第35話 決着
「クソクソクソクソォォォォ!!」
次々と魔法弾を撃ち込んでくるのを回避しながら、背後にいる彼女たちを守る。
どうやらアウトローは躍起になってしまっているらしい。これはチャンスだ。
戦闘中に冷静さを保てないなんて、素人しか許されない。
「絶対にここで終わらせる!」
「いや! 私はまだ死ねない! この憎しみを晴らすまでは死ねない!!]
叫びながら、
「憎い憎い憎い憎い憎い!!!!」
己の胸に手を突き刺した。
……気でも狂ったのか?
と、一瞬思ってしまう。
が、絶対に違うとすぐに判断を訂正した。
彼女は『憎しみ』で動くのだ。
今ので、俺は彼女のそれをしげきしてしまったのかもしれない。
アウトローは自分の心臓を掲げ、
「神よ! 私はこの心臓を捧げる! だから、私に力を!」
不味い……!
完全にその魔法の存在を忘れていた。
彼女が扱う〈死者蘇生〉らしき魔法は、一からゼロになり、一になった者を凶暴化させる。
それを自分にかけるとは……俺でも勝てるかどうか怪しくなってきた。しかし……どうにかしようにも、もう間に合わない。
彼女は心臓を握り潰し、噴出した血が周囲を真っ赤に染める。瞬間――アウトローの目が真っ赤に充血した。
ぽっかりと穴の空いた胸をさすりながら、彼女が近づいてくる。
「これが私があなたに抱いている憎しみよ。これが証明。命を賭けてでも、あなたを殺す」
「ならやってみろよ。お前の憎しみより、俺の希望の方が上だと証明してやる」
アイラと、もう一度……俺は会いたい。
この気持ちが、負けるわけがない。
「〈
アウトローが手のひらを天井に掲げたかと思ったその刹那、彼女の手のひらに光が収束していく。
光すらも飲み込み、闇を生成したのだ。
ドス黒い球体を浮かべて、
「これで、ガルド! お前は終わりだぁぁぁぁぁぁ!!」
あんなものを食らったら、俺たちは完全に敗北してしまうだろう。彼女が、あの黒い球体の主導権を持っていたらの話だが。
「あ、あれ……!?」
手を振り下げても微動だにしない球体をぼうぜんと眺めているアウトロー。
「最初に言っただろう」
俺は賢者だ。
六百年前の世界で成り上がった、伝説の賢者なのだ。
「俺を嘗めるな」
〈闇の皇帝〉の主導権を、俺が奪った。
本当に、これは賭けだった。
俺は過去に一度、彼女と衝突したことがある。
その時にアウトローの魔力の波長を一応覚えておいたのだ。
これは、超上級の魔法。
俺オリジナルの、
「〈
相手の魔力の波長を知っている場合に発動できる魔法。
魔法の主導権を奪う技だ。
「その魔法は、俺が奪った」
「な――」
腕を振り下ろす。
同時に〈闇の皇帝〉はアウトローを飲み込んでいく。
これで、全て終わりだ。
「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
発狂しながら、彼女は息たえた。
〈死者蘇生〉らしき魔法の発動は確認していない。
確実に倒したのだ。
六百年越しの、決着が着いた。
「やりましたね!」
「やったねぇ!」
「やった!」
感極まってか、三人が抱きついてきた。
力強く抱きしめてくるものなので、少し苦しい。
「ああ。王都はもう大丈夫だ」
ひとまず、王都は救えた。
それよりもだ。俺の本来の目的はそこじゃない。
アウトローの死体に近づき、残っている魔力にアクセスし、彼女が使用できる魔法の術式を解析する。
……あった。
魔法自体に名前はないが、確かに俺の考える〈死者蘇生〉に近いものが。
エレア先生が隣に座って、
「もしかして、今できそう?」
「ああ。少し変えればすぐにできる」
やっと、やっと会える。
六百年、六百年もかかってしまった。
アイラ……。
待っていてくれ。
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