第23話 ばあばの秘密①


ヨキの母の母、つまりヨキの祖母が、最近認知症が進んだらしいと聞いて、ヨキは実家を訪れた。


ヨキの母が電話でぼやいていた。

「なんかばあば、ボケが進んで、訳のわからない話ばっかりするの。夢の中みたいな感じなのかな。

わたし、その話聞いてたら頭がおかしくなりそう、、。

だから、たまには、あなたも ばあばに会いに来て、わたしの代わりに話し相手になってちょうだい。」


ヨキが実家を訪れると、ばあばは、お昼寝をしていた。

「ばあば、来たよー。元気ー?」


ばあばは、虚ろな目で、ヨキを見ながら、弱々しい声でつぶやいた。

「あー、ヨキ、、、よく来たね。

、、、、最近は、忙しいのかい?身体は?

どうして過ごしてる?」


「ばあば、わたしは、元気よ。

仕事も順調、身体も絶好調。

最近はね、、、貴族と遊んでるのよ。一緒に新しい仕事も始めたの。」


ばあばはその瞬間、目を見開いて、ガバッと起き上がり、大声で力強く、叫んだ。

「貴族はダメ!絶対に秘密を知られてはいけない!

わたしらは、みんな貴族のせいで、最後は、焼かれるんだから。」


これには、ヨキも驚いた。

とにかく、ばあばの興奮を収めるためにちゃんと説明しないといけない。

「ばあば、、大丈夫だよ。

貴族の中にも、いい人がいる。

私たちの種族を守ろうとしてくれて、世話をしてくれる貴族なの。

昔からそうだったのよ。

前世でも。ずっと友だちだし、そのビジョンはちゃんと見たから大丈夫よ。」


ばあばは、それを聞いて少しは落ち着いた。

「そうなのかい?確かにそういう人はいたかもしれない。

ヨキ、あんたも気づいたんだね。

卵巣をとったからだよ。だから思い出したんだ。


ばあばは、あんたのお母さんを産んだ後、子宮癌になって、もう子どもも1人産んだから、いいかと思って、とっちゃったんだ。子宮。

そういう女の部分を切り取った時、記憶が蘇った。

ヨキもそうなんだろう?


わたしらみたいなものは、その仲間とつるんで生きなければいけない。

その方が、いい。

仲間を見つけるんだ。

この世にもたくさんいるんだからね。」


やはり、ばあばは、確実に魔女だった。

ヨキは物心ついた時から、ばあばと自分は魔女だということを何となくわかっていた。

母親は、そうではないことも分かっていた。

でも、もちろんそのことについて、ばあばと話したことは一度もない。

ばあばは、もう90歳で、母は、完全に認知症が進んでいると言っていた。

でも、ばあばは、認知症ではないと、ヨキは分かった。

しっかりした口調で、ばあばの秘密をヨキに、話し出したのだ。

その話は、あまりに鮮明で、ヨキは、ばあばの話を聞きながら、その世界の中に引き込まれていった。



ばあばの名前は、イヨ。

イヨは、とある海沿いの田舎町に生まれた。

戦前の日本人の暮らしは、地産地消で、地元で育てたもの、採れたもので、日々の暮らしをしていた。

特に、海の幸、農作物には事欠かないイヨの故郷は、恵まれていたのかもしれない。

イヨは、子どもの時から、畑の手伝いをしながら、土いじりを遊びとしたり、近くの山に山菜を取りに行っては、バードウォッチングや、虫取りを楽しんだ。

夏になると、海に真っ裸で飛び込んで、潜ったり、波と戯れて遊んだ。

自然の中で暮らすことは、イヨにとって、当たり前だったし、その恩恵を身体でも、心でも、魂レベルでも感じとっていた。


イヨが5〜6歳ぐらいの時、母親にある質問をした。

それはお盆の前、お墓参りに行った日の夜、寝床に就いた時だ。

「お母さん、、何でみんな、お墓のおじいちゃんたちのこと無視するの?

お墓の後ろに、ニコニコしながら立っている、沢山のおじいちゃんとおばあちゃんが、挨拶してるのに、無視して、手だけ合わせて帰るなんて、、、

挨拶されたら、挨拶しなきゃね。」


母親は、不思議そうな顔をして、

「おじいちゃんとおばあちゃんって?

今日は、一緒にお墓参り行ってないじゃない。」


「だから、そのおじいちゃんとおばあちゃんじゃなくって、お墓の後ろに、半透明のおじいちゃんとおばあちゃんがたくさん立ってるでしょ?

みんなニコニコして、よく来たね。って言ってくれるから、こんにちは、ってわたし挨拶した。

でも、お母さんも手だけ合わせて、何にも言わないし、

他のお墓に来てた人たちも、それぞれのお墓の後ろに立ってる、おじいちゃんたちのこと無視して、お墓掃除して、何も言わずにに手だけ合わせて帰るでしょ。

また来るね、さようならってわたしは挨拶したけど、みんな大人は何にも言わずに帰るから、、、どうしてかな?って思って、、、」


イヨの母親は驚いて、言った。

「イヨ、あんた、ご先祖さんが見えるのかい?

霊が見えるの?

いつも見えてたの?」


イヨは、逆に驚いた。

「えっ?みんな見えないの?お母さんも?

そうなの?

わたしたちと違う、半透明な人は、たまに見えるよ。

特にお墓には、いつもたくさんいるから。」


母親は、

「お母さんは見えない。

普通は見えない。

イヨ、このことは、他で言っちゃダメだよ。

おかしい子だと思われる。

嘘つきだって思われる。

絶対にだよ。

いいね。約束だよ。」

と、イヨに言って聞かせた。


何で、言っちゃいけないのか、嘘なんかついていないのに、とイヨは納得がいかないまま、眠りに落ちた。


その日見た夢で、全身が、金色に眩く光り、眩しすぎて、その顔が見えないような背の高い誰かがイヨに優しく話してくれた。

「お前の見ているものは、嘘偽りがないのをわたしは、分かっている。

イヨ、お前はまだ子どもだから、分からないだろうが、この世には、人間以外にも、あらゆる種族が住んでいる。

この世を去った先祖の霊や、天上界のものも時折、この世に現れる。

お前は、これらが見える。

しかしながら、イヨ、お前の種族は、この世的でないものの存在の話をすることは、許されていない。

許可が下りていないのだ。

だから、これからは、その話はしてはいけない。

その話をすると、お前の身体が苦しむから、それをわたしは見たくない。

今日は、そのことを知らずに話したのだから仕方がない。

わたしの魔法で苦しみが軽減するようにしてやる。

これからは、気をつけて。このことを覚えおくように。」

その夢を見た夜中から、イヨは高熱を出した。

母親が、心配してつきっきりになるほどの高熱だ。

熱は40度ほどになり、動けないし、何も食べれない状態だった。

けれど、不思議なことに、本人は、苦しくない。ただ動けないし、言葉が出ない。

「わたしは、大丈夫よ。」と一言言いたいけれど、声がかすれる。

だから、母親から見れば、今にも死にそうな我が子だったのだろう。

心配でオロオロしていた。

でもイヨ本人は、まったく苦しまずに済んだ。 

イヨは、心の中で呟いた。

「金色の神様のおかげね。

約束は守ります。ありがとう。」


翌日、イヨの熱は、何事もなかったように下がり、いつもの元気一杯のイヨに戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る