39 善き迷惑者

「天使の羽、ですか?」


 天界に住むと言われるあの天使ですか? 『善き迷惑者』と呼ばれている天使の羽がなぜこんなところに?


「間違いないな。これは天使の翼から抜け落ちたものだ。奴らとは何度も戦ったことがあるから見間違うはずもない」

「何度も戦ってるんですか?」

「何度もだ。あの馬鹿ども……ちょっと人間に頼まれたからって魔界に攻め込んでくるのだから厄介極まりない」


 ……やっぱり、天使は話に聞くような迷惑者なんですね。

 よく、天使はお話に出てきますし、人間の味方というように言われています。ですが、天使は人間に甘すぎる上に、一人の人間の願いを叶えるために多くの人間に迷惑をかけるので少し困った存在と言われています。


「水が減っているのも天使の仕業でしょうか?」

「可能性は高いな。何にせよここにいても仕方がない。川の上流へ向かうぞ」


 そういってアーさんは歩き始めます。私達もついて行きましょうか。

 

 川を見れば、白い羽に混ざって、少し変わった羽が流れています。なんでしょう、あれ。


「……先が少し黒いですね。天使の羽は真っ白なはずですが」


 拾ったのは先が少し黒く変色した羽です。……なんか、微妙に邪気を感じます。


 すごく、厄介な予感がするのですがバレンタインも呼べばよかったでしょうか? いや、アーさんもいるし大丈夫だとは思うのですが。


 上流に向かうにつれて、木々や地面が破壊された跡が増え始めます。


 そして、川の上流、山の上の水源には真っ白な翼の一部が黒く染まった天使がいました。そして、天使は魔法で水をどんどん抜いて集めていってます。


 完全にあいつが犯人です。問い詰めましょう。


「ん……なんだい君たちは?」

「この川が流れる先にあるトアル湖という場所のほとりにすんでいる者です。水、抜くのやめてくれませんか?」


 天使の身体がビクッと揺れます。そして、嫌な感じの魔力を流し始めます。


「絶対にダメだ!!」

「……なぜです?」

「僕は……僕はこれ以上堕天する訳には行かないんだよ!」


 堕天? よく分からないのでルールーやシルフィに目を向けます。2人とも知らないみたいですね。アーさんは?

 

「天使は、心に闇をもつと堕天すると言われている。堕天した天使の証は、真っ黒に染った翼と真っ赤な光の輪だ」


 たしかに、あの天使の翼は先が少し黒く染っていますし、頭の上にある光の輪も赤みを帯びています。


「やるしかない。やるしかないんだよ! 邪魔をするなぁ!」

「うわ、いきなりですね」


 いきなり天使は魔法を放ってきます。脅威になるようなものではありませんが、危ないことに変わりはありません。


 こうしている間にもどんどん水は抜かれています。事情がよく分からないのですが、とりあえずは水を抜くのをやめてもらわないといけません。

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