第3話 ヨキの執着

ある日、音羽とヨキの共通の友だち西田が、音羽のうちに来た。

「音羽さん、ヨキさんの病気のこと聞きましたか?」

「えっ?」

その頃、音羽は、子どもの受験や、仕事、フラメンコのライブと忙しくて、しばらく、ヨキのレッスンも休んでいた。

お互いFacebookやインスタで、近況は何となく分かっていたが、直接会わなくなって、1年以上経っていた。

西田は続けた。

「ヨキさん、癌なんですよ。それで、命に関わるほどのことなのか、聞いたら、、、ステージ4だって言うんです。」と涙ぐんでいる。

音羽は、驚いたけれど、ヨキの死は全くイメージ出来なかった。

音羽は、西田に、

「ちょっと、直接ヨキと話すわ。でも、きっと大丈夫だと思う。」と答えた。

そして、すぐ、ヨキに電話した。


ヨキは、開口一番、

「音羽、聞いて。わたし、付き合ってる人がいるんだけど、その人のことで、本当に毎日モヤモヤしてて、、、」と言った。


「そんなことより、病気のこと西田くんに聞いたけど、今どういう状態?西田くん、命に関わるような状態だからって泣いてたけど、、、」という

音羽に、

ヨキは、

「あー、それね。前に体調悪くて、手も浮腫んで、リュウマチになったと思ってたら、乳癌で、転移もしてて、ステージ4だって。

抗がん剤治療の予定も決まってるし、これから治療のスケジュールぎっしりだけど、仕事で大切なイベントもあるし、うまくスケジューリングしないとって思ってる。まあ、大丈夫でしょ。

それより、あの人とのこと聞いてほしいし、近々会いたい。」


ステージ4の癌のことよりも、悩んでることがあって、ステージ4の癌でも、普通に仕事をしようとするヨキの言葉を聞いて、音羽は、やはりヨキは大丈夫だと思った。

「破壊と再生」音羽の脳裏にこの言葉が浮かんだ。この癌を克服して、きっとヨキは、パワーアップして、再生するに違いない。


2人は、久しぶりに会って話した。


ヨキは、恋愛に関して、とてもクールなタイプだ。

好きになった人がいても、すぐに冷めてしまう。相手との価値観が違って来たり、ヨキを束縛するようなら、「もう、いや。どうでもいいから、離れてほしい。」と、スパッと切ってしまう。


ところが、今回は、少し様子がちがう感じがする。


ヨキが、こうちゃんと呼んでいる、その男性の話を音羽が聞いたところ、全然いい人とは思えなかった。

ヨキのような天才には、はっきり言ってそぐわないと思った。

音羽は、会ったこともないけれど、ヨキから聞くその男性像は、あまりに普通で、それどころか、女々しい感じもした。

しかも、結婚している。その結婚を終わりにする決断も出来ないのに、妻への愛がなくなった、ヨキのことだけを愛していると言うらしい。

普通なら、ヨキが愛想を尽かすタイプだ。

でも、今回、ヨキは、このこうちゃんにえらく執着している。

ヨキは、音羽に聞いた。

「どう思う?全然しょうもない男に振り回されてるの分かってるけど、絶対、あの人は、未来、わたしの近くにいる人だと分かってる。

わたしの病気に気付いて、どうしても病院で検査して欲しいって、私のことが大切だからっ言うから、言われた通りにして、癌も見つかった。

でも、奥さんを見捨てられないって言う。」


音羽は内心、それって不倫男の代表的なセリフよね、と思った。

「はっきり言って、その人のこと、全然いいと思わない。

その人、決断力ないよね。

優しいからかもしれないけど、現にヨキをこんなに苦しませてる。愛してると言うなら、1番大切な決断を今すぐにでも出来るはず。

でも、ヨキが癌だと知りながら、未だに、自分の都合の良いことばかり言ってるように聞こえる。その人とは、キッパリ切るべきだとわたしは思う。

それをヨキから切り出した時、やっと決断出来る人なのかも知れない。

それが出来ない人なら、、、、

その人のお陰で、ヨキは癌に気付けて、すぐに治療にむかえた。

ただそのためだけに存在した人。

本当に縁がある人なら、また未来良い形で一緒になれるから、、、」


と、音羽は、ヨキを説得した。


「そうだね。分かった。でも、絶対将来近くにいる人になるのは、分かってる、、、」


なぜそこまで執着するのか。

身体が弱っているからだろうか?


きっと、ただ今は熱くなってるだけ。

熱が冷めれば、いつものヨキに戻るだろう。


ヨキは、音羽に、こうちゃんと距離を置くことを約束した。

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