第11話 魔剣使いVS【炎帝】候補


「これが、私が『不死鳥《フェニックス』を求めていた理由と、あなたを知っていた理由よ」


 フレイナ家の過去の話を聞き、二人の間には重い空気が漂う。


「どうかしら、分かってもらえた?」


「あぁ、あんたの事情はよく分かったよ。けど、『不死鳥』のことはあきらめろ」


 キリヤの冷たい風言葉にフレイナは絶望したような表情になる。


「なん、で……」


「……何度も言うが、魔剣ってのは使用者がどうこうできる訳じゃない。あくまで『不死鳥こいつ』の気分しだいなんだ」


 フレイナは『不死鳥』を見る。


「お前も言ってたけど『不死鳥』は最初の使用者以外誰も認めず姿を消し、現代で俺の元に現れた」


 フレイナはその言葉に反応しキリヤの方へ視線を移す。


「はじめて『不死鳥』と会ったのは、俺がよく修行に使ってた山だったな。最初は巨大な鳥の姿、もはや怪鳥の姿だったな。」


 キリヤは昔を思い出し笑いをする。


「で、そんな怪鳥が目の前に現れて突然『お前の力を示せ』みたいなことを念話?とでも言うのか伝えてきて。そこから数時間空を飛んで炎操りおまけに斬っても、斬ってもすぐに再生する厄介な鳥と戦った」


