第25話 【氷帝】候補VS【炎帝】候補

 フェルニーナとレイシスタの模擬戦と聞き、授業をしていた生徒たちは巻き込まれないようにと距離を取る。


「魔帝候補二人の模擬戦ですか」


「お、ディル。お前なんか疲れてるな」


「フレイナ嬢に的にされてましたからね。まぁ兄貴以外にフレイナ嬢の相手に慣れるのが俺くらいですから」


「なるほど。それはお疲れ様」


 キリヤとディルも他の生徒同様に二人から距離を取る。


「みんな結構注目してるね」


「そうでしょうね。魔帝候補同士の模擬戦なんだから」


 フェルニーナは杖を構え、レイシスタは氷の弓を構える。

 そして担任が二人の間に立ち、開始の合図を出す。


「お前らあまりやりすぎるなよ?……始め!」


 合図とともに二人は互いに魔法を放つ。


「【ファイア・バード】」


「【アイス・マルチアロー】」


 炎の鳥と複数の氷の矢が空中でぶつかり、両方とも消滅する。


「【ファイア・ボール】」


「【アイス・マルチアロー】」


 続いて複数の炎の球と複数の氷の矢が空中でぶつかる。これも両方消滅する。


「んー、ニーナと私の力はだいたい同じだね」


「そうね。このまま魔法を打ち合うだけでは埒が明かないわ」


「そうだね。じゃあ少し変えようか。【クリエイト・アイスアロー】」


 レイシスタの足元に大量の氷の矢が出現する。そして足元にある氷の矢の一本を手に取る。


「なるほど。そういうことね」


「うん。そういうこと【アイス・マルチアロー】」


 レイシスタの周りに展開された複数の魔法陣から氷の矢が発射される。


「【ファイア・ボール】」


 フェルニーナは複数の炎の球で打ち出し氷の矢を防ぐ。

 だが氷の矢と炎の球が全て衝突した瞬間に、一本の氷の矢が飛んでくる。


「っ!【ファイア・ウォール】」


 フェルニーナはぎりぎりのところで炎の壁を出現させて氷の矢を防いだ。


「いいね。どんどん行くよ!【アイス・ウォール】」


 フェルニーナの前方以外を囲むように氷の壁が出現する。

 そして壁のない前方から氷の矢が飛んでくる。


「性格悪いわね!【ファイア・ウォール】」


 炎の壁を自分を囲むように出現させて氷の壁を溶かし、飛んできた氷の矢を防ぐ。


「【アイス・マルチアロー】」


 間髪入れずにフェルニーナの上空から氷の矢の雨が降ってくる。


「私の視界を防いで前方からの攻撃に対処させて、最後に上から攻撃。さすがはシスタ。けど相性が悪かったわね。【ファイア・バード】」


 炎の鳥が飛び、上から迫ってくる氷の雨を全て溶かす。

 そうして氷の壁と炎の壁が消え、二人は互いを視認する。


「あれ防ぐんだ。やっぱりニーナは凄いね」


「ありがとう。でもシスタも作り出した矢と魔法の二つを使ってくるの結構きついわよ」


 魔法は続けて使おうとしても少しだけが開いてしまう。レイシスタは自分の手で矢を撃つことでその間を攻撃しながら埋めている。


「でもやっぱり相性が悪いわ。炎と氷。どうしても私に分がある」


「そうだね。でも、相性は火力で押し通す!いくよ、【氷狼フェンリル】」


 その瞬間、辺りに冷気が漂い、白く大きい狼が現れる。


「いいわ。私も、私の全力で相手をする。【炎炎鳥フレイム・フェニックス】」


 その瞬間、神々しい炎の鳥が現れる。


氷狼フェンリル】と【炎炎鳥フレイム・フェニックス】は互いに睨み合い、次の瞬間、互いに衝突する。


「喰らえ!【氷狼フェンリル】」


「燃やし尽くせ!【炎炎鳥フレイム・フェニックス】」


 衝突した二体は互いの主の命令と魔力を受け取り、力を増す。

 候補とは言え【氷帝】と【炎帝】の魔法。そんな二つがぶつかり合うと、周りに被害が出始める。


「熱っ!」


「こっちは寒い!」


「というかこの魔力やばすぎるだろ!」


 魔法の余波が周りに影響を与え、離れている生徒達に影響が出ている。


「これは少しマズいですね」


「どういうことだ?」


 魔力障壁と斬魔ノ魔剣により魔法の余波を防いでいるディルとキリヤ。


「あの規模の魔法が衝突した余波だけで被害が出ています。このまま二人が魔力をつぎ込み続けた場合、衝突に負けた片方の魔法が内蔵している魔力を爆発、最悪両方の巨大な魔力が爆発しますよ」


「それはヤバいな。おい、お前らその辺で……」


「いけぇ!【氷狼】!!!」


「燃やしなさい!【炎炎鳥】!!!」


 キリヤが二人を止めようと声を出すが、相手に勝つことに集中してる二人には聞こえていない。


「聞こえてないな。……ディル、巨大な障壁を張ってくれ」


「分かりました。ですが俺では生徒全員を覆うほどの障壁は張れませんよ?」


「なら他の奴は俺が……いや、大丈夫そうだ」


 キリヤの目には、自分たちと反対側に居る生徒たちを覆う魔力障壁を張る担任の姿が映る。


「教師ならあいつらを止めてほしいところだが、聞かないと判断したわけか。ディル、障壁頼むぞ」


「はい。ですが兄貴は?」


「俺は、あの二人を。後の事なんて考えて無さそうだからな」


 ディルが巨大な魔力障壁を張り、キリヤは魔剣を抜いて二人に向かって歩き出す。

 そして、


「【氷狼】!」


「【炎炎鳥】!」


 二つの魔法は互いに爆発した。


「ひゃっ!!?」


「きゃぁぁ!!!」


 訓練場内に叫び声が響き、魔法を使った本人たちは魔力の使い過ぎで体をよろけさせて魔法を使えそうにはない。そんな中キリヤは一本の魔剣を投げ、一本の魔剣を地面に突き刺す。


「『不死鳥フェニックス』『蛇腹』」


 レイシスタの元へ『不死鳥』を飛ばし、フェルニーナの元へ蛇腹の刀身を伸ばして二人を爆発から守る。


「『斬魔』」


 そしてキリヤは斬魔を振るい、自分に向かってくる魔力の爆発とその余波を切り裂いた。


「はぁ~。戻れ『不死鳥』『蛇腹』」


 キリヤは魔剣を鞘に戻しながら、座り込んでいる魔帝候補二人の元へ歩き出した。

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