる男講座は無事終了。代わりにバトルロワイヤルが開催された。

  

 ……くそっ!皆モテるためにこんなに努力しているってのに、何故一人も彼女が出来ないんだ……。

  

 「多々良君は講座を聞かなくて良かったのであるか?」

  

 俺が机で頭を抱えていると、バトロワから逃げて来た田中がそんなことを聞いてくる。

 

 「ああ、俺はモテたいんじゃあなくて、彼女が作りたいからな」

 「……?何が違うのだ?」

 「え?違うだろ?」

  

 俺と田中は二人して首を傾げる。

 だがよくよく考えてみると、俺も自分が何を言っているのか分からなくなってきた。


 モテたいのではなく彼女が欲しいだけ?

 まるで一休さんに出てくるとんちのようだ。


   「ごめん闇野、俺も自分で何言ってるかわからなくな」

 「わかった!わかったのだ!」

 「え?」


 田中が純粋な目をして俺の肩を嬉しそうに叩いてくる。

 どうやら先程のとんちを、目の前にいる田中一休さんが解いたようだ。


 「それってつまり、多々良君にはすでに「好きな人」がいるってことではないか?」

 「……すまん闇野、どんな思考経路を通ってその答えに辿り着いたんだ?」

  

 俺は田中の答えを聞き大いに首を傾げる。

 だが田中は臆する事なく言葉を続けた。

  

 「だって彼女が欲しいけどモテたくないってことは、。つまり、って事なのだ!」

 「……ッ‼︎」

  

 思わず絶句する。

 それと同時に、俺の中で何かがはじけた。

 

 俺は他人に愛を与えてもらいたいのではなく、『ある特定の子に愛を与えたかった』。

  

 それはつまり俺は…俺はあの子に片思いをしていたという事になる。

 

 彼女も知らない。

 俺自身も知らなかった片想い。


 いや、気づかないようにしていただけなのかも知れない。


 しかしそんな大事なことをまさか田中に教えられるなんて、まさに世も末だ。

  

 …だが、

  

 「ありがとう闇野!お前のおかげで吹っ切れたよ!」

 「お、おお?どういたしまして……なのだ」

  

   俺は澄んだ目で田中を見つめ感謝の言葉を告げる。

 田中はそんな俺に少し動揺しているようだが、俺はそんな田中を無視し、気合を入れるためにスクワットを始めた。

  

 「よーし!やったるぞーー!」

 「あ、あの…多々良君?どうしたの……だ?」

  

  

 俺は!告る!

  

 俺は勘違いしていた。

 本当の俺は彼女のことを違う意味で愛していたのだ!

 異性として!女性として!

  

 だから俺は決めた。今決めた。

  

 告ってやるぞ!

 俺は!絶対!『楽』を『彼女』にしてやるぞ!

  

 そのためにも今は気合を入れることに集中だ!

  

  

 「…あれ?花道のやつ何してるの?」

 「あ、李君。どうやら……力ずくで彼女を作るみたいなのだ」

 「……事を起こす前に先生に報告しとくか」

 「それが良いと吾輩も思うのだ!」

  

 数分後、俺はさすまたを持った青先生によって生徒指導室に連行された。

  

  

  

 放課後。

 生徒指導室から釈放された俺は全速力で教室に向かった。

 そして、

 

 「李と田中の馬鹿はどこにいる!」

  

 俺は両手にさすまたを携え、教室の扉を力強く開き叫んだ。

 すると一番近くにいたクラスメイトが、体を大いに震わせながら奴らの居場所を吐く。

  

 「す、李と闇野なら、さっき商店街の行くって話してたよ……」

 

 俺はその言葉を聞くとさすまたを地面へと勢いよく置き、急いで帰り支度を済ませると、脱兎の如く商店街へと向かった。

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