40 平和な日々は続かないものです

「ぼこぼこですね……」


 私がやってるんじゃないですよ? アーさん、ルールー、シルフィが天使をボコボコにしてます。


 天使は魔法でゴーレムを作りまくって応戦してますが、出したそばから壊されてます。


 というかルールー、戦えたんですか? 戦闘訓練を受けていたのは知っていますが、そんなに強いとは。しかも使ってる武器はハンマーですし。


「マーガレット様、武器を!」


 金属のゴーレムを倒したせいか武器が壊れたようです。はいはい、直ぐに魔法で作って渡しますよー。


「くそ悪魔が! 僕を堕天の道に誘ってるのか!」

「ふん、堕天使の方がよほどマトモな生き方をしている。天使の理など、ろくなのでは無いだろう!」


 天使とアーさんはすごいやる気で戦ってますね。なんか、天使の事情をよく知らないのでなぜやる気になっているのかはわかりません。

 ですが、前お酒を飲んでいた時に、アーさんが言っていた気がします。


 天使と悪魔の生き方は絶対に混ざることがないと。


「くそ、くそくそくそぉ! この水をつかって僕は天界に戻るんだよ!」

「どういうつもりだ!」

「頼まれたんだよ……ここの国の王様に! どうしても水が足りないから、助けてくれって!」


 え? 聞き捨てならない言葉が聞こえた気がします。王様に頼まれた? この国の? 私を追い出した王ですか。きな臭いですね。


「頼まれた……ただそれだけの理由で迷惑をかける。相変わらず天使というものは勝手だな!」

「自らの享楽にしか興味のない悪魔が言うことか! 僕らは人のために生きているんだよ!」


 なんか、考え方のぶつけあいになってます。アーさんがあそこまで熱く真剣になってるのはかなり珍しいですね。実力的にはアーさんの方が僅かに上ですし、危なくなるまでは見ていましょう。


 天使はだんだん余裕がなくなってきたのか、ゴーレムの生成をやめてアーさんとの戦いに集中するようです。


「王に頼まれたと言ったな」

「そうだよ! 悪い女が王都を攻撃したせいで水が汚れたって言うんだ! それでここの水が余ってるから持ってきた欲しいってね」

「……馬鹿が。言葉を素直に受け取りすぎだろう!」


 私もそう思いますよアーさん。天使というのは人が助けを求めると快く応じてくれるものだと言いますが、まさかここまで考え無しに行動しているとは。


「だって、頼まれたんだから仕方ないだろう!? 人の願いを叶える、それが天使の生き様なんだよ!」

「……では、私の願いも叶えて貰えるんですか?」


 思わず口にしてしまいました。天使の動きがピタッととまります。人の願いを叶えてくれるなら、私の願いもお願いしたいです。


「私の願いは水を抜くのをやめて欲しいということです」

「そ、それは……出来ない! 僕はもう王様の願いを受けた!」


 えぇ、融通が効かなすぎじゃないですか? というか、なんかすごく切羽詰まってるみたいで冷静に考えれないんでしょうね。


 ……というか、あの王はなぜそんなことを願ったのでしょう?


 水が足りないというのは間違いなく嘘です。あの都の水はトアル湖とは比べ物にならないほど巨大な水源に支えられている存在なので。


 しかも、なぜトアル湖のことを指名したんでしょう。考えられるのは、私たちへの嫌がらせです。


 わざわざ天使を送り込んでくるなんて、それしか考えられません。


 ……嫌がらせ。なにかすごい胸騒ぎがします。勇者が奴隷の首輪を使っていたこともそうですが、王国のやり方はかなり過激になってます。


 それなのに、今更天使1人を送り込んでくるだけでしょうか?


 むむむ、色々とよく分からないことが増えてます。こういうのはみんなで考えた方がいいので、さっさと村に戻って話し合いましょう。


「悪魔め……滅びろよ! 《天剣のーー》」

「聞きたいことがあります」

「うわぁ?!」


 天使の一撃をかき消して話を聞かせてもらいます。


「その王、他に言っていたことは?」

「は、はぁ?」

「いいから、答えてください」


 大事なことなんです。答えてください。


「ほ、他にっていっても……」


 んー、まどろっこしいですね。こうなったら魔法に頼ります。


「うわ、契約?! なんで強制的に……うわぁぁぁ?!」


 一時的なものですから大人しくしてください。契約魔法で主従関係にしたうえで、魔法で記憶を除きます。かなり際どい魔法ですけど、除きたい記憶を限定してるので多分大丈夫です。


