第15話 炎帝候補と舎弟の共闘

 キリヤが教室を出て、フレイナとディルはクラスメイト達の様子を確認する。


「みんな、おびえてるわね」


「そりゃぁ、そうですよ。いきなり敵が襲ってきたんですから」


 さらにこの学園に居るのはほとんどが貴族。

 つまりは、昔から箱入りとして大切に育てられてきた、お嬢様、お坊ちゃまが通っているのだ。


 一部ではフレイナやディルのように戦いを前提とした育てられ方をした者もいるだろうが、いきなりの実践ではおびえるのも当然。


 そんな中ディルやフレイナは、ディルによる情報と信頼できる強さを持つキリヤが居たからこそ冷静さを保っていられるのだ。


「けど、このままって訳にもいかないわ」


 フレイナはおびえている生徒たちに向けて声をかける。


「みんな聞いて!」


 フレイナの方に怯えていた生徒達は顔を向ける。


「みんな、さっき見た通りこの学園は襲撃されたわ。そして、この学園には私達しかいない」


 フレイナは言葉を区切り、息を吸う。


「つまり!この状況を打開できるのは私たちだけということ!そしてすでにキリヤくんはこの状況を打開しようと動いてる」


 フレイナの言葉にディルは頷き、クラスメイト達は顔を下に向ける。


 だが、そんな状況もフレイナの次の言葉で変わる。


「けど、それでいいの?」


 その問いににクラスメイト達は顔を上げ首をかしげる。


「確かに、キリヤくんは強いし彼だけでもこの状況を打開できるかもしれない。けどそうしたら私たちは?魔力を持たないキリヤくんに任せて私たちはここでおびえてるだけ。本当にそれでいいの?」


 その言葉を聞きクラスメイト達は、


「ダメだ」


 声を上げ始める。


「そんなのダメだ」


「僕たちだって魔法の腕を上げてこの学園に入学したんだ!」


「それなのに魔力を持たない一人に任せきりにして震えてるなんて結果は残せない!」


 その声はだんだん大きくなり、クラスの一人がフレイナに近づく。


「フレイナさま、私たちの思いは同じです。私たちには何ができるでしょうか?」


 フレイナは頷き、クラスに声をかける。


「みんなの思いは分かったわ。……まずは他のクラスの様子を見に行きましょう。生徒の安全が一番重要だからね。あと見に行く時は必ず複数人で行くこと、間違っても単独行動はしちゃダメよ」


 と、フレイナが提案をしていると急に


 ドカンッ!


