第34話

 いよいよパスナ国王の居る城へと入る。緊張しているからか、誰一人として口を開かなかった。エレベーターが止まると、そこは城のエントランスだった。誰もいない空間だが、誰かに見られているような気がして落ち着かなかった。

「怯える事はないわ。ここにあなたたちの敵はいない」

 リリスはそう言ったが、明らかに僕らは監視されていて、魔術を持たない僕にも分かるように、目に見えない視線を感じ取らせていた。ゴドーを見たが、彼は僕と視線を合わせなかった。しばらく廊下を歩くと、

「あたしの案内はここまで。ここからはあちらの方が案内をしてくれます」


「では、こちらへ」

 今度の案内人は、金髪の長髪に細身な身体で、眉目秀麗な青年だった。彼は光のエルフと呼ばれる種族で、名はフレイムと言った。

「君たち光の勇者がここへ来ると、アレックスから聞いてね、面白そうだから来てみた」

 とフレイムは言った。

「アレックスさんとは、どなたでしょうか?」

「この国の王、アレクサンドル三世さ。彼は私の古くからの友人でね。ここへはよく暇を潰しに来る」

「そうでしたか。では、あなたは王の家来ではないのですね?」

「はははっ。もちろん、家来ではないさ。君たちをアレックスの居る部屋まで案内をしたいと言ったのは私でね、こうして無駄話をしたかったのだよ。君たちに興味があってね。特に興味深いのは君だ」

 とフレイムはユーリを見た、僕ではなく。

「どうして僕なのですか? 僕はただの語り部です」

「君は光の伝説の結末を決める、鍵となる人物だからね」

 ユーリはそう言われても、穏やかな表情を崩さなかった。それは知っていたということなのだろうか?

「それも伝説として伝えられていたことなのでしょうか?」

 僕が質問すると、フレイムは笑って、

「光の子にも分からないことがあるんだね」

 と言った。


「少し急ごう。アレックスが焦れている」

 フレイムは何かに気付いたように、ハッとして、急に足を速めた。

 部屋の扉をノックして、

「入るよ。アレックス」

 とフレイムが声をかけて扉を開けると、大きなゆったりとしたソファーに身をゆだね、くつろいで茶を飲んでいる王がいた。

「待っていたぞ。さあ、皆座ってくつろいでくれ」

 王は立ち上がることもなくそう言った。広い部屋の真ん中にはローテーブル、その周りには大きなソファーが四つあった。王が一つ使っていて、シュリとジュペ、ゴドーとユーリ、僕とフレイムがペアーで座った。僕とフレイムがちょうど、王の真正面だ。

「よく来てくれた。光の勇者たちよ。旅を急いでいることは知っているが、私のわがままで来てもらった。礼を言う」

「いえ、こちらこそ。あの名高いパスナ国王にお目通りが出来た事を光栄に思います」

 ジュペが言った。

「背中に二つの剣。ドクーグの王子だな。ジパは元気か?」

「父をご存じなのですね?」

「お前にも会ったことがある。覚えていないだろうが、ジパの王位継承の祝賀で、お前はまだこんなに小さかった」

 とパスナの王は、当時のジュペの背の高さを手で表した。

「そうでしたか。私の事を覚えていてくださって光栄です。こうして再び出会えたのも御縁でしょう。父は今も壮健です。無事に国に戻ることが出来たなら、あなたと会えたことを父に話します」

「そうか。ジパも健在なのだな。ケシュラの王子よ、よく来てくれた」

「パスナ王、お目にかかり光栄です」

 シュリは立ち上がり一礼した。

「まあ、硬くなるな。バルトにも会っている。ケシュラもドクーグもよい国だ。民に憂いはない。それが良い国の基本だ。二人とも、この戦いを征し、無事に国に帰るのだぞ。これは私からの命令だ。命は大切にするのだ」

「はい」

 シュリとジュペはそろって返事をした。

「ところで、光の子よ。お前はこの答えを知っているか?」

「答えとは何でしょうか?」

「光と闇の戦いの結末だ。光が勝つとは限らない」

「すみません。まだ僕には分からないのです」

 僕は困った。ヤマトなら結末を知っていて、それを話していいかも判断がつくのだろう。けれど、僕には結末も分からず、もし知っていたとしても、話していいのか判断もつかない。ここでも僕はただの子供で、何も出来ない役立たずだった。

「太郎は分からないのではありません。結末はまだ決まっていないのです」

 ユーリが言った。

「やはり君が鍵なんだね。愛を唄う者」

 フレイムは微笑みながら言った。

「ユーリは何を知っているの?」

 僕が聞くと、彼は言った。

「僕が知っているのではないよ。これから太郎が知ってゆくんだ。君は闇の正体を知った。闇の帝王が誰なのかも。恐れる事はないよ。僕もシュリも、ジュペもゴドーも、事実から目を背けない。君には僕たちがいる。しっかり向き合って戦おう。それでこの戦いの決着がつく。光が勝つか、闇が勝つか、どんな結果になっても、それを受け止めよう。それが僕たちの役目なんだよ」

 みんながユーリの声に聞き惚れていた。

「聞きしに勝る美しき語りだ。伝説の勇者たちがここにいるとは感慨深いな」

 王はそう言ってフレイムを見た。

「アレックスは小さい時から、この伝説の物語に夢中だったからね。私はこれが夢物語ではないことを知っていたよ。前の勇者たちにも会ったからね。伝説の物語は繰り返される。みんなが忘れた頃にね」

「前の勇者たちって、いつの事ですか?」

 フレイムは笑って、大昔の話しだよと言った。エルフである彼は、どれほど長く生きているのだろうか? そんな質問は、ここでは意味がないだろう。


「楽しい茶会だった。君たちに感謝する。旅は急ぐのだろう。もう行くがいい」

 王はそう言って、僕たちを見送った。

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