第5話

 先日と同じように呆然としている相生六段に魔王が手をかざすと、相生さんの顔色が少し良くなった。目をぱちくりさせて、あたりを見回す。

「ここは……」

「病院ですよ」

「病院……田山君?」

「お久しぶりです」

「と……巨人!?」

「魔王だ」

「僕の弟子です」

 相生さんは口をへの字に曲げていたが、見るからに魔王は魔王なので無理矢理の納得したようだった。

「なんか、ずっと夢を見ているみたいだったよ」

「相生さん、記憶がある最後には何をしていましたか?」

「んー……家にいたね。将棋をしていたかも」

「ネットですか」

「ああ」

「アプリ?」

「そうだ」

「……」

「なんでそんなことを聞くんだ?」

「いえ、ちょっと気になることがあって。あの……これってひょっとして、相生さんじゃないですか?」

 僕は将棋アプリの棋譜を見せた。僕が負けたものである。

「よくわかったね。田山君と対戦してたんだ」

「完敗でした。ありがとうございます」

 その後しばらく世間話をして、僕等は病室を出た。

「師匠の方が探偵のようだったな」

「魔王は何か気付いた?」

「やはりモンスターの仕業だろうな。この前と全く一緒の感じだ」

「うーん、これは……」

 僕は、一つの仮説にたどり着いていた。しかしそれはあまりにも、当たっていてほしくないものだった。

「悩んでいるな」

「実は最近、ネットで終盤鬼強な人たちと当たることが極端に減ったんだ。みんな、あの状態になったのかもしれない」

「終盤力が高いと狙われるというのか? それならばプロ棋士はもっとやられているだろう」

「そこなんだよ……」

 むしろ僕の推察が正しければ、プロ棋士がいたということの方が問題なのだ。

「魔王、実験を手伝ってくれ」

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