ぬるま湯の人間

僕が心の中に抱くこれは


人が狂気と呼ぶものだ

人が闇だと呼ぶものだ

人が鬱だと呼ぶものだ

人が躁だと呼ぶものだ

ときには傲慢と呼ぶだろう


だからなんだというのだろう

この美しさと儚さがわからぬ者に

世界のなにが理解できるというのだ


今この瞬間に浮かんだ君が

今この瞬間に消えていくのだ


そんな速度で思考することもできないのに

移りゆく世界が描ききれるつもりなら

それこそまるきり傲慢の類ではないのか


僕は思考を辞めないし

僕は思考を辞められない


一瞬で人間を生み出して

一瞬で人生を捻じ曲げて

一瞬で思想を殺してやって

一瞬で存在を無にしてやろう


人間の思考は無限だ 故に恐れるがいい

命など掌で転がされているだけと自覚しろ

君が生きているのは僕の情けでもあるんだ


僕が小さなペーパーナイフをすぼめた裾に

仕舞っているかもしれないとなぜ考えない?

なぜ持ち腐れの脳味噌で思考を巡らせない?


それはぬるま湯で生きているからだ

この居場所が安全であると錯覚している

この舞台の色も光も台詞も僕が創っていて

この舞台の場所も大きさも時間も席の数も

全て 全て 僕が決めたものだというのに

君はのこのことやってきて阿呆面さらして

安らかな時間を過ごしてのうのうと笑う


君の紅茶に僕が毒を混ぜていないなどと

確信できるのは柔な心で生きているからだ


それでいいさ 君は愚かであるといい

きっと人間は そのほうが幸せだろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る