第7話 初狩り

 僕は真新しい装備の感触を確かめつつ、初歩の体の動かし方をユイナに聞きながら歩き、ユイナと共に街の門に到着した。


外に出る手続きのために門番をしている衛兵にギルドカードを提示すると、

「そのピカピカの装備だと、初狩りかい?最初は1,2匹の少ない相手を探して、有利な条件で戦いなよ。危なかったら逃げるのも大事だぞ」

と衛兵が確認したカードを返しながらアドバイスをしてくれた。


「ありがとうございます。この近くで常設依頼の魔物が出るお勧めの場所はありますか?」

とお礼を言いながら尋ねると、衛兵は少し考え、

「そうだな。この街道を少し進むと右に林が見えてくるから、その近くをウロウロしているゴブリンが狙い目かな。ウルフより逃げ易いし。」

と教えてくれた。


「なるほど。じゃあそこに行ってみます。」

「ありがとにゃ~」

そうして、僕たちは親切な衛兵にお礼を言って門をくぐったのだった。


門を抜けた後、早速ユイナが「よ~し!」と駆け出しそうな雰囲気で意気揚々と出発しようとしたので

「あ、ユイナ!ちょっと待って。」

と呼び止めた。


「そういえばユイナ、さっき言い忘れてたけど、僕、気配察知の魔法だけは、魔力量が多いからか得意なので、任せて。やり易い相手探すから。」

と提案した。

そう、不思議と気配察知だけは得意なんだよね。学院では生かしようがなかったけど。

あとこれを使うと普通の人は感じられないような気配を感じることもある…。

前世で霊感とかなかったんだけどなー。今のところ実害がないから良いけど、こっちの世界は濃いのがいそうであまり使わないようにしてたから、さっきは思いつかなかった。


「そうか、私も豹族の獣人だから気配には敏感だけど、任せるにゃ」

「えっ!」

ユイナの返事に思わず固まってしまった。…豹族って言った?

「どうしたにゃ?」

「豹族だったんだ、てっきり猫族かと。」

「猫じゃないにゃ!誉れ高い豹族にゃ!あんなのと一緒にするなにゃ!」

「でも、「にゃ」って言ってるし…」

そのしゃべりとネコミミで猫族でないって反則じゃない?

「むー!そんなの関係にゃい、…ないヒョウ!」

ないヒョウ!?

「ブハッ、何その語尾!」

「うるさいヒョウ。早く行くヒョウ。」

「プッハハハッ!駄目、無理〜!腹筋が〜!」

「む〜!」

笑い止まらずにいたらユイナにげしげし蹴られた。

「イテテッ、ハ~、そもそも何でにゃ?」

「幼いころ家族とかがかわいいって言うから続けてたら口癖になったにゃ。なったヒョウ……もう直すの無理にゃ」

「ハハッ、ヒョウよりにゃの方がかわいいから良いと思うよ。ブハハッ」

「ぐむむ~!」

2人で騒いでいると、先程の親切な衛兵も聞こえていたらしく、衛兵の肩も震えていた。


「じゃあ行ってきます。」

震える衛兵さんと目が合い、再度挨拶をして出発しようとすると

「ぶふっ。…あ〜気をつけて。暗くなる前に切り上げなよ」

と込み上げてくる笑いに耐え切れてない顔で送り出してくれた。

「はい」

「むー笑い過ぎだにゃ。ライル覚えておけよ」

こうして、頬を膨らませてちょっと顔の赤いユイナと一緒に街道に沿って歩きだしたのだった。



しばらく進むと、右手に林が見えてきていた。僕はそろそろ気配察知の魔法に適した距離かなと思い、立ち止まると

「ユイナ、そろそろ気配察知の魔法を使ってみるね。少し時間かかるけど」

とユイナに呼びかけた。

「らじゃ!」

ユイナが頷いて立ち止まると、僕は魔法に集中し始めた。


見たことあるのは探しやすいけど、ゴブリンはないから…え~と、50cm以下は無視して広く探す感じに設定して…こんな感じかな?


