第12話 転機

「リーナ? 起きてるか?」


 夜になって、ユウヤはベッドで寝ているリーナの様子を見に来た。リーナはその声を聞いて体を起こした。


「あ……悪い。起こした?」


「いや……大丈夫だ」


「身体の調子はどう?」


「ああ……ただ、水を一杯くれ」


「わかった。すぐに準備するね」


 ユウヤはリビングに戻り水をプラスチックのコップに注ぐ。そして、リーナに持っていった。


「はい」


「ああ、ありが……な、なんだそれは!?」


 と、リーナは血相を変えてユウヤが持っているコップを指差した。


「え? ど、どうしたの?」


「水が……宙に浮いている……」


 リーナは震えながら目を大きくひらいている。


 最初ユウヤはなんのことかわからなかったが、確かに透明なプラスチックなコップに入った水を、暗闇の中では、宙に浮いていると勘違いすることはあるかもしれない。


「あ、あはは……ごめんね。暗いからかな。今電気を着けるね」


 ユウヤはそういって小屋の電気のスイッチを入れる。


 ユウヤの小屋は自家発電、及び太陽光発電システムを採用していた。この小屋自体シェルターのようなものだったのか、見た目はただの小屋だが、高度な技術が使われていたのだ。


「わっ!」


 と、リーナはまた大きな声を出した。


「ど、どうしたの?」


 さすがにユウヤも困惑してしまう。


「な、なんだ? 急に朝になったぞ!?」


「え? な、なんで? 電気つけただけなんだけど……」


 すると、リーナは立ち上がり、ベッドの側においてあった剣を取って、ユウヤに向ける。


「き、貴様! ど、どこか怪しいと思っていたが……魔術師だったとはな!」


「え……ま、魔術師って……いや、別に何もしてないよ?」


「黙れ! どうせ、キリシマの手のものなのだろう!? 覚悟し……ろ……」


 と、そこまで言って再びリーナはそのまま床に倒れてしまった。


「あ、ああ……だから安静にしてろって言ったのに……」


「だ、黙れ……敵の施しは受けない……」


「あのねぇ……大体、敵だったら、最初から君を助けないでしょ」


 軽くリーナの身体を持ち上げそのままベットに横にする。


「き、騎士になってから既にこの身は死んだ身……さ、さぁ、早く煮るなり焼くなり隙にしろ……」


「……結構思い込み激しいんだなぁ」


 ユウヤがそう思っているとリーナは再びかすかに寝息を立ててまた眠ってしまった。


 しかし、プラスチックも電気も知らないのか? ユウヤがかつていた研究所では、かなり高度な技術が使われていたはずだが……。


 ユウヤは考える。ひょっとしたら、この森の外では自分の予想を張るかに上回る事態が起きているのではないか?


 ユウヤの心に好奇心という感情が戻ってきた。この少女についていけば何かわかるかもしれない。


 それに、人間がいるとわかった以上、こんな人里はなれた場所にいることもない。


 かなり雑だが、こうやって姿を隠していれば化物であることバレなかった……少なくともリーナには。


「……まぁ、起きたら、事情を説明しようかな」


 ユウヤは隣で健やかに寝ている美少女の顔を見て少し恥ずかしい気分になる。


 こんな気分になったのもいつぶりだろうか……きっと、明日は今までの千年よりはいい日になる。


 ユウヤはそんな希望を旨に明日を待ったのであった。

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