第32話

 僕らはこれまでの話をハロルドに語った。

「そうか。闇には種類があるのだな。先日、パスナの向こうの街が闇に襲われたと連絡があった。兵を派遣し確認したところ、街の住民は闇のような漆黒の石と化していたという。君たちもここを出て東に向かえば、そこは通ることになる。街を襲った闇を見つけて討ってほしい。そうすれば住民も救えるはずだ」


 ハロルドは、僕たちがゆっくり休めるようにと、広い部屋を用意してくれた。キングサイズのベッドが三つ。大きなソファーと、テーブルにはフルーツバスケットが用意されていた。

「ベッドが三つか。ゴドーは一人で使ってくれ。私はシュリと一緒に。ユーリは太郎と一緒でいいな」

 なぜか、ジュペは勝手にそう決めた。シュリはそれで文句はなさそうだ。

「うん。僕はそれで構わないよ。ユーリは?」

「僕もいいよ」

 ペアーが決まった。ジュペとシュリはこれまで見聞きした国や街の警備や行政についての話しで盛り上がっていた。ゴドーはソファーで高級そうなお酒をちびちびと吞んでいる。


「ユーリ、君と出会ってまだ日が浅いけれど、僕はもっと君と語り合いたい」

「うん。僕も太郎とはもっと話しがしたかった」

「そう言ってもらえて、うれしいよ」

「太郎はどうしてそんなに怯えているの?」

「僕が怯えている?」

「そう。君が不安な気持ちを抱えて話すとき、僕はそれを感じるんだよ。とても怯えている。それはなぜだろうと考えたよ。君の周りの人が君を否定したり、拒んだりすることが怖いんだね。必要以上に怯えなくても大丈夫だよ。今は僕たちがいる。君の話すことをちゃんと聞くし、拒んだりはしない。僕たちの前では、仮面も鎧もつけなくていいんだよ。傷つくことを怖がらないで。間違ったことを言っても大丈夫。恥をかくこともあるけれど、それは恥ずかしい事じゃないよ。一人で考えて、悩んでも解決できないときは、頼ってもいいんだよ。人はそうして生きていくものだからね。太郎には僕たちがいる。頼ってもらえると僕たちも嬉しいんだよ」

 どうしよう。こんな優しい言葉をかけてもらったのは初めてだった。僕の目から、止めどなく涙が流れ落ちる。ユーリは優しい微笑みで、泣いている僕を見守っている。泣いているところは誰にも見られたくない。これは僕の恥だ。けれどユーリは、泣くことは恥ではないと言っているように見えた。氷のように冷たかった僕の心が解けていくのが分かった。


 夜が明けて、ジャニスの街を出るとき、ハロルドは僕らの無事を祈ると言ってくれた。次はパスナ王国、ジャニスから歩いて半日はかからないとハロルドは言った。ほどなくして、王国のシンボルである立派な城が見えてきた。王国にはドクーグのような城壁はなく、一見警備が甘く見えた。道はそのまま城下町へと続いていて、難なく入国できた。


「門もなく、簡単に入国できたけれど、この国の警備はどうなっているのだろう?」

 僕が誰となしに聞いた。

「ここは魔術師が多く雇われている。怪しい奴はすぐ捕まる。入国前に俺たちはすでに審査されていた。そろそろお迎えが来るだろう」

 ゴドーが答えると、騎士団の一行が僕らを目指して向こうからやって来た。

「お待ちしておりました。城へご案内いたします」

 先頭にいた精悍な顔立ちの若い騎士が言った。眼光の鋭さが、青年の強さを物語っていた。

「はい」

 僕らは騎士団に案内され、城へと着いた。城は高台に築き上げられ、見上げるとその迫力に、王国の権力が絶大なものだと実感した。

 そこには城門はなく、城への階段もなかった。

「では、我々の役目はここまでですので、失礼致します。ここからはあの者がご案内致します」

 騎士の言った、あの者とはどこだろうときょろきょろしていると、上から一人の魔術師が下りてきた。

「勇者ご一行様。ようこそいらっしゃました。城へのご案内はわたくしが務めさせていただきます。名はリリス、魔術師です。貴方はゴドーね。はじめまして、お噂はかねがね」

 少女の魔術師リリスに興味がなさそうに、ゴドーはいつものように、フンッと鼻を鳴らすだけだった。

「あら、ごあいさつねぇ。何か言ってくれてもいいんじゃない?」

「すみません。悪気はないんです。失礼な態度を許してください。自己紹介の時間は後程ということで、城への案内をお願いします」

「そうだったわね。それがあたしの仕事だったわ。こっちよ」

 案内された場所は高台の中だった。通路を奥まで行くと、鉄製のエレベーターのようなものがあった。

「これに乗って。あたしの魔術で城まで上がるのよ」

 電動式ではなく、動力は彼女の魔術だった。


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