第3話 王国side 女王様の苦悩

グランドル王国の儀式の間、大量の魔導師による勇者召喚の儀式が行われていた。


「絶対に失敗は許さぬ!よいか!この儀式の成否によって我がグランドル王国の命運が決まるのじゃ!」


女王バーメル・シルーバ・グランドル。


バーメル女王は焦っていた。

1週間前の事、王国のはずれの山脈の向こうのグレーテ大森林で魔王と思しき膨大な魔力を感知したためであった。


かつての勇者と魔王の戦いから約500年。

世界は平和だった。

世界の中心と言われるグランドル王国は魔王を討ち滅ぼした国として力を付けて成長した王国である。


他の近隣諸国ともそれなりに上手くやっているが、それは平和を勝ち取り現在も権力を持っているグランドル王国であるからだ。


しかし100年前に死んだ老賢者ガンダス予言通り、魔王復活の兆しが現実に明確に見え始めてしまった。


「しかし……なぜじゃ……」

「なぜ、と言いますと?」


カルザ大臣はバーメル女王に聞いた。


「文献によれば、勇者は魔王を倒し、魂を深淵へと封印する事に成功したと記載されていた」

「それはそうですが、老賢者ガンダスの予言通りになってしまっております」

「魂の封印が解かれたか」

「可能性は高いかと」


無論、バーメル女王とて準備をしていなかった訳ではない。

老賢者ガンダスは当時の王国を発展させた優秀な賢者だった。


魔石の汎用性を広げグランドル王国の生活は豊かになり、他国との貿易も盛んになる大きなきっかけとなった。


そんな老賢者ガンダスは死の間際、「魔王が100年後、復活する」とだけ言い残し死んだ。


なぜ今になって復活するのか。

それはもう誰にもわからない。

だが、再び世界が魔王によって支配されかねないという漠然とした絶望だけが女王の頭の中を支配していた。


「調査の結果はまだか」

「はい。やはり、山脈で囲まれたグレーテ大森林への調査は日を要するようでして」


険しい山脈で囲まれたグレーテ大森林は未だに未知の生物や植物も多く、そこへ向かうのも大変厳しい。

標高も高いため、空を飛んで越えるにしても天気の影響がある。

洞窟を通って行く事もできるが道は狭く、今回向かった50名の調査隊には非戦闘員もいる。

調査はやはり困難であった。


「勇者様の召喚はどれくらいかかるのじゃ?」

「わかりません。ですが、魔力を注ぎ始めてもう4日、未だに召喚に成功する兆しは見えません」


古代から僅かに残っていた文献から、召喚術式には膨大な魔力が必要な事がわかっている。


勇者以外にも、大地に恵を与える聖女や神の使徒を召喚する事ができるが、儀式が何日にも渡って行われるらしいかった。


「平民の選抜はどうなっておる?」

「心眼持ちに選抜を依頼、現在は100名ほど見込みのある者を発見し交渉・準備しております」

「最低でも1000は欲しい」


王国魔導師だけでは当然足りない魔力を補うため、平民やスラム、あらゆる国民を探し出して魔力を集めている。


もちろん魔王が復活する兆しがある事は一般民たちには伏せなければ王国全土が大混乱である。


「早急に進めよ。他国の商人や旅人たちから情報が漏れ出す前に一般民に情報を開示できる準備を整えよ!」

「かしこまりました」


情報開示ができるのは勇者召喚を成功させた後とバーメル女王は考えていた。


魔王が復活、それは再び世界が絶望にのまれかねないということだ。

そんな世界の終わりが旅の商人なぞに報告されていけない。


絶望的な状況と共に、王国は同時に光を民に見せなければならない。

魔王復活と勇者召喚の成功、これは情報開示に必須だった。


「国防大臣はおらぬか?」

「お呼びでしょうか?」

「他国との情報交換はどうなっておる?」

「現在、周辺諸国のエルバー大公国、タルタエズ王国、ウィージス教国へと使者を送り込んでおり、未だに連絡はありません」


友好国であるエルバー大公国とタルタエズ王国は心配ないが、ウィージス教国だけは警戒していた。


宗教国家であり、クセの強い国であるからだった。

貿易などもそれなりにある国だが、宗教的思想の違いから現地の商人たちや旅人たちがいさこざを起こすことのある国だからである。


「妾はここから動けぬ。連絡が届き次第報告せい」

「かしこまりました」


本来なら南のエルフの国、エゼフロール国と北のドワーフの国、工業都市ドドルゴにも連絡を取りたいが近隣諸国よりもさらに遠い。


「問題が山積みじゃ……」


バーメル女王は頭を抱えていた。

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