 天使の記憶が浮かび上がってきます。ここは……私が追放を言い渡された場所ですね。嫌な思い出です。


 話しているのは王と天使です。


「天使よ……我が願いを聞き入れてはくれまいか?」

「願い? 悪いけど、僕はもう天使としては生きられない」


 なんだか、記憶の中の天使はかなり疲れている様子ですね。

 翼の先に視線を向けてます。黒くなってしまっている部分です。なるほど、堕天というのが始まっていたのですね。


 そして、王もまた翼の先を見つめて邪悪な笑みを浮かべています。


 うわ、鳥肌がたちました。嫌な笑い方です。


「我らは……聖女を騙る悪しき女に、困難な道を敷かれているのだ」

「……そうなのかい?」


 天使、ちょろすぎません? 王に向かって心配そうな視線を向けてます。


「そうなのだ……街は破壊され、勇者を殺されたのだ」

「たしかに、来る途中で天変地異でも起こったのかというほど地形が荒れていたし、大穴も空いていたよ」


 それはフォーレイと勇者、そして私のせいですね。ですが街を破壊したり勇者を殺した覚えはないです。


「多くの兵が殺され……家族を失った国民も多い。そして、挙句の果てにその女、マーガレットは我が国の水源を破壊したのだ」

「水源を……」

「その結果、国民は苦しんでいる。どうか、頼まれてはくれないか?」


 天使は、凄く悩んでいるようです。


「……わかった。水をどうにかすればいいんだろう?」

「おお、その通りだ!」

「わかった。僕が天界に戻るには……これしかないのか」

「なにか言われたか? 天使よ」


 ぼそっと呟いた言葉。気になりますね。心に闇を持つと堕天するそうですが、心の闇を晴らせば天界に戻れるということなのでしょうか?


「何も。そのマーガレットという人は?」

「あの悪女には、別の手を打っている」

「別の手? 話を聞く限り、相当な力を持っているんだろ」

「いかに強かろうが、一人であることに間違いはない。それに弱点はあるのでな……いずれわかるだろう。それよりも、天使よ。我が国民を救ってくれ」


 私に弱点、ですか?


 ……まさか。急いで魔法でアダムに連絡をとります。


 反応が、ありません。いや、これは魔法が遮断されている?


「みんな、村へ戻りますよ」

「マーガレット、どうした?」

「村が危ないです。この天使は私を村から離れた場所におびき寄せる餌です」

「餌だと……? なんのために?」


 天使の記憶の続きを思い出します。天使はあまり気に止めていなかったようですが、王は一言だけ呟いていました。


「あの女……余を侮辱したことを後悔させてやる」


 私が追放された時も侮辱がどうのこうこ言っていましたから、たったそれだけの理由なんでしょう。


「狙いは私です。ただ直接狙うのではなく」

「村を狙うというわけか。あそこがマーガレットにとって大切な場所だと知ってやっているのだろうな」

「許せません。私の平和でほのぼのした空間を狙うなんて……本気で怒ります」


 最近、戦ってることが多くてあまりほのぼの出来ていませんが、村を守るためです。


 降りかかる火の粉は全て振り払って、私はみんなと平和に暮らすのです。


 転移は……無理ですね。魔法で飛んでいきましょう。


 全員をうかべた所で、なぜか辺りが暗くなります。魔法? いや……違います。上を見上げれば、とてつもなく大きな鳥が上空を覆っていました。


「あの馬鹿でかい鳥……マーガレット、ここは我に任せろ。村へ行け」

「私も残りましょう」

「ワタクシもです」

「……わかりました。お願いします」


 私は村へ向かいましょう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


sideアーさん


 まったく……マーガレットは平和に生きたいだけだというのに、なぜああも厄介事が起きるのだろうか。村は心配だが、我はマーガレットと、マーガレットの信じた者たちの実力を信じている。


 それよりも、目の前にはさきほどの天使と、巨大な鳥がいる。


 巨大な鳥は、マーガレットを追わずに我らの前に降りた。そして、巨大な二対の翼を持った天使へと姿を変えていく。


 ……あの嫌味ったらしい表情と、ニヤニヤとして落ち着かない口元。変わっていないな。


「あれー、久しぶりだね。悪魔公!」

「3歩歩けば物を忘れる鳥にしてはよく覚えているじゃないか、アラエル」

「言ってくれるじゃないか悪魔公、だけど悪いね。今日は君と喋る時間はあまりないんだよ、なにせ久しぶりの大きな願い事だからね! 天使としての本分をまっとうさせーーあびゃ?!」


 アラエルが勇ましく語っていたところで、シルフィの放った矢が容赦なくアラエルの顔に直撃する。とてもアホな声が出ていたが……。

 まぁ、我としてもスッキリする仕打ちだったが。


「……容赦ないな」

「マーガレット様の敵ですから。戯言など聞く必要はありません」


 とても怖いのだが……シルフィよ。いつも金髪が虐められているが、よくあの人間はめげずに耐えている。


「くっそぉ、痛いなもう! やってくれるね」

「生きてましたか。ではもう一度」

「やらせるわけないだろう?」


 やれやれ、終わっていないのか。では、我も戦うとしよう。


 我とて、マーガレットと過ごすようになってから、ほかのものと同じようにつよくなったのだ。


「前戦ったのは100年前だったか? 決着をつけるとしよう、アラエル」

「いいよぉ、僕も望むところさぁ!」

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