第8話 ヨキはカードオタク

その日から1週間たった、ある日の夜、ヨキから電話が、かかってきた。


「わたし、もう、毎日がしんど過ぎて、フラフラ。公園に行って、戻って仕事してを繰り返し過ぎて、仕事が手につかない。

もう、受け入れる。

考え方を変える。

わたし、変わりたい!音羽、手を貸して欲しい。


わたし、この力を人のために使う覚悟をした。

前にも言ってた様に、わたしは、人の人生が、見えるけど、それをアドバイスとして伝えたところで、その人の感情が邪魔して、それを活かせなければ意味がない。

その人の人生を変える様なきっかけになれば良いけど、そこまで、人の人生を背負う自信がなかった。

でも、よく考えてみたら、人は、友だちに愚痴を言うだけで、悩みを聞いてもらうだけで楽になることもある。

アドバイスを受けて、それを実行しようがしまいが、その時だけでも明るい気持ちになれば、前向きな気持ちになれば、そこから先の未来は、やっぱり変わるよね。

だから、わたしのカードリーディングも、人が、誰かに相談して、気持ちを楽にする手段の一つだと思うことにした。」


「カードリーディングって?」

音羽は、何のことか分からなかった。

何せ、ヨキのスピリチュアルな能力に関して話すことなんかは、今までずっとなかったから。


「あっ、ごめんね。それも誰にも言ってなかったから。

わたしね。タロットカードとか、オラクルカードを扱って、ハイアーセルフからメッセージを受け取り、それを示すことが出来るの。

わたし、学校のテストも、受験も、仕事も、何でもカードに教えてもらって、道を切り開いてきたの。

しかも、相当深掘りして、スッキリ解決出来るとこまで、教えてもらうの。

でも、カードのことも、スピリチュアル能力のことも、音羽にしか言ったことない。


わたしの今の事業の仲間やお客様には、絶対バレたくない。

それで、窓口になって欲しい。

音羽が、窓口なら、私出来る。」


音羽は、確かに、今のヨキの事業の方で、この話を広げる訳にはいかないことは分かった。

霊感ビジネスとか、色々な噂がくっついて、今まで築き上げてきたものが、崩れる可能性がある。

まだ、今は、全く別のルートで、展開した方が良いだろう。


「わかった。まずは、ヨキが、どんな風にしてリーディングをするのか見せてくれる?

それから、どうするか考えるね。

とにかく、一度カードを持って、うちに来て。

家族の誰かを見てもらうね。

それを客観的に見たい。」


「わかった。じゃ、明日でも、行くね。あなたのご主人を見ることにする。」




翌日、ヨキは、大きなバッグを持ってやって来た。やっぱり顔が疲れている。


「まずは、何か食べる?」華奢な身体の割に、とてもよく食べるヨキに、いつものように音羽は、尋ねると、


「少しだけ、、食欲まで無くなってる。」

ヨキに食べものを勧めて、こんな反応は、初めてだ。

いつものヨキなら、「うん!食べる!!ご飯は多めでお願いします。」と、中々の食欲だ。

エネルギー酔い?二日酔いみたい。

音羽は、思った。


「あー、なんか、恥ずかしいなぁ。秘密を見せるから。

私はっきり言って、カードオタクよ。」と言いながら、何種類ものカードを大きなバックから取り出した。

しかも、一種類ずつ、可愛い巾着とか、バニティーケースに大事にしまってある。


「えっ、こんなに?」

音羽は、一度や二度くらいは、タロット占いや、オラクルカードリーディングをやってもらったことがあるけれど、大抵は、一種類のカードをスプレッドして占うし、補足でもう一種類、出てくるくらいなものだ。


「えっ、うん。

今日は、なんかこの10デック持ってきた。

デックはワンセットのことね。旦那さん、見るって言ってたから、来る前に、連れてきた方がいいカードたち分かったから、持ってきたよ。

わたし、100デックは、家にあるから、、、」


音羽は、思わず吹き出した。

「100デック!!本当にカードオタクだね!」


照れ臭そうに笑いながら、ヨキは、シャッフルしていた。


「なんなら、わたし、カードなんでも好きで、トランプも好きで、アメリカ在住の時のアルバイト、カジノのディーラーだもん。ブラックジャックとか、ポーカーの。

あれは、国家資格いるから、ちゃんとライセンスまで取って、そのバイトやってたのよね。

だって、トランプ切るだけでテンション上がるもん。

スペードのエースが出た時なんか、テンションマックス!」


「ぷふふっっ、、、面白い。そんな人、初めて聞いた。オタク過ぎて、笑う。」音羽は、大笑いした。


ヨキも笑いながら、

「えっ、そんな可笑しい?

わたしね。

小さな時から、お父さんの海外赴任で、ヨーロッパとか、アメリカとか、色々な国に住んだの。

で、お父さんが、その国のこと、土地のこと忘れてしまうくらい幼いわたしでも、何か思い出になるものを、持っていてくれたら、少しは記憶に残るかも、ってスブニールを買ってくれた。


それで、いつも、綺麗なオラクルカードとかを見つけては、おねだりして買ってもらった。


3歳くらいの時から、何でもカードに聞いてきた。

カード眺めてるだけで、癒されるし、嬉しくなる。ずーっと、そうしてきた。

最近もそう。家帰ったら、カード引っ張り出して、眺めてるねん。

幸せな気分になる。


でも、事業を起こして、走ってきて、病気になって、克服して、っていう、この数年は、カードのこと忘れてた。

なんでかなって思うけど。


で、また、覚醒して、トウコさんに会って、覚悟を決めて、この力を使おうと思って、音羽に電話した日から、カード引っ張り出して、この習慣を思い出した。

あの日から、毎日、ニヤけながらカード眺めてる。」


「ヨキとカードは、なんていうか、パートナーみたいな感じなんだね。

そのカードのことを忘れて、しまっておいてたときは、地に足をつけて、事業を成功させるために走ってた時。夢中になって、、、

そんな時期も、この地球で何かを成り立たせようと思ったら、誰でもあるよ。」


音羽にも、必死に走ってた時期がある。

その時は、ビジネスを軌道に乗せるために夢中だったから、流行りの歌も、時事ニュースも、知らないくらいだったし、大好きな踊ることも一旦やっていなかった。


ヨキとカードか、、、


出会って15年近くなるのに、ヨキの、本当の姿を、そして、ヨキの大好きなものを、知らずにいた。

ヨキは、隠すのが上手というか、まるで今のヨキは、音羽の10年来知ってたヨキとは、別の人だ。

音羽は、何かワクワクしていた。

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