『サーチ!』


僕が呪文を唱えると、自分から放たれた魔力を通して、それらしい気配を3つ感じ取ることができた。


「ユイナ、あの辺の林の少し奥に120cmくらいのが3匹いるよ。近くには他にいなさそうだね。」

「へ〜私にはまだ感じられない距離だから凄いにゃ。じゃあ気付かれないように迂回して近づくにゃ。」

ユイナは感心して、迂回する方向を指し示し、2人は行動を開始した。


2人で近づいて行くと、言った通りの場所に3匹が固まって居るのが見えた。それを確認した僕とユイナは一旦頭を引っ込めて、林の影に隠れて打合せを始めた。


「3匹結構固まっていたにゃ。どうする(小声)」

「遠くから一撃で仕留められないし、1匹おびき出したいね。(小声)」

「こちらに小動物っぽい音出そうかにゃ?(小声)」

「じゃあ少し遅れて向こうの木の葉を揺らすように風を起こす『ウィンド』の魔法で、あちらに注意を向けさせて後ろの2匹を足止めするね。風を起こすだけの初歩の魔法なので暴発とかそんなに関係ないはずだから。(小声)」


・・・・・

その時、小さな不可視のものが漂いながら

〔ねぇ何か面白そうな話しているよ〕

〔あ、あのブレスレットってアレだよね〕

〔へー久しぶりに見るよね〕

〔あちらに注意を向けさせれば良いのだろう?それならこんな感じはどうだ?〕

〔アイツの魔力を使えばいけそうだね。面白そう!〕

と言っていたのを、ユイナはもちろん僕も気付いていなかった。

・・・・・


簡単な作戦が決まり、それに向けた僕の風の魔法の準備も整ったので、まずはユイナが少し離れた場所に石を投げて、カサカサッと音を出すと、ゴブリンが気づき、1番近くにいたやつがこちらに近づいてきた。


よし、今だ。できるだけ小さな声で…


『ウィンド!(小声)』 〔そんなんじゃ足りない。もっとちょうだい〕


僕が呪文を唱えると魔法が発動!…してない!?なんで?あ、狙って凝視していた先の葉っぱが1枚がそよっと動いたような?

あっまずい、1番近くのゴブリンの動きに向こうの2匹が気付いて追ってこようとしてる!


もっと大きく、向こうの2匹の注目を集めるように!急げ!!!


『ウィンド!!!(小声)』 〔よし!きたきた!〕

 あ、何か魔力が!この感触はマズっ!ってうわっ何!


ドビューーーーーー!!!

「ブキューーー!?!?」

ガササササッ!!バキャッ!!カコーン!!!〔命中!ワハハハハ〕


 僕の呪文により突風が吹き抜け、そして何故か巻き込まれた角のあるウサギが空を飛び、葉っぱを散らし木の枝を折った後、大きな木の上の方に角が突き刺さっていた。ゴブリンは皆ビクッとして、木を見上げたのだった。

 ユイナもちょっとポカンとしたが、直ぐに飛び出し、斜め後ろを見上げる形の一匹目の喉をジャッと切り裂き、2匹目の背中に体ごとぶつかる様にドスっと深く短剣を突き刺した。

 ここで襲撃に気づいた3匹目が慌てて振り向き、棍棒を振り上げてくるが、ユイナは2匹目の背中を蹴って、短剣を抜くと同時に3匹目に勢い良くドカッとぶつけた。3匹目は体勢を崩し2匹目に乗りかかられ、身動きがままならないまま、ユイナに喉を切り裂かれた。


3匹の討伐を慎重に確認してから、一息ついたユイナが、

「ライル、あんな大きな風だと思ってなくてびっくりしたにゃ。向こうの2匹の注意を引いて分断するんだと思ってたにゃ。しかもウサギが跳んでるし…あと2回唱えなかったかにゃ?」

と言ってきた。


…だよねぇ。自分もそのつもりだったよ。

「ごめん。ユイナ。その予定だったんだけど、1回目は小さすぎて2回目はちょっと暴走して……ウサギはホント偶然で…」

「……まぁ結果オーライにゃ!」


ユイナはふんふんと頷きながら(ユイナはこれからは暴走にも心構えしておこうと心に誓っていた笑)僕の肩をバンバンと叩いて

「パーティーの初討伐にゃー!」

と歓喜の声を上げたのだった。


その後、

「ゴブリンの討伐証明部位は左耳だったよね。あとは…あの一角ウサギは届かないし、棍棒は使えなさそうだし置いていくかな。」

「突風の時の音とウサギで何か来るかもしれないから、移動するにゃ。一旦帰る?」

「うん。そうしよっか。」


と常設依頼のための証明部位を切り取り初戦闘を終えた2人は、街への帰路についたのだった。

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