第31話 力の代償 3

「……くそっ!」


 ユウヤと一緒に廊下を歩きながらリーナは悔しそうに示談他を踏んだ。


「皆、どうして、あんな態度をとるんだ? ユウヤ殿が何か悪いことをしたのか? 敵を蹴散らし、街に平和をもたらした……本来なら賞賛されるべき行いではないか!」


「あはは……無理しなくていいんだよ、リーナ」


「わ、私は無理などしていない! 私は貴殿が本当はどんな人間か知っている、たとえあんな風に――」


 リーナは先ほどの惨事を思い出してしまったようで、少し気まずそうな顔でユウヤから視線を反らす。


「いいんだよ。誰だってあんな化物が大暴れしている光景を見れば怖いさ」


「な、何を言っている! じ、自分で自分を化物など言わないでくれ」


「いいや。俺は化物だよ。前にも言っただろ? だから、みんなとは一緒に暮らせない。鎧もいらない、というか必要ないさ。俺は……倉庫にでも篭っているよ、必要な時だけ呼びに来てよ」


 ……そうだ。やっぱり自分は化け物なのだ。それはどうやったって変えられない事実である。


 千年以上前から既に自分は決定的に死んでいるのだ。死んでいるというのは紛れもなく、ユウヤという人間が死に、残ったのは、不気味で巨大で、制御不能な化物だけなのである。


 ユウヤはそのままリーナを於いて廊下を進もうとした。


 これでいい。変わらない。前と同じように、一人の生活に戻るだけ。


 ……いや、それよりも何倍もいい。周りには人間がいるとわかったのだから。もう一人じゃないとわかったのだから。


「待て!」


 そんなユウヤの背中から大きな声が聞こえる。


「……私は! 貴殿に命の恩義がある! 貴殿がよくても私がよくないのだ!」


 そういうリーナの足が震えていた。やはり自分が怖いのだ。


 でも、その青い瞳はまっすぐと自分を見つめていた。あくまで、ユウヤを見捨てないのだという覚悟をした瞳だった。


「……どうして? どうしてそんなに――」


「言っただろう! 私は騎士だ! 弱きを助け、救済するもの……だから、貴殿が苦しんでいるのなら私も苦しむ! だから、貴殿は私に任せればいい!」


 リーナはニッコリと微笑んだ。


 ユウヤはその瞳を丸くしてリーナを見る。


 どこまでも真っ直ぐでどこまで優しい……まさに騎士にふさわしい人間の精神だった。それを体言したような少女が自分の前に立っている。


 ユウヤは自分の爛れた頬を涙が一滴流れるのを感じた。


「私も一緒に皆に頼む。だからそんな悲しいことを言わないでくれ」


「……うん。わかった」


「なんだ? 貴殿泣いているのか?」


「ああ……ちょっと、ね?」


「あんなにも勇猛果敢な動きを見せておいて情けないぞ! ほら、行くぞ」


 小さな騎士は巨体のユウヤの腕を引っ張ってそのまま廊下を歩いていったのであった。

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