第27話 ばあばの秘密⑤
イヨは、毎週末、赤い屋根の家に行くのが楽しみだった。
友だちも出来た。
いつも、迎えに来てくれたのは、キヨコという一つ年上の女の子で、赤い屋根の家に住んでいた。
キヨコは、物ごごろついた時から両親がおらず、タエが親代わりに育ててくれた、と言っていた。
タエのことを尋ねると、キヨコはこんな風に表現した。
「タエ姉さんは、世界のことが、手のひらの上にあるの。いつ何がどう動くのか、全てお見通しなのよ。イヨが初めて、うちに来た時だって、何時何分に湖に来るから、迎えに行くようにって、指示を出してたもの。
本当にすごい、大魔女よ。」
イヨは、キヨコから、赤い屋根の家の色々なことを教えてもらいながら、通学するのが楽しくて仕方なかった。
また、キヨコは歌が上手で、いつも行き帰りはキヨコの歌を聞くのがイヨの楽しみの一つだった。しかもキヨコが歌うと、虫が合唱を始める。虫の声が聞こえるイヨにとっては、それはもう、ゴージャスな大合唱だった。
魔女の勉強は、古代魔女の歴史、天体、宇宙の流れ、女性の身体と生命の神秘、自然との関わり方、植物からのパワーのもらい方、ハーブの調合、呪文、数字のメッセージの意味、魔力のコントロールと活かし方、夢の中での引き寄せ力など、多岐に渡り、イヨにとっては、楽しく、刺激的だった。
これまで、人には話せない変わった能力を持ってる自分は、変なんじゃないかと思っていたイヨは、自分を肯定出来るようにもなった。
共に学ぶ者たちは、友だちというよりは家族だった。
会えばいつも懐かしく、愛おしく、安心する存在だった。
二つの学校、つまりは人間の学校と魔女の学校で学びながら成長していったイヨは、生命の神秘に魅せられて、職業は産婦人科を選び、長年勤めた。
ヨキは、瞬きも出来ないほど、ばあばの話に聞きいっていた。
そして、自分がウィッチタウンのウィッチスクールで学んだ内容と同じことを、ばあばも学んでいたことに、感動した。
ばあばに、尋ねてみた。
「ママは、どうなの?」
「あーあの子は、違うよ。マグルだ。
ヨキは、あの子を助ける使命も持って生まれたんだよ。」
ヨキは、なんとなく分かっていたことを今、ばあばに言われて、確信した。
「やっぱり、そうなんだね。」
次は、ばあばがヨキに質問した。
「わたしは、あの子を産んだ後、子宮癌が見つかって、子宮を切りとったんだ。
そしたら、自分が何度も魔女として生まれ変わって来た古代からの記憶が、ある日甦ったんだ。魔女狩りにあったこともね。
ヨキ、お前も、卵巣を取った後、そんなことはなかったか?」
ヨキは、さらに目を見開いて、ばあばの手を握りしめた。
「わたしもよ!ばあば。魔女狩りにあって、焼かれてる時のことも、全部見えたの!」
「やっぱり、そうかい。
わたしらみたいに、女の身体の一部を切り取った者は、思い出すんだね。
お前も学んだように、わたしらは、女性的な体の臓器を使って、魔術を使う。
切る時は、躊躇があった。そうだろ?
でも、何故か、その後の方が、力が増す。
ある意味、力が解放されてしまったのかもしれない。
仲間を探して、共にその力を世の中のために使うんだ。」
「ヨキー、ばあばといつまでも、訳の分からない話して、、、
よく、あなたもまともに付き合えるわね。
まあ、でも助かったわ。」
ヨキの母親が、そう言って入って来た途端、ばあばは、また、横になって目を閉じた。
ヨキは、ばあばが認知症なんかじゃないことを確信した。
そして、魔女として生きてきたばあばと、もっと話したかった。もっと早くに、聞いてみればよかったと思った。
でも、ヨキも魔女であることを隠して生きてきた気持ちと、習性が理解できる。
「ばあばの秘密の物語をまた聞きに来るね。」
ばあばは、もう一度目を開けて、クスッと笑ってウインクした。
魔女伝〜天才魔女ヨキのリアルはちゃめちゃ人生 風乃音羽 @kazenootoha
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