38 新しい命です

「……いい天気ですねー」


 勇者との戦いという大仕事を終えた私は、凄まじく怠惰な生活を送っています。


 連れて帰ってきた人はナオキという名前でした。珍しい名前です。しかも、前の記憶がないとかで、いきなり勇者の仲間として扱われていたようです。奴隷の首輪を付けられていたので逃げること叶わず、めちゃくちゃな扱いを受けていたとか。


 名前は覚えてるので、前の記憶が無いというのは本当なのか微妙なところですが、深く尋ねるのもあれなのでそういうことにしておきます。


 ナオキはアダムとよく遊んでくれているし、いい人です。頼る身寄りもないようですから、このまま村に住むというのも歓迎なんですけどね。


 あぁ、ちゃんと村につくった防壁は片付けましたよ。また必要になれば作りましょう。


 勇者という存在があの首輪を使っていたことが気になりますが、村を守ることが出来てとても良かったです。


 ……とたとたと子供の足音が聞こえてきます。アダムですね。


「おかえりなさい、アダム。ナオキも一緒ですか」

「……どうも、マーガレットさん」

「お母さん! 大変だよ! シラユキの子供が生まれるって!」


 えぇ?! それは大変です。直ぐに向かいましょう。アダムが走ってきた理由はこれだったんですね。


「フェン! シラユキは大丈夫ですか?」

「主、来てくれたのか。容態は安定している」

「そうですか……なにかあったら全力で助けます」


 魔力には自信がありますから。助けますよ!


「主が助けると最初から神狼が産まれそうなのだが」

「助けなくても可能性はあるぞフェン。現にここで生まれる悪魔の子供は最初から上級悪魔の強さを持ってる。この前なんて超級悪魔の強さを持った子供が生まれた」

「……心配になってきたのだが」


 それって私のせいなんでしょうか? けど、悪魔たちはどんどん強くなっていきますね。すごい数で子供も増えてるみたいですし。


「む、シラユキ!」


 シラユキのいる家の雰囲気が変わりました。これは生まれますね!


『『キャン!』』


 可愛い鳴き声と共に、家が吹き飛びました。


 ……え? 家が吹き飛びました?


「何が起こったのだ……シラユキ! 無事か!」

「……無事ですよ。あなた」


 え、シラユキの声初めて聞きました。すごい大人の女性という感じの声です。それよりも、子供たちは?!


 シラユキのもふもふの上には、凄まじい魔力をその身に宿した2匹の小さなオオカミがいました。か、かわいいです!


「これは……神狼ほどではないが、魔狼の上位種だな」

「だからさっき声に魔力が乗ってたんですね。家が一撃で壊れるとは……」


 魔狼の上位種ということは、フェンは少し肩身が狭いのでは? いや、今はそんなことを考えず、新たな命が生まれたことを祝いましょう。


『『キャン!』』


 ぶっ飛ばされました。痛くは無いですが、これは少し対策が必要ですね。


「フェン、シラユキ、名前は決めてますか?」

「男ならばファオラン」

「女の子ならばシラン」


 フェンとシラユキがそれぞれ答えてくれます。生まれた子供は男女ですから、この子がファオラン、この子がシランですね。


 子供たちはフェンとシラユキに任せて、私は仕事をしましょう。


「家を直しましょうか。あと、あの子たちように頑丈にしなきゃいけませんね」


 叫ぶ度に壊されては大変です。頑丈に魔力で強化してつくりましょうか。


 よし、出来ましたね。これであの子供たちが全力で鳴いてもこわれないはずです。


 仕事を終えて、家に戻る途中で何かを探している様子のルールーとシルフィを見つけました。ああいう時は大抵私を探しているときなので、自分から行きます。


 間違いなく仕事関係でしょうが、ほっといてもいずれ話が来るので早めに片付けましょう。


「ルールー、シルフィ」

「「マーガレット様」」


 2人とも、いつもより深刻そうな表情ですね。


「何があったんです?」

「それが……トアル湖の水が凄い勢いで減っているという報告があったんです。それで様子を見に行ったらかなり深刻で……」


 トアル湖の水が? あそこはこの村にとっての水源ですから、無くなるのは困ります。すぐにシルフィとルールーを連れてトアル湖のほとりにいきます。

 最初にここに来た時の焚き火跡がまだ残ってますね。懐かしいです。


「……これは、本当に減ってますね。原因は?」

「調査中ですが、この湖に流れ込む川の水量が減っているみたいです」


 なるほど。その調査はいつものようにルールーが連れてきた人たちの中で有識者がやってくれたんでしょうが、本当に優秀ですね。知識は力です。


「そっちも見に行きましょうか」

「私達もお供します」


 一緒に行きましょう。


「我も行こう」

「アーさん、こんなところで何をしてたんです?」

「マーガレット達と同じだ。悪魔が水が減ったと騒いでいたのでな、様子を見に来た」


 同じ理由でしたか。では、アーさんも連れて一緒に行きます。


「歩いていくのもあれですから、飛んでいきましょう」


 かなり距離がありますし。魔法で全員の体を浮かせます。


「え、マーガレット様? まさか……」

「大丈夫です。危なくは無いですから」

「危なくなくても怖いやつですよね?!」

「……一瞬ですよ」

「「きゃぁぁぁぁ?!」」


 そのまま浮かせた体を射出するようにして加速させます。ルールーとシルフィの悲鳴が聞こえますが、速さが怖いだけで危ない魔法では無いのでそのうち慣れます。

 悪魔は飛ぶことが多いのでアーさんは無反応ですね。……あ、いやちょっと怖がってません? 表情が強ばってるような。


 少し飛んだところで、川の上空に着きます。たしかに、川の水量も少ないですね。


「……マーガレット、川に降りるぞ」


 なにか見つけたのか、アーさんが降りていきます。


「これは……羽?」


 川に流れていたのはキラキラと光る羽でした。

 アーさんはそれを見て何やら難しそうな顔をしています。


「何かわかるんですか? アーさん」

「……これは、天使の翼から抜け落ちた羽だ」




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