第11話 この世界の神 2

 キリシマは男を自分の書斎へ通すとそのまま座らせる。


 男はそれと同時にこれまでの経緯をキリシマに説明した。


 キリシマは黙って話を訊いていたが、ゆっくりと頷いてから男を見る。


「……すると、何か? 怪物の邪魔が入って、騎士団長を殺し損ねたと?」


「そ、そうなんです! キリシマ様! 信じてください!」


 するとキリシマは急に笑顔になって、脅える男の方を優しく叩いた。


「ああ。信じるさ。この世界にはどんな不思議なことがあってもおかしくない。怪物か……そうだな。怪物が一匹や二匹いてもおかしくはないな」


「そ、そうでしょ!? あ、ああ。よかった……わかってもらえて」


 しかし、瞬時にキリシマの表情は冷たくなる。男はまるで蛇に睨まれたカエルのように凍り付いてしまった。


「だがな……それとこれとは話が別だ。お前は神の大いなる意思に背いた。神の意思に背いたものがどうなるか、わかるか?」


「え? キリシマ様、何言って――」


 チュン、と甲高い、だが、ほとんど聞こえないような音がする。


「が、がはっ……!?」


 次の瞬間、男は血を吐いて地面に倒れた。


「やれやれ……神としても、愛する子羊を無暗にやたらに葬りたくはないんだがな」


「あ、アンタ……そ、その腕……」


 薄れ行く意志の中、男は見た。


 キリシマの腕は、人間の腕ではなかった。まるで、筒のような……そう、鉄の筒だ。細い鉄の筒だった。その先から煙が出ている。


「なんだ? これか? これはな『拳銃』というんだ。君たち人間が出会うのは……まぁ、後数百年は先だな。貴重な体験だぞ、君は初めて拳銃で殺されたんだからな」


「な、なに言って……げほっ……」


「最も、君の存在はこの世から消滅するわけで、君が拳銃で殺されたという事実も消滅するわけだ。残念だがな」


 キリシマがそういって壁に設置してあるスイッチを押す。


 すると、男が寝そべっていた床が開き、そのまま男は穴に吸い込まれていった。


 男の微かな悲鳴だけが穴の中に木霊していった。


 そして、その穴も悲鳴が聞こえなくなると自然と閉じてしまったのであった。


「……ふん」


 キリシマはつまらなそうに鼻を鳴らした。


「キリシマ様?」


 と、突然書斎のドアを兵士が開けてきた。


「なんだ?」


「いえ……なんか、今、声がしたような――」


 するとキリシマは兵士に笑顔で返す。


「いや。何も聞こえなかったが……疲れているんじゃないかな? それより、兵士を何人か集めてくれ。極秘任務を伝達する」


「あ……わかりました!」


 兵士極秘任務と聞いて大慌てでは帰っていった。


 キリシマは深く溜息をつく。


 そうか。騎士団隊長……姫様は殺せなかったか。


 まぁ、いい。どうせ次で殺すさ。私の邪魔になる存在は全て、な。


 この世界の「神」としては邪魔な存在は許せない。


 神である自分の思考に背くものはできるかぎり排除していく。


 それがキリシマ流のこの世界での神としてのあり方だった。


「しかし……怪物か」


 キリシマは自身の腕を見る。


 と、瞬間的にキリシマの腕はまるで機械が作動するかのようにガシャガシャと音を立てて変形する。


 次の瞬間には、すでにキリシマの腕の先端は、銃口の形を為していた。


「怪物は……一人でいい」


 腕の先をガチャリと鳴らしながら、キリシマはニヤリと微笑んだのだった。

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