第26話 ばあばの秘密④

イヨの目の前に、夢で何度も見た赤い屋根の家がそびえ立つ。

真前まで来ると、想像していたよりも遥かに大きな建物だった。


女性は、イヨを馬から下ろしてくれた。

やはりまだフラつく。

女性に、支えられながら中に入ると、だだっ広いフロアが広がっていた。

吹き抜けの天井を見上げると、天窓がある。

そこから、柔らかな日差しが入り込み、電気はついていなくても、明るかった。

キリスト教の教会のようでもあるけれど、少し様子が違う。

部屋の隅には、大きな壺や、ガラス瓶が並んでいる。

部屋の中程に進むと、ほのかなハーブを燻した香りが残っている。

奥に扉があり、そこから廊下が続いていた。

廊下の左右には、等間隔でいくつかの扉がある。


その一番奥の部屋に通されると、2人部屋のしつらえになっていた。

イヨは、窓際のベッドに、促されるまま、横になると、ウトウトと眠りについた。


夢の中で、1人の美しい女性が、イヨに微笑みかけている。

案内をしてくれた女性とは違う人だ。

その笑顔を見ていると、懐かしい気持ちが込み上げてきた。

女性は、静かに話し出した。

「よく来たね、イヨ。あなたがここに一人でやって来るのを待っていた。

あなたの成長を待っていた。

わたしの名前は、タエ。

ずっと昔から、わたしとあなたは繋がっているのよ。

何度目の出会いになるかしら。

今世でも、やはり会えたわ。

これからあなたは、魔女であることを思い出して、魔女として生きるために学ぶのよ。」


「魔女って?わたしが?」

イヨが、そう聞いた瞬間、ノック音がして、イヨは目覚めた。


なんとも芳しい香りと共に、女性が入って来た。

なんと、その人は、ついさっき夢の中であった女性だった。

香り高いハーブティーをイヨに差し出した女性は、さっきの夢の中と同じ笑顔で微笑んだ。

「夢の中で、自己紹介は済んだわね。」


イヨは、思わず、ガバッと起き上がった。

「どうして?

どうやって、わたしの夢の中に?」


「それは、わたしたち魔女の能力の一つよ。

さあ、まずは、そのお茶を飲みなさい。

身体が温まって、疲れが取れるから。

このハーブを摘むために、あなたは、山を越えてこちら側に来たのでしょう?

このお茶は、そのハーブを採取して、発酵させて、乾燥させたものよ。

沢山あるから、好きなだけ持って帰りなさい。」


イヨは、言われるがままにハーブティーを飲んだ。

芳しい香りが口の中で広がる。

「美味しい。」

2〜3口飲んだだけで、全身が暖かい毛布で包まれたように心地よくなり、頭も身体もシャキッとして来た。

あっという間にいつもの元気なイヨに戻った。

それどころか、さらにパワーがみなぎる感じさえした。


そんなイヨの身体の回復が、手に取るように分かるのか、タエは言った。

「すごいでしょ。

あなたの身体から、エネルギーの波が溢れるように出ているわ。

いつもよりも、さらに力がみなぎるでしょ?

このハーブは、特別よ。

そして、それを発酵させるときに、私たちが魔法をかけるから。」


イヨは、キョトンとしていた。

「、、、魔女、、、魔法、、、」


「あなたには、小さな頃から、特別な力があるでしょ?

あなたには、魔女の仕事を人生を通じてしてもらいたい。

それが、特別な能力を持ったものの、責任なのよ。

それに、あなたは、自然とそうして来たはずよ。

自然界のものとつながり、メッセージを受け取り、恩恵を受け取り、それを家族のために使って来た。助けて来たわよね。

それをもっと広げて、世の中のために力を使うのよ。


そのためには、学ばなければいけないことが

沢山あるわ。


これからは、ここへたまに来て、みんなと一緒に学びましょう。

あなたと同じくらいの歳の子も何人かいるから、一緒にね。」


「でも、こんな遠くに、しょっちゅう来るなんて、家族が心配するわ。」

イヨは、ワクワクする思いと、少し怖い思いが入り混じってドキドキしていた。


「大丈夫よ。あなたと同い年の子を、毎回迎えにやらすから、ピクニックに行くと言って、出てきなさい。

山の手前からは、馬で来れるから、すぐに着くわ。

そして、日の暮までには帰れるように約束する。

わたしたち種族は、仲間と共に過ごす。

それは、古代からずっとそうよ。

共に学び、それぞれのユニークな力を世に役立てる。

そして、この秘密を守るために、お互いを助ける。

家族なのよ。古代からずっと。」


イヨは、タエの瞳を真っ直ぐ見ていた。深い緑色の輝きで、美しい。

自分が魔女だと言われても、よく分からないけれど、そんな能力のある仲間が他にいるなら、会いたいし、共に学べるなんて、ステキだとおもった。


これからの人生が、どうなっていくのか想像するだけで、瞬きができないほど興奮するイヨだった。

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