ゼウス・エクス・マキナ

「ゼウス・エクス・マキナ」


それはなんとも都合のいい存在だ

混乱に陥った民衆のことも紛争も

彼らが譲りきれぬ情愛も怨恨も全て

容易く操り解決に導いていってしまう


口をひらけば幕がかわりゆく

それがどんな状況であってもだ


舞台のうえの最高神 ゼウスよ


その浮つく言葉と翻した身体を使って

蔓の如く絡み合う世界の因果から颯爽と

彼らを解放していく唯一無二の存在だ


「ゼウス・エクス・マキナ」


それはこの世界における神様だ

人々が助けを求め祈りを捧げる存在だ

はは なんと都合のいい神様だろう


神に 悩みはないのだろうか

神は 迷わないのだろうか


世界の行く末を全て知るあなたにとって

人々の感情の機微など 哀れな塵芥の

ひとつに過ぎないのだろうが なあ


「ゼウス・エクス・マキナ」


ゼウス 僕はあなたを 憐れむよ

全てが その目に映るがために

全ての 力を生まれ持ったがために

全ての 心を失ってしまったあなたを

僕は 心の底から 憐れむだろう


あなたはその天界の高貴な座席で

悠々と座って眺めていればいいんだ

あなたの力など 頼るまでもなく

この世界は 僕の力で終わらせる


そうだろう ゼウス あなただって

元々は僕から生まれた存在じゃないか


僕はね 君と違って 人であることを

まだ 諦めちゃいないんだよ

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