004_とあるマッドな博士の教室

「天使」「悩みの種」「人工の小学校」で「SF」


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 白い建物の、これまた白い部屋。それは背に白い翼を持ち、頭の上に黄金の輪を一つ持つ沢山の子供たちが机を並べる部屋。。

 そう、ここは学び。天使たちの学び舎であり、その幼い天使たちは教室に居た。


 窓から差し込む

 暑くもなく眩しくもないように、白いレースのカーテンが子供達を日差しから守っていた。


(徳の高い魂を天使に転生させてみたら、どうだ。この教室の荒れようは。なにかがおかしい。彼らは皆、人格者ではなかったのか)


 と、博士は生徒のリストに目を通す。

 白衣の博士、彼が困ったように髭もじゃの顎を指で擦ったかと思えば、手にしたハンカチで吹き出る汗を小まめに拭き取る。


 一方で子供達は、お互いあれやこれやとワイワイ、ギャーギャーと騒ぎまくる。そして中には椅子や机を弾き飛ばして蹴り飛ばす者まで出る始末。子供達は椅子や机に乗ったりジャンプをしたり、もうやりたい放題であったのだ。


「……静かに。みんな自分の席に着きなさい」


 博士は苦い顔をする。


(こんなことでは子供達を使った聞き取り調査も社会実験も、何も出来ないぞ)


 博士の自信なさげな震える声と、額の汗は止まらない。

 だが、子供達はそんな博士の思いなとそっちのけで勝手に振舞い、大きな声を上げ続ける。

 予想外。

 博士の脳裏に浮かんだのはこれだ。

 博士は頭を抱える。徳の高い魂をやっと揃えたと言うのに、いまやこの子供達はとんだ悩みの種と化していた。


 男の子も女の子もバタバタパタパタ。

 授業どころではない。


(この子たちには経験が不足している。そしてきっと、もっと大きな何かが決定的に狂っているに違いない)


 博士は教卓に飛び乗ってきた男の子を見たとき、これはダメだと決意した。

 そう。博士は意を決し、教卓の裏に付いた赤いボタンを押したのだ。


 するとどうだろう。


 教室の床に真っ青な穴が開き、子供達はいきなりの強風に煽られた。子供達は穴から下へと落ちてゆく。

 博士と博士は教卓にしがみ付く男の子の眼があった。


「君も皆のところに行こうね?」

 男の子はポカンと表情が消える。

 博士はそんな男の子の変化を気にもせずに、男のこの手を振り払い、男の子を青い世界へ突き落とす。


 子供達はそれぞれ翼で飛び上がろうとするが、強風の渦の力は強かった。


(これでいい)


 博士は深呼吸一つ、子供らが残らず青い世界に旅立った事を確認すると、大きく息を吐くのであった。


(うん、次の実験は徳の低い魂を転生させてみよう。安上がりだけが救いだな。さあ、サンプル集めからやり直しだ)


 博士は笑う。

 彼の頭の中には先ほどの天使への思いは既に無い。

 

 なぜ?

 なぜも何も、すでに彼の頭の中は次の実験のことで既に一杯なのだ。

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