第21話 明晰夢

ヨキは、寝る時間がとても短いが、寝た時に、特別な夢を見る。

明晰夢だ。

まず、明晰夢である第一の条件は、夢の中で、これは夢だと気づいているということだ。


例えば、ツルハシを持って、汗水垂らして、金塊を発掘しようとしている。

「ん?これは、おかしい。現実ではない。夢の中だ!」という具合にまず、気づくこと。


そして、夢の中なら、自由自在に絵を描けば良いから、汗水垂らして掘らなくても、既に金塊が手の中にあるという絵に描き変えれば良い。


でも、金塊よりも、現金の方が現実的だと思ったら、金塊を現金に書き換える。


よくよく考えると、現金が欲しい理由は、どうしても買いたいバイクがあるからだと気がつけば、現金をバイクに描き変える。


という具合に、夢を自由に描いていくのだ。

まるで、映画監督のように。

夢を建築するのだ。


「明晰夢は、結構リアルな夢を覚えてる人なら、訓練して見れるようになるわ。

ただ、一山あるけどね。

でも、ピアノでも、ダンスでも、最初は全然思ったように指や身体が動かないところから始まるけど、繰り返し練習して、ある程度出来るようになれば、あとは、ずっと出来るじゃない。

それとおんなじよ。

明晰夢が一度見れるようになると、ずっとそれが当たり前になってくるの。

明晰夢の中で引き寄せるトレーニングをするから、現実世界で引き寄せの法則を使いこなす練習になるのよ。

引き寄せ力の強い人は、明晰夢を見れる人が多いわ。

要は、夢の中も、現実も同じってことなのよ。」


また、ヨキは、夢の世界で、事実に気づくこともあると言っていた。

「それは、ツインレイの片割れのこうちゃんのことだから分かるのかもしれないけれどね。」


ヨキが、コウちゃんを追うことをやめる決断をして、全ての連絡先をブロックして以来、夢の中に毎日コウちゃんが出てくるようになった。


くすんだ顔のこうちゃんは、ずっと悩んでいる。

オレはどうすればいいのか分からない、と同じ悩みを繰り返す。


ヨキは、夢の中で、こうちゃんを説得している。


「全てのことは、なるようになる運命があるから、今回、わたしは、変わりたくて、こうちゃんから離れる決断をした。


毎日、あなたから、連絡が来るのを待ち続け、何をしててもそのことが気になって、上の空のわたしは、本当に苦しかった。

わたしらしくない。

けれど、あなたのことを思う気持ちが強すぎて、全てのことは、二の次になっていた。

病気になって、苦しい治療を受けて、明日いよいよ手術という日にあなたは、自分には支えられないから、とわたしから去った。

苦しすぎて、体よりも心の方がボロボロになった。

でも、手術の後、わたしは変わりたいと思った。全てを流れに任せたら、新しい自分が芽生えた。

あなたは、変わらなかった。

ずっと悩んでいるし、中途半端に、わたしに連絡をとってきた。

わたしは、その連絡をまた待っている自分に嫌気がさしたの。

復活したわたしは、新しいことを始めたし、とても面白いことになってきた。

だから、ある日決断してあなたを断った。

もう、スッキリしてるし、前にどんどん進んでいる。

わたしたちは、ツインレイ。

わたしが追う人、あなたが逃げる人。

だから、わたしは、あなたを手放してあげた。

わたしたちは、元々二つで一つの魂だから、ピッタリと同じにならないと、統合出来ない。

わたしの選んだ答えは、

あなたから離れて、自分自身を変えて、成長させること。

それが、片割れのあなたにも影響があることを知ってるから。

あなたは、自分で、今のあなたを変えるしかない。変われるのよ。

幸せになりたいなら。

今までの自分を破壊して、前に進んで。

全てのことは、自分が変えようと思わない限り、なんともならないわ。

でも、自分の決断一つで、全てのことは、変えられるのよ。

誰かに変えてもらうことはないの。

自分軸で生きるのよ。」


同じことを毎晩夢の中でこうちゃんに説得する。

明晰夢だから、そこで、分かって変化するこうちゃんを見れるのだけれど、

また、翌日も、その翌日もこうちゃんは、ヨキの前に、くすぶった顔で現れる。


ゲンナリしたヨキは、音羽に、

「もう、寝るのがもっと嫌になった。

いつも出てきて、睡眠の邪魔をされる。」

と言っていた。


ところが、ある日、ヨキは、音羽の顔を見るなり、興奮して話した。

「わたし、間違ってた!こうちゃんのこと、分かってなかったから、今までの説得は的を外してたみたい。

こうちゃんの軸って、わたしや音羽の自分軸とは、全然違うのよ。

あの人、夢の中で、言ったわ。

自分は、妻やその家族、周りの人、皆んなにいい人だって思われること自体が、自分の存在価値だと思ってるの。

自分がどうしたいか、ではなくて、他人が自分をどう評価しているかだけが大切なの。

というか、それだけが、自分の価値だと信じてるの。

人によく思われることが自分の幸せだって思い込んでるのよ。

だから、コミュ力は確かに高いし、愛想が良いの。

信じられないでしょ?

自分がこうありたい、とか、これが好き、とかよりも、他人があの人のことを好きで、高評価をくれることの方がずっと大切なの。

だから、わたしのことをどんなに好きでも、

妻や、その家族に、酷いやつだって思われると、自分自身が崩壊してしまうの。

なくなってしまうの。

だから、いい夫でいる方を取る以外は、チョイス出来ない。

だから、わたしから去った。

でも、わたしが彼をブロックした時に、その辛さに驚いたのよ。

でも、どうすることも出来ずにいて、変われないの。

そりゃ、無理よね。

わたしは、本当に、もうこうちゃんのこと、どうでもいいって思えてるけど、

やっぱり、ツインレイの片割れだから、幸せには、なって欲しい。

どうしてあげたら良いのかな?」


音羽は、ピンと来た。

「同じ魂なら、やっぱり、ヨキ、あなたが波動をあげるだけで、いいんじゃないかな。

瞑想して、アフォアメーションして、ヨキ自身が上がっていけば、なんとか引きづられるように波動が少しは上がって、行動を起こせるんじゃないかな。

エネルギーが、低いと、人は動けない。

頭でわかってもね。

しかも、分かってないんだから、気づくことも出来ない。

ただ、グルグルと同じところで道に迷ってる感じね。こうちゃんは。

だから、とにかく、波動とエネルギーを上げれれば、何とかなるかもね。

そりゃあ、気づきを得るにも、エネルギーいるわよ。

会って話さなくても、2人で一つの魂なら、あなた次第で変われるよ。きっと。」


「そうよね。

じゃ、わたしは、今、キラッキラだし、風に舞うように、新しい自分を軽やかに取り入れて変化を楽しんでる。

このまま、突き進むわ。」


ヨキは、スッキリした顔で帰っていった。

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