第16話 封じられた魔法

 テロリストの男が描いた魔法が光を放ち、学園の生徒、教師の魔法が封じられた。


「!?これは……」


「ディルくんも感じた?魔法が、使えなくなってる」


 フレイナは魔法を使おうと手のひらを開くが、そこからは火種一つ出ない。


「そうですね。俺も使おうとしても魔力の操作が不安定になり使えない」


 同様ディルも魔法を使おうとするが静電気レベルの電撃すら起きない。


「どうしましょうか?この状況で動けるのなんて魔法を使わず戦う兄貴くらいですよ。こんな時に敵が来たら……」


「そうね。他のクラスに行ったみんなのことも気になるし……。けどこの魔法陣はこのままにしておけない」


 フレイナは倒れている男と、そいつが描いた魔法陣に近づく。


「ディルくんはその男を調べて」


「それはいいですが。……魔法陣を消すなんてどうするんですか?魔法が使えないんですから、……水でもかけますか?」


 そんなディルの提案に対しフレイナは首を横に振る。


「普通の水じゃこの魔法陣はどうしようもないわ。けど消せないのも事実だし、だから床を壊すくらいしないと……」


 フレイナは試しに床を叩くが魔法陣に変化は無い。

 そうしてフレイナは魔法陣を見つめ数舜の後、


「無理ね」


 と結論をつけた。


「諦めるの早くないですか?」


「仕方ないわ。どうしようもないもの」


 そんな開き直ったようなフレイナの物言いにため息をつく。


「なら、どうするんですか?」


「キリヤくんを探して、壊してもらうしかないでしょうね。もしくは、この男が何か持ってたらよかったのだけど。何か見つかった?」


「いえ、特に目ぼしい物は……うっ!」


 話していたディルが突然、膝をつく。


「!?どうしたのディルくんっ!」


 フレイナはディルに近づこうとするが、ふらついてしまう。


「っ!これは、眠気?」


 フレイナは机に手をつきながら体を支え、どうにか立ち上がる。


「ただの眠気じゃない、これは魔法による攻撃。なら、」


 フレイナは教室の入り口を睨む。

 そこから現れる一つの影。


「まだ、残っている者がいましたか、それも二人も」


 現れたのは変わらずフードをかぶった男。

 だがその男からは他のテロリスト以上の魔力と、特殊な霧を纏っている。


「そう、その霧がこの眠気の正体、あなたの魔法なのね」


 フレイナは更に強くなった眠気を耐えながら男を睨む。


「ええ、さすがは炎帝候補。察しが良いですね。それ以前にこの状況で私の魔法に耐えているのが称賛できることですが。……ですが面倒なのでさっさと眠っていただけるとありがたい」


 男は眠りの霧をフレイナに大量に向ける。


「うっ、すごい眠気……」


(魔法も使えないと、相手に攻撃もできない。それ以前にこの霧をどうにかしないと。でも、ねむ……い)


 フレイナは机についていた手すら崩し、膝をついてしまう。


(どう…すれば。…キリヤくんっ)


 フレイナが眠気でまぶたを落とした瞬間、ピェロロロと高い鳴き声が教室に響くとともに赤い鳥が現れ男を襲う。


「な!?なんだ!この鳥!?」


 その鳴き声の正体、キリヤの魔剣『不死鳥フェニックス』が男から離れフレイナの目の前で止まる。


「キリヤくんの、不死鳥。どう、して?」


 フレイナは落としたまぶたをうっすらと開き、眠気をこらえながらそんな声をこぼす。


 そんなフレイナの言葉を聞いてか聞かずか不死鳥は炎を作り出し周りの霧を焼き払う。


「その鳥。まさか貴様の契約獣なのか?」


 そんな男の言葉を聞きながら、フレイナは立ち上がる。


「いいえ。この子は、私の一番尊敬するあこがれの人の剣よ」


 そう言い切るフレイナは、不死鳥が霧を焼き払ってくれたこともあり完全に眠気を克服している。


「……どうやら霧はもう効かなさそうですね。ですが魔法の使えないあなたでは何もできない」


 男はフレイナに手を向け、魔法を構築する。


 一方フレイナは


(確かに。今の状態の私だと何もできない。霧は不死鳥のおかげでどうにかなってるけど魔法は使おうとすればその魔力の操作は妨害されて安定しない。ならっ!)


 フレイナは深呼吸をし、目をつむって己の魔力の源に意識を向ける。


(今までの私よりも強い炎を。こんな妨害すら焼き尽くす最強の炎を、あの時『不死鳥』を破ったあの炎を!今ここで完成させる)


 フレイナの意識は魔力の源、その奥の奥、より深い場所に潜っていく。

 そのたびにフレイナの魔力は高まり力の完成に近づいていく。


 だが、


「すごい魔力の高まり。ですが、すでに無意味です。少々お休みなさい炎帝候補。起きた頃には世界が変わっていますよ。……【マジック・ブラスター】」


 男の方が一歩速く魔法を構築し終わり、フレイナに向かって膨大な魔力の光線が放たれる。


 そんな魔法がフレイナを襲う瞬間、フレイナは閉じていた目を開く。


「私は、まだ終わらない。憧れを超えるまでは!これが私の魔法!……数多の物をその炎で焼き尽くせ!【炎炎鳥フレイム・フェニックス】」


 フレイナの放った魔法はこれまで使っていた【ファイア・バード】とは一線を画す物であった。

 その魔法【炎炎鳥フレイム・フェニックス】は【ファイア・バード】よりも大きく『不死鳥』よりも神々しい炎鳥の見た目をしており、それはまさしくキリヤと戦った時の物。フレイナ家でなく、フェルニーナ自身の魔法であった。



 そんな【炎炎鳥フレイム・フェニックス】は敵の【マジック・ブラスター】と正面から衝突をし、そして【マジック・ブラスター】を焼き尽くす。


「なっ!?馬鹿な!この状況で私の魔法を破るほどの魔法を使うなど―」


炎炎鳥フレイム・フェニックス】は【マジック・ブラスター】を焼き尽くした後も勢いは止まらず、そのまま男に向かい襲い掛かる。


「いきなさい!【炎炎鳥フレイム・フェニックス】!」


「くっ、【マジックバリ……ああぁぁぁっっ!!?!!!!」


炎炎鳥フレイム・フェニックス】に焼かれた男はそんな悲鳴を残しその場で意識を失い倒れる。


 そしてフレイナは、


「はぁ、はぁ。やったわよ。キリヤくん」


 膨大な魔力を使った反動でその場に座りこみながらも、自分の魔法を完成させた喜びとテロリストを撃破した達成感をここに居ないキリヤに伝えるのだった。


                            

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