消してあげようか

君はこの世界に生まれて 幸せだろうか

僕や彼ら 頭のネジを紛失した人間共に

こうして弄ばれるためだけにこの世界に

生まれてくる君は 不幸なのだろうか 


そうだといいなあ いいよなあ


苦痛に歪むその顔をこの目で見たくて

僕はこうして産みの苦しみを味わってまで

君をこの世界に招き入れ 表現したんだ 


この時間 長かった やろうと思えば 

上等な珈琲と 鳥の声に耳を傾けることも

有益な本を読むことも 娯楽に耽ることも

近くの河瀬を思うがままに散歩することも

心地の良いベッドに身を沈ませることも

容易なことだったというのに 


わざわざ 君のために 

僕はこうして時間を割いたんだよ


君の姿をこの目で確認したかったからだ

別世界で幸せに恵まれていても関係ない

その手に子供を抱いて笑っていようが

伴侶と喧嘩して喚こうがどうでもいい


君は世界に僕のものとして生まれたんだから

なにも気にしなくていいんだ そうだろう


あの世界に残したことなど全て忘れ去り

ただ僕の欲望を満たしてくれればいいんだ


そんなに不安なら丸ごと消してしまおうか

忘れることができないと言うのならば

消してしまおうか 僕は容易くそれをする


おや そうかい


忘れる努力をすると誓ってくれるのか

まるで人質だな 滑稽で愚かで素晴らしい

僕のために いや 君が守りたいのは

あちらなのだろうが 大した差ではない


大丈夫だ 


この件に関してもう僕は咎めないこととしよう

なぜならば もう 今この瞬間から そうだ

彼らはどこにも存在しないことになったのだ


この瞬間 君は彼らを忘れ 彼らは君を忘れ

世界から 隔離された存在になったのだ


誇るといい 君は孤独だ おめでとう 

選ばれた君には相応の幸せを与えよう 


誇るといい それが史上の絶望だ

誇るといい それが史上の幸福だ

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