第12話 魔剣士と炎帝候補と舎弟のお昼

「兄貴、お昼買ってきました。食べましょう!」


「あぁ、サンキュ」


 フレイナと戦った日以降、ディルはキリヤのお昼を買いに行くことを気に入り、毎回パシリをやっている。


「ねえ、キリヤくん。私も一緒に食べていいかしら?」


「あ、ああ。俺は別にいいが?」


 キリヤは隣りにいるディルを見る。

 そんな、ディルは一歩前に出る。


「いいんですか?フレイナ家の令嬢が男と食べるなんて?」


 ディルは、嫌味を混ぜたように言う。


「あら、私は一年生で私と同等の実力を持つキリヤくんと、食べると言っているの。実力を持つもの同士が食事を共にする。別におかしなことではないでしょ?」


 問題ないわね?と、フレイナはキリヤの横に座る。


「くっ、この‥‥」


 ディルはフレイナを睨む。


「ディル落ち着け。別にいいだろ?」


「……兄貴が、そう言うなら」


 ディルはしぶしぶといった様子でフレイナと逆側のキリヤの隣に座る。


「どうぞ、兄貴。焼きそばパンです」


 キリヤはパンを受け取り食べ始める。


「ねえ、キリヤくん。あなたいつもお昼それだけしか食べないの?」


 フレイナは弁当を机に広げ訪ねる。


「あぁ。金も、自炊する時間もないからな。そういうフレイナは弁当なんだな」


「ええ。もしよかったらあなたの分も作ってきましょうか?」


「……もしかしてそれ、自分で作ったのか?」


 キリヤは意外だな、とフレイナの弁当を見る。


「ええ。料理は火加減とも言うでしょう?私は幼いころから炎魔法の訓練で料理をしてたから、料理には自信があるの」


 一口食べる?と、卵焼きをキリヤに差し出す。


「いいのか?なら遠慮なく、」


 キリヤは手で卵焼きをつかみ、そのまま口に運ぶ。


「……ごくん。さすが、言うだけあってうまいな」


「ふふ。ありがとう。それで、お弁当作ってきましょうか?」


 フレイナは嬉しそうに笑いながら、提案をし直す。


「そうだなぁ、気持ちはありがたいんだが。……金は出せないぞ?」


「別にいいわよ?さっきも言った通り、昔から料理をしていていつも、作り過ぎちゃうから」


「そうか?まあフレイナがいいなら、頼む」


 キリヤはフレイナに頭を下げる。

 そんなキリヤをフレイナは驚いた目で見つつも。


「ええ。了解したわ」


 微笑んで了承する。


 だがそれに意義を唱える者が一人。


「兄貴!それじゃあ俺はもう用済みですか?!」


 ディルは泣きそうな表情でキリヤに迫る。


「え?あぁ、そうだな」


「そんなぁ……」


 ディルはその場に崩れ落ちる。

 がキリヤは、「でも―」と言葉を続ける。


「飲み物は欲しいな。ここの購買でしか売ってないコーヒー。これは引き続き頼む」


 と、キリヤはディルが買ってきたコーヒーを飲む。


「は、はい!」


 などとやっていると、次はフレイナから声がかかる。


「ねえ、キリヤくん。さっきお金が無いって言っていたけど、裏賭博なんかに出てお金稼いでいたのに、お金がないってどういうことなの?」


 キリヤは「あぁ、それか」といった風に口を開く。


「そこで稼いだ金の半分くらいは、この学園の学費に使ってる」


 もっと結果を出せれば学費免除だから早く結果を出して使える金を増やしたがな。と、呟く。


「なるほど。では、もう半分はどうしているのですか?」


 ディルも話に入ってくる。


「……もう半分は、妹の治療費に使ってる」


 そんなキリヤの口からでた言葉に、二人は驚いた表情をする。


「妹さんですか?」


「あぁ、妹だ。妹は俺と違ってものすごい量の魔力を持ってるんだ。それこそフレイナ以上のな」


 その言葉に、さらに二人は驚く。


「え、フレイナ嬢以上ですか…?」


「と、なるとほんとに凄まじい魔力量になるわね。……まさか、妹さんの治療費って!?」


 フレイナは何かに気づいたようにキリヤを見る。


「さすがだなフレイナ。そう、俺の妹は高魔力暴走症こうまりょくぼうそうしょうなんだ」


 高魔力暴走症


 それは大量の魔力を持って生まれた者が発症する病気のような物。

 その実態は、名前通りの意味で大量の魔力を操作しきれずに暴走させてしまうのだ。ひどいものだと、魔力が暴走して家が半壊したという事例もある。


「とくに俺の妹はそれが酷くて、常に魔力暴走を起こしているような状態なんだ。妹の周りは濃すぎる魔力が漂っていて、妹と同等レベルの魔力を持つやつじゃないロクに近づくこともできない」


「え、でもそれだと兄貴も―」


「けど、俺にはこいつがある」


 キリヤは鞘に納められた『斬魔』を撫でる。


「そう。だからあなたはこの学園に来たのね」


 フレイナの言葉にキリヤは頷くが、ディルは置いてけぼりといった表情を作る。


「えっとどういう…」


「この学園をトップの実力で卒業すれば、ほとんどの職に就くことができる。そこで地位の高い職について、」


 キリヤは言葉を区切りコーヒーを一口飲む。


「そして、俺はどんな強力な魔力でも操作が可能となるソロモンの指輪を手に入れる。そのためにここに来たんだ」





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