第2話 ヨキと音羽の出会い

音羽が、ヨキと出会ったのは、15年前。

音羽は、何か音楽を、またやり始めようと思った。

子どもの時にピアノを少しかじった程度と、歌が好きだったこと、大学の時は素人バンドで、キーボードとコーラスをやっていて、その時の楽しさが、忘れられずにいた。

音羽は、踊ることも大好きで、若い頃から、ジャズダンスやヒップホップをやっていた。

結婚して、子どもが出来て、しばらくしてからのここ10年は、フラメンコにハマっていたけれど、踊る事にも音楽は付き物で、音楽が好きだからこそ、踊ることも好きだった。

『ボイトレ 京都』でweb検索して、たまたまヒットしたスクールに、ヨキの写真とプロフィールが載っていた。

『オフブロードウェイでシンガー、ダンサーとして活躍。アメリカンポップス、JAZZなど...』

若くて可愛いこの先生に習ってみよう!と音羽は、直感的に選んで、体験レッスンを申し込んだ。


「こんにちはー!では、さっそく、好きな歌、歌ってみましょ!」と当時20代半ばを少し過ぎたくらいのヨキは、とても華奢で、普通に可愛いお嬢さんだけれど、どこか落ち着いてすわっている。

それは、彼女が見本で歌ってくれた時、その華奢な身体からは、想像出来ないような、黒人シンガーのように声量のある、太い響きのある日本人離れした歌唱力だったこともあるだろう。


今思い返すと、不思議だったのが、体験レッスンを終えた瞬間、ヨキは音羽に、「わたし、お肌のこと悩んでて、何かいいお化粧品ご存知だと思うので、教えてください。」と言った。

音羽は、美容のことを中心とした女性のためのアカデミーを主催していて、スキンケアやお化粧品についての知識は、豊富だった。

けれど、そんな経歴は一言も話していないのに、まるで、そのことを知ってるような口調で聞かれた。

少しは不思議に思ったけれど、その時はそれほど気にも止めずに、「また、私が使ってるものの試供品でもお持ちしますね。」と答えたのを覚えている。

その後、そのボイトレスクールの入会手続きを、オーナーと一緒にしているところに、ヨキが入って来た。

「次のアルバムのレコーディング、明日から出来る?」とヨキはオーナーに尋ねた。

オーナーは、驚いた顔で、「えっ、8曲オリジナル、もう出来たん?決まってから1週間なのに?

相変わらず、すごいな。みんな、一曲生み出すのに、何週間もかかるのに、、、さすがやね。」

と言っている。

音羽は、この子、すごい才能なのね。と内心思っていた。そして、音羽にとって、もう一つ、印象に残っている会話がその時あった。

ヨキが、オーナーに、どこかの場所だったか、店の名前だったかを尋ねていて、「一回紙に書いてくれたら、わたし、一度見たもの絶対忘れないから、この紙に書いて!とちぎった紙切れをオーナーに差し出した。

そして、ヨキは、英語はもちろん、韓国語やフランス語でのコミュニケーションに不便がない程度の語学力も兼ね備えていた。


この類稀なる才能を持った、ひとまわりは歳下のボイトレの先生ヨキと、音羽は、プライベートでも時折会って話す友だちとなった。


才能に恵まれているヨキは、話すと普通のお嬢さんだった。ヨキは、音羽に、恋愛の相談や仕事の話、その他たわいもない話をよくした。

2人の考え方はとても似ていた。

ヨキは、程なく、自身の事業を始めた。


音羽は、自身の手がけるビジネスで、それなりの成功を収めていた。ゆとりの中で、プライベートも仕事も自分の感性のままやりたいことを、やりたいように、自分のペースで、取捨選択しつつ優雅なライフスタイルを送っていた。


自身で何かビジネスをする人の考え方には、職種や年齢が違っても、どこか共通点がある。

音羽とヨキには、似た価値観があった。

特に仕事に対する姿勢は、サバサバした決断力、迅速な行動力など、同じ。

そうでない人たちが、どうでも良いことで前に進めずいる気持ちは分からないね、と一蹴するような男性的な強さがある2人だった。


だから、音羽は、若くして頑張っているヨキのことを応援したい気持ちが、強かった。

そして、ヨキの才能のファンでもあった。


2人は、音羽のペースでたまに行く音楽のレッスンの前後に話したり、ランチを一緒にした。

音羽の主催するパーティーで、エンターテイナーとして、ショーをしてくれることもあった。


それほど濃くはないが、出会って15年、お互いの存在や、お互いの活躍をいつも認めながら、細く長い付き合いだった。


その2人が、約1年くらい前に、ヨキが、ある病気になっだことをきっかけに、もっと強い絆で引き合うこととなった。

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