第31話

「少し先を急ぐぞ」

 ゴドーは少し足を速めた。まだ日は高く昇ったばかりだが、日が暮れる前には次の街へ着きたいのだと彼は言った。あれから、何となくみんな言葉が少なくなっていた。僕が軽率な行動をとったせいで、僕らが光の勇者だと知られたかもしれないからだ。龍神祭りの街を出ると、右手に川が見えてきた。あの大きな川に繋がっているようだ。川沿いの道がずっと先まで続いていた。今度はどんな街なんだろう? 僕はゴドーに聞くのを少し楽しみにしていたけれど、今はそれも聞きにくい。まだ、おしゃべりはしてはいけない気がするから。五人はほとんど会話をせずに歩き続けた。日が傾きかけたころ、

「次の街までもう少し頑張れ」

 とゴドーが言った。僕らを気遣ってくれていたんだと思うと、少しほっとした。夜を迎える前に、次の街に着いた。


「ここは安全な街だ」

 この街の名はジャニス。王国パスナに近いこの街もまた、ボルディアの領地で、治安がいいのは民が経済的に豊かな事と、犯罪を取り締まる憲兵と街の住民による自警団の活躍もあって、犯罪抑止となっているとゴドーは説明した。

「なるほどな。私の国も治安を維持しているのは、兵士や民のおかげだからな。彼らの君主はよほど人望の厚い人なのだろう。パスナの王に会ってみたいものだ」

 ジュペは国を治める話になると、気持ちが昂るようだ。彼はいずれ王位に就くのだから当然だろう。


「宿を探そう」

 シュリがきょろきょろと宿を探していると、騎士の一団がこちらへと向かってきた、よそ者の僕らは、どうやら目立っていたのかもしれない。

「旅のお方、私の勘違いでなければ、ボルディア家のお客様ではありませんか?」

 先頭にいた女性の騎士が言った。どうやら彼女がこの騎士団の長らしい。

「間違いではありません」

 そう言って、アルフレッドから渡された木札を見せると、

「会えてよかった。さあ、こちらへ」

 と騎士が僕らを先導して、大きな屋敷へ招かれた。

「武器と荷物はこちらでお預かり致します」

 ここもボルディア家の屋敷なのだろう。警備に余念がない。

「さあ、こちらへ」

 立派なエントランスホールを見ていると僕を女性騎士が促した。屋敷内には女性騎士だけが入り、他の者は外の警備をしているらしい。


 部屋へ案内され、待っていると、

「やあ、よく来てくれたね。兄から連絡をもらって、君たちを待っていたよ」

 僕と同じくらいの歳の少年がそう言って部屋に入って来た。

「貴方の兄とはどなたでしょう?」

「ああ、すまないね。自己紹介がまだだった。僕はハロルド・オブ・ボルディア。アルフレッドは僕の実兄です」

「そうなのですね。旅を急ぐあまり、あまり長く滞在できなくて、アルフレッドさんには、失礼なことをしてしまいました」

「兄はそんなことは気にしていないよ。それどころか、君たちに会えたことをすごく喜んでいたよ。伝説の勇者に会えたって、僕に鳩を飛ばして知らせてきたのだから」

「それならよかったです」

 ハロルドはパスナ王国君主、アレクサンドル三世の第五王子で、歳は僕と同じ十二歳。元服を迎えたばかりで、この街の警備や、行政を司る仕事を学んでいるという。

「僕と同じ歳で、君はすごいね。ユーリも十三歳で一人、世界を旅している。僕の世界とは大違いだ」

「太郎の世界は平和なのだろう。子供が子供のままでいられるのだから。それは幸せなことだよ」

 ハロルドにそう言われて思った。僕はあんなに安全で平和な暮らしに、何が不満だったのだろうか。

「そうですね。僕は幸せだった」

「ところで君たち、夕食はまだかな?」

 ハロルドが気を利かせて、食事の用意をしてくれた。


 食事を終えると、

「僕は君たちにとても興味があるよ。アルフレッドも話しを聞きたがっていたが、足を止めてはいけないと思って、あまり聞けなかったと残念がっていたんだ。今日はここへ泊るのだから、少しは話す時間もあるだろう? これまでの旅の話しをしてくれないかな?」

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