第4話 追手

「……魔王でも、雨は冷たいのね」

「肉体的には人だもの」


カトレアで住んでいた小屋は破壊した。

燃やそうと思ったけど、煙を発見されて駆けつけられたら困るとの事だった。


「今日はずっと降ってそう」

「そうね」


わたしたちはこの森を抜ける為に歩き始めて2日。

景色は全く変わらない。

どこまでも続く森の中、雨に降られて洞窟というには深さの足りない横穴で雨宿りをしていた。


「カトレア、さむい」

「そうね。乾かさないとね」


カトレアは小袋から魔石を取り出して魔力を込めて床に置いた。


カトレアもわたしも服を抜いで下着姿になり、服を乾かした。


魔石の効きが悪かったので、さらに魔力を込めて横穴全体が暖まるようにした。


カトレアの下着姿はなにげにあまり見たことはなかった。

大人の女性というにはやはり小柄だ。

見た目が幼女のわたしが言える事ではないけど、大人から見ればロリだ。


「クロユリ、悪いけどすぐ服を着て」


カトレアが戦闘態勢に入ろうとしているのが表情からわかった。


「数は?」

「50以上」


カトレアの敵索結界に50以上の誰かが引っかかっているという状況は非常に厄介だ。


敵は50。

こっちはわたしこと幼女と魔法を使えるカトレア。

分が悪い。

まあ、敵かはわからないけど。


「まっすぐこっちに来た。囲まれてるわ」

「よし、殺そう」

「……程々にね。何人かは残していて。情報を聞き出さないといけないわ」

「とりあえず私が出る」


大鎌ならいつでも出せる。

追手が魔王を探しに来てる奴らなら、幼女であるわたしを見てどうくるか知りたい。


真っ黒いゴスロリ幼女が1人で出ていくって状況はかなり異質だけど。


ゆっくりと歩いていくと、わたしでもわかるくらいに殺気を感じる。


「だ、誰かいるの?」


なるべく幼女らしく。

しかし返ってきたのは大量の魔弾だった。


「っ!……幼女相手にご挨拶ね」


大鎌で全てを振り払った。

パッと見だけど、放たれた魔弾は30発くらい。


「あああぁぁぁ!!」


斬りかかってきた剣士たち15人。


「同じ人間なら、お返事くらい欲しいのだけど?」


大鎌で振り払いつつ様子を見る。

交渉する気が全くない。

殺しに来てる。


わたしは人を殺したことはないけど、これはまずい。


体格差とかもそうだけど、技術と連携が高い。

そもそもわたし、前世では人を殴った事もない。

ケンカなんて無縁。虐めは毎日だったけど。


「……これも虐め、だね」


そう思うと、なんだか殺意が湧いてきた。


「じゃあ、いいよね……」


大鎌に魔力を込めて振りかざした。


一瞬で周りにいた敵が吹き飛んだ。

敵の悲鳴が雨の中に響いている。


「もう知らない」


倒れて呻いていた兵士の1人に大鎌を突き刺した。

血を吸った大鎌がさらに魔力を帯びた。


「……血を吸うと魔力が増えるのね……」


吸血鬼とか死神に相応しい能力。

わたしって、ほんとに呪われてるのね。


「て、撤たッ!……」

「殺しに来てすぐ帰らないでよ」

「てめぇ!隊長になにぉッ!」

「挨拶無しで幼女に襲いかかって、挨拶無しで帰るのってどうなの?」


わたしはここでも人として扱われない。

それがこの証拠なのだろう。

わたしは化け物だ。


「はぁぁぁ!」


一際強い一撃を放ってきた女騎士。

そしてわたしを囲むように組まれた陣形の他4人。


他のやつより強そう。


「大鎌振り回して人を殺す幼女を人間としては扱えないわね」

「幼女に魔弾だの剣だのを向けるような奴らを人間とは思えないよ」

「ラミア!」


背後にいたラミアと呼ばれた魔法騎士がなにか魔法を放った。

地面がぐにゃりと崩れて足を取られた。

そして大鎌を握っていた片手を斬り落とされた。


大鎌と一緒に落ちたわたしの腕。


「『エレキアロー』!」


カトレアの援護射撃が敵に当たり、わたしは後退した。


「カトレア、ありがとう」

「いえ」


急に、無くなった腕から先がむず痒くなった。

目をやると、腕が生えてきていた。


「回復魔法も無しに腕を再生させただと?!」


周りの敵たちがわたしを見て驚愕していた。

ますますわたしを見る目が化け物を見る目になっていく。


ああ。ニンゲンは嫌い。みんな死ねばいい。

なんでわたしは人に生まれたのか。

なんでまた人間の体でこの世界に生まれ変わってしまったのか。

魂レベルで呪われてる。


「……化け物で」


大鎌を再び手元に召喚して魔力を込めた。

みんなみんな死ねばいい。


「悪かったわね」


周りを一掃しようとした瞬間、何者かが現れた。

それも何人も。


「お迎えに上がりました。魔王様」


わたしの前に跪く金髪の女がそこにいた。

他の奴も同様に漆黒のローブを纏い、人間たちを威嚇するように囲んでいる。


「貴女たちは誰?」

「わたくしは魔王軍最高幹部、レビナス・アウグストと申します」

「レビナス、だと?!」


長い金髪と紅眼、白い肌。

なんとなく伝わってくるレビナスの魔力からは敵意や殺意は感じない。


「迎えに来たと言ったわね。ならアレを処分して。何匹かは残していてね」

「かしこまりました」


そう命じると一瞬にして周りが血に染まった。


「……くぅぅ……こ、殺……せよ」

「お前が1番強かったわね。簡単に死ねると思わないでね?」


迎えに来た魔王軍の魔族に捕虜の手足を折らせてわたしたちはその場を後にした。




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