第6話 冒険準備

「さて!ライルさん、ユイナさん、冒険者登録ありがとうございます!こちらがお二人のギルドカードとなります!」


 ちょっと前とは同一人物とは思えないほど雰囲気が華やいだ青色の髪をショートカットにした受付嬢が、全開の笑顔でカードを渡してきた。

 おお。この人こんなに綺麗な人だったんだ…。

 その変わりように驚きつつ、僕はカードを手に取った。おぉこれが冒険者カード!思わず笑みがこぼれた。

 ちなみに隣にいるユイナは、ギルド併設の食堂で串焼を買ってあげたので満面の笑みを浮かべている。


「カードに名前の他にEって書いてありますね。ランクとかですか?」

「はい、それは冒険者のランクとなります。よくご存じですね。冒険者にはE〜Sまでのランクがあって、最初はEランクからのスタートになります。依頼やランク、ギルドについても説明した方がよいですよね?」


「お願いします。」

「フガフガ(よろしく※串焼き頬張り中)」


「ではまず依頼とランクですが、現在受けられる依頼は、あそこのボードに貼ってあります。そして依頼には難易度に応じてランクが書かれています。自分のランクと同じランクまでの依頼しか受けられないので注意して下さいね。

 依頼を受けるときはボードに貼ってある依頼書を剥がして、受付まで持ってきてくださればオッケーです。あっでも常設依頼と書いてあるものは、討伐証明部位や採取物を受付に持ってくるだけで依頼達成となります。

 依頼にはそれぞれランクポイントが設定されてあって、依頼を完了してランクポイントを一定数貯めると、ランクを上げることができます。なおCランク以上に上るときは、毎回ランクアップ試験があります。逆に1年間活動しなかったり5回連続で失敗すると、ランクダウンします。高いランクの依頼ほど難易度は高いですが、報酬も高くなるので頑張って下さいね。」


「次に冒険者ギルドについてですが、冒険者ギルドは世界中に支部があり、冒険者は国を自由に移動する事が可能です。先程お渡しした冒険者カードを作る時に血を1滴垂らして頂きましたが、これで本人にしか使うことができないので、身分証明書としても使うことができます。多くの国で入国手数料が無料になったり、手数料はかかりますが世界中の冒険者ギルドでお金の出し入れができたりと色々と恩恵がありますよ。」


 かなり想像していた通りですんなり理解できた。

 でもこの受付嬢さんの説明は凄い分かりやすかったから、前世の慣れがなくても理解できたと思う。最初の印象はアレだったけど、優秀な人だよね。

 ギルドカードも魔道具全盛だから違和感ないけど、本人認識とかやっぱ凄い。


 僕がカードを表裏にひっくり返したりながら眺めていると、笑顔の受付嬢が続いてこちらのカードを指差し

「あと、カードにはパーティー名やクラン名、称号なども記載されます。パーティー名決めちゃいますか?」

と聞いてきた。


するとユイナが

「それならくれないの…!」

と言いかけたので、昨日の顛末を聞いていた僕は

「却下。」

と素早く止めたのだった。


「むぅ。」

「ははっ、直ぐに決めなくても大丈夫ですので決まったら追記するので言って下さい。」


2人のやり取りに微笑んだ受付嬢は、さらに

「それより目的地は魔の森ということでしたが、行く前に軽い依頼とかで2人の役割や出来ることを確認することをお勧めしますよ。」

とアドバイスをしてくれた。


「なるほど。お勧めの依頼ってありますか?」

「そうですね〜街道沿いのゴブリンやウルフ、川沿いのスライムは常設依頼になっていますのでどうでしょうか。」


「フッフッフッ、それ位なら楽勝にゃ。」

「ユイナさんはその装備だとスピード重視の軽戦士ですか?」

「そうだにゃ。短剣を2つ持つ双剣スタイルにゃ。」


と自信満々なユイナの戦闘スタイルを確認した受付嬢が、こちらに目を向け

「ライルさんは魔術学院を卒業されたとのことでしたので魔術師ですよね。得意な魔法とかは?」

と聞いてきた。


 いや、暴発する落ちこぼれなんだよね…。ホントは魔法で無双するはずだったのに…。

 学院卒の期待値がつらい…。


「…焦るとすぐ暴発しちゃうので…暴発しても問題ない殺傷力のないやつかな…ライトとか…」


「あっでは、独自開発した魔道具をお持ちとか?」

「…市販の方が断然性能が良いですね…魔力量は多いので持ってれば自前で貯めることはできると思うけど、市販のは高くて…持ってないです……

 一応作った中で使えそうなのは、どれだけ魔力を込めても暴走せずに、威力の小さいファイアボールを出せるヤツかな?………」


現実を思い出し、思わず声が段々小さくなった


「…」

「…」

沈黙がいたいです。


「とりあえず、ライルさんがゆっくり準備できる魔法か、暴発しない魔法で牽制して、ユイナさんが突っ込む形でしょうか。」

受付嬢がなんとか絞り出して提案してきた。

「何かやっぱり僕には無理な気がしてきたんだけど」

「まぁ私に任せるにゃ!ライルは少しずつ強くなってくればいいにゃ!」

やっぱ戦闘とか無理なんじゃ…と不安がぐんぐん増殖する中、受付嬢とユイナに励まされ、とりあえず試してみることにした。



「うーん。じゃあまずは近くの街道沿いに行ってみようか、ユイナ…さん?」

「さん付けとかいらないにゃ。ユイナでいいにゃ。私もライルって呼ぶし。じゃあ早速〜!」

気を取り直した僕とユイナがそのままの格好で出て行こうとすると、

「ちょっと待って下さい!ユイナさんはその格好で良いですが、ライルさんは装備いりますよ!あと素材運ぶ麻袋とか!」

と受付嬢が慌てて止めてきた。


「あっ、そうか。どこで揃えれば良いですかね?」

「初心者用の装備と道具はギルドの売店にも売ってますよ。あと討伐した魔物の買取もギルドでやってます。買取素材は掲示板に書いてあるので見ておいて下さい」


危ない危ない。まだ実感が足りてないよ。助かった。

「色々とありがとうございました。えーと、」

「受付嬢のアスラです。今後ともよろしくお願いします。」

「アスラさん、ありがとう」

「アスラ、ありがとにゃ~」


 この後、装備の高さに驚きながら、革の胸当てと、脛当て、小手、剥ぎ取り用のナイフ、麻袋を購入し、不安と期待でドキドキしながら街の出入口の門に向かったのであった。

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