「……ねぇ、」


 フレイナは数瞬の間の後口を開く。


「どうして、あなたはそんなに強いの?魔法を使えないのに、これまで誰も認めなかった魔剣に認められて。なにがあなたをそこまで強くしたの?」


 フレイナの問い。

 自分の無力さを知りながらそれでもまだ諦めたくないという思いからきた問だ。

 そんな問にキリヤは、


「…なぁ、フレイナ。俺と勝負をしないか?」


「……え?」


 その口から出たのは思いもよらない言葉、当然フレイナもポカンとなる。


「お前の質問に対する答えはたぶん口で言うよりも戦ったほうが分かってもらえる、伝わると思う。それに、俺が負ければ『不死鳥』がお前を認めるよう話をしてみる」


 フレイナは、ポカンとした状態から後半の条件を聞きその表情から絶望が消える。


「わかったわ。場所は私が用意しておく、今日の放課後でいいわね?」


「それで構わない」


 キリヤの同意を聞きフレイナは、早速許可を取りに行くと屋上のドアに手をかけたところで止まる。


「……一つ聞いてもいいかしら?」


「なんだ?」


「どうして、そんな条件をだしたの?別に戦うだけなら『不死鳥』のことを出さなくても受けたのだけど?」


 それはフレイナにとっては、絶好の機会を失うかもしれない問だったが、どうしてもフレイナはそれを聞かなければならなかった。


「それは、もちろん俺が負ける気がないからだ。あとは、お前に別の道を示すために絶対に勝負に乗ってもらいたかったからだな」


 もう何度目かも分からない驚きを受けるフレイナ。


「そう、なら楽しみしてる。言っておくけど私だって全力で挑ませてもらうわ」


 そう言い残し、屋上から去っていった。


 残ったキリヤは、


「あ、そういえばディルに昼飯頼んだままだったな」


 と、すぐさま自分の昼飯を食いに教室へと戻ったのだった。







 ―――――――――――――――――――

 放課後、キリヤ、フレイナ、そしてディルは室内訓練場へと来ていた。


「よく、こんな場所借りられたな」


 キリヤは、授業でも使っている訓練場をぐるりと見渡す。


「分かってると思うけどこの学園、いえ世界は実力主義。一年生でトップの成績の私だから借りられたの」


 ちなみに成績は、キリヤも高い方ではあるが魔法が使えないことが広く知られているためキリヤではここまでしっかりした施設は借りられなかっただろう。


「それに、ここなら他の生徒は入ってこれないから私たちが勝負をすることもその結果も広まることはないわ」


「なるほどな。……そういえばディル連れてきてちやったけど良かったか?」  


 キリヤは、自分の鞄を持たせているディルを指さす。


「まぁ、どのみち審判は必要だった訳だし、あなたが言えば他言はしないでしょ?」


 これから何をするのかよくわかっていないディルだが、自分がキリヤに対する忠誠心を言われていると理解する。


「それはもちろん、兄貴に言われたことは絶対守ります。ですが今から何をやるんですか?」


 そんなディルにキリヤは、フレイナと模擬戦をすることを説明をする。


「……てなわけだ、審判と他言無用。頼めるな?」


「もちろんです。お任せください!」


 そんなこんなでフレイナの準備も整い互いに位置につく。


「いくぞ『不死鳥フェニックス』。そっちは準備いいか?」


 キリヤは、何処からともなく飛んできた『不死鳥』を右手に収める。


「えぇ、いつでも問題ないわ」


 対するフレイナは短杖を構え魔法をいつでも打てるようにする。

 二人の様子を確認しディルは開始の合図をする。


「それでは、……開始!」


 その言葉で一番に行動したのはフレイナ。


「あなたの示してくれる道を見せてもらうわ。【ファイア・バード】」


 鳥の形をした炎がキリヤを襲う。


「……すべてを燃やし尽くせ『不死鳥』!」


 対するキリヤも『不死鳥』を振るい炎の鳥を出現させる。

 2体の炎の鳥は互いにぶつかり合い、そして消滅をする。


「まだまだ、いくわよ!【ファイア・バード】」


「燃やせ『不死鳥』!」


 またしても、2体の炎の鳥はぶつかり相殺する。


「まだ、まだ、【ファイア・バード】、【ファイア・バード】」


「燃やせ『不死鳥』」


 3回、4回と何度やっても結果は変わらず互いに消滅する。

 強力な魔法を連続しているフレイナは魔力を消費して息を荒らげている。

 対するキリヤは、涼しい顔で剣を数回降った程度。

 使っている力が違い過ぎる。


「はぁ、はぁ、まだ!」


「……そろそろだな。フレイナ!」


 フレイナはキリヤに呼ばれ息を上げながら不思議そうな顔をする。


「全力で防げよ。不死たる鳥よ燃え盛れ『不死鳥』!」


 それは、明らかにこれまでのとは違う炎の鳥。

 圧倒的にこれまでのより力が勝っている『不死鳥』だ。


 そんなもの、魔力が残りわずかで集中力が切れかかっているフレイナが防ぎきれるとは思えない。


 事実、フレイナは顔を下に向け絶望をしている。


(あんな力の不死鳥、今の私じゃ防ぐことなんて……)


「フレイナ!」


 その声にフレイナは思わず前を向く。


「フェルニーナ=フレイナ!昔がどうだとか、フレイナ家どうとか考えるな!お前はお前だ!お前の力をぶつけてこい!!」


 そんな、普段のキリヤからはあまり感じない熱を帯びた叫び声。


 そんな言葉に何かが吹っ切れたのか、フレイナは再び『不死鳥』に向けて杖を構える。


(そっか。私ずっと家のことしか考えてなかった。フレイナ家としてあるべき姿にならないとって。けど、)


「私は、私。だから私の純粋な力を思いを込めて、『ファイア・バード』!!!」


 フレイナが放った『ファイア・バード』は、先程のまでとは全く違った。


 もはや、それは別の魔法の域に達しており、それによって現れたのは神々しく強い火炎の鳥。


「いっけぇぇ!!!」 


 そして、そのフレイナの姿は、令状、貴族としての振る舞いではなく自分の力を試したい、やってみたい、勝ちたいという純粋な姿。


 そんな、彼女の火炎の鳥は『不死鳥』を飲み込み、さらに冷夜のもとまで飛ぶ。


「兄貴!!」


 そんな火炎の鳥を見てディルは、キリヤの身を案じ、叫ぶが当のキリヤはそんな状況でも表情を変えない。


「やっぱり、やればできるじゃないか。……こい、『斬魔ざんま』」


 キリヤは、左手に斬魔を出現させ火炎の鳥を切り裂く。

 それを見てフレイナはゆっくりとその場に座り込む。


「はぁ、はぁ。私の負けね。もう魔力がないわ」


「そうか、じゃあ今回は俺が勝ちをもらっておく。次戦う時までに、その炎を使いこなせるようにな。ディル、行くぞ!」


 キリヤはディルを連れて訓練場を出ていく。


 それを見届け訓練場に誰もいなくなったことを確認したフレイナは、服が汚れることも気にせず地面に寝そべる。


「負けちゃったなぁ」


 そんなことを言うのは令嬢という仮面をすてたフェルニーナ=フレイナ本来の姿。


「こんな風に、地面に寝そべるのも負けちゃうのもお父様に知られては怒られてしまうかしら?でも、」


 フレイナ先ほどの戦いを思い出し、


「あの炎なら【火炎鳥フェニックス】を超えられる。道は、示せてもらえた」


 あの幼い日に、たった一度で目を奪われた憧れに道を示せてもらえたことを喜ぶのだった。
















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