 と爆発音が起こる。


「!……近かったわね。キリヤくん大丈夫かしら?」


 フレイナは爆発音に驚き、キリヤの安否を心配する。


「あの、フレイナさま?」


「あ、ごめんなさい。さっきの爆発みたいに相手は危険だから、絶対単独行動はしないこと。じゃあ複数人のグループに分かれて他のクラスに……」


 フレイナの話が終わると同時に扉の方から足音が近づいてくる。


「あーあ。遅いと思ったら、やられてるじゃないか…」


 足音の主はフードを深くかぶった男。

 明らかにキリヤが倒した男の仲間だ。


「一体だれがやったのかは気になるが、まぁこの中にはいなそうだし仕方ないか」


 男は歩いてフレイナたちに近づく。


「フレイナさま……」


「大丈夫よ。……みんな、合図したらここから出て他のクラスに。私が言った言葉は覚えてるわね?」


 フレイナの言葉にクラスメイトは頷く。


「よし、じゃあいくわよ、【ファイア・ウォール】」


 フレイナは男を囲むように炎の壁を作り出す。


「今よ、みんな!」


 フレイナの合図に合わせてクラスメイトたちは扉に向かって走り出す。


「なるほど。いい魔法ですね」


「!?あなたも、なかなかの腕ね」


 男は走っていく生徒のことなど気に留めず平然と炎の壁を歩いてすり抜ける。


「なるほど、魔力で作った障壁を体に纏うことで炎を無傷ですり抜けたわけですか」


「ディルくん。あなた残ったのね」


「さすがにあの魔力の敵を、フレイナ嬢一人で対処するのは厳しいと思ったので」


「あら、なかなか言うのね。でも、正直助かるわ」


 二人は軽口をたたきながら、魔力を練る。


「どうやら、お二人が一年生の中のトップですね。しかも、よく見れば片方は炎帝候補のフェルニーナ=フレイナですか」


 男は不気味に笑う。

 そんな男を警戒しながら二人は魔法を打つ構えをとる。


「……残念だけど。トップは私たちじゃないわ」


「ほう、炎帝候補ですら適わない者が。なるほど、それがそこで延びているのを倒した者か。ぜひ会ってみたいものだが…」


「残念だがそれは叶わない。お前は兄貴に会う前にここで倒れるからな!【サンダー・ボール】」


 ディルが放った雷が男に襲い掛かる。


「ふむ、それは残念だ。【マジック・バリア】」


 だがその雷は男の魔力障壁によって簡単に防がれてしまう。


「む、やはり簡単にはいきませんか」


「次は私の番ね?【ファイア・バード】」


 炎の鳥が男に襲い掛かる。


「さすがは炎帝候補、すごい魔法だ。【マジック・ショット】、【マジック・バリア】」


 男は魔力弾を炎の鳥に当て、さらに魔力障壁により完全に【ファイア・バード】を防ぐ。


「っ、これでもダメなの」


「どうしますか?フレイナ嬢でもダメだと手づまりですよ」


「そうね。……ディルくん私の言う通りに動いてほしいんだけど」


 フレイナはディルに作戦を伝える。

 だがその間にも男は二人に近づいていく。


「……分かりました。いきます【サンダー・ショット】、【サンダー・ボール】【サンダー」


 ディルはがむしゃらに魔法を放つ。


「同じ手は通じないよ。【マジック・バリア】」


 男は魔力障壁によりすべての雷を防ぐ。


「ならこれはどう?【ファイア・ボール】」


 フレイナは巨大な炎の球を放つ。

 だが、


「だから無駄だ。【マジック・バリア】」


 それも男に防がれてしまう。


「なにか話していたが、それがこれなら本当に手詰まりのようだな」


 男は魔力障壁を解き、歩みを進める。


「くっ、このままじゃ」


「本当に負けてしまう。……なんてね!」


「?」


 フレイナの言葉に男は不振に思いながらも一歩を踏み出した瞬間、


「ぐっ、あばばばばば!!!??!」


 男の身体に大量の電気が流れ、男はその場に膝をつく。


「上手くいきましたね。フレイナ嬢」


「ええ。教えたその場で成功させるなんて、さすがキリヤくんの舎弟やってるだけはあるわね」


 男が倒れたのは、フレイナがディルに教え、ディルががむしゃらに魔法を打つふりをして使った【サンダー・トラップ】によるものだ。


 この魔法は事前に床や地面に設置をし、その上を通った者に魔法が発動する。

 まさに、トラップ魔法だ。


 だがこの魔法は対象が通る場所を予測する必要があるのと、この世界が魔法実力主義になったことにより、戦い方が遠距離の魔法の打ち合いになりほとんど使われなくなった魔法だ。


 だからこそ、男の不意を打つことができたともいえる。


「う、うう…」


 男はふらつきながら体を起こす。


「まさか、まだ動けるなんて」


「でも相手もふらついてるし、いまとどめを刺せば」


 二人はふらつきながらも近づいてくる男を警戒するが、男は二人を通り過ぎて地面に魔法陣を書く。


「いったい何を?」


 ディルはふらつく男に魔法を打とうと腕を伸ばす。


「くくく、お前らが俺にとどめを刺さなかったことを後悔することになる、ぞ…」


 男はそれだけ言い残し、意識を失いその場に倒れる。


 そして数秒後、男が書いた魔法陣が光り出す。


「っ、いったい何が!?」


「これは、もしかして……」


 その瞬間、


「魔法が使えない?」


 この学園に残る生徒、教師の魔法を封じられた。


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