第34話 俺を嘗めるなよ


「ここからだねぇ……」


 第十階層目の主部屋を俺たちは眺めていた。

 この先に、アウトローがいる。


 手のひらが汗で滲む。

 久しぶりの大物との戦闘だ。


 彼女たちを一瞥する。

 俺同様、いた、俺以上に緊張している様子だった。


 エレア先生でも少し震えているくらいだ。

 ユリとサシャは今にも泣き出しそうになっていた。


「行くぞ……」


 俺は扉を押し開く。

 埃が扉から舞い降りてきて、視界が一瞬塞がれる。


 目を開くと、そこには絢爛な内装をした部屋があった。

 その中心。ベッドの上に……件の魔女は座っていた。


 とんがり帽子を被り直し、アウトローは立ち上がる。

 妖艶な笑みを浮かべながら、腰まで伸びた紫の長い髪を触る。


「……今はガルドだっけ。ふふふ、顔も体つきも。かなり変わったわねー」

「どうやってお前は生きながらえた。いいから教えろ」


 俺も、焦っていた。

 アイラが目前にいるのと同じなのだ。


 焦らないわけがない。


「アイラちゃんのこと? ああ、それなら正解よ。私は失った命を蘇らせることができるわ」

「どうしてお前がアイラのことを知っている!」


 ふふふ、とわざとらしく言いながら、


「分かるわよ。私はあなたのことが憎い。六百年前、王都を滅ぼす計画を邪魔したあなたが憎い。当然でしょう? 憎い相手の情報を探るのは」



「「六百年前?」」


 ユリとサシャが首を傾げる。

 エレア先生はやはり、とニヤリと口角を上げた。


「ああ。目の前にあなたが来ると憎くなってきたわ。憎い憎い憎い憎い! 私はね、また裏切られたのよ! ロットとか言うやつにね! 全部あなたのせいよ!」


 アウトローは自分の頬を何度も何度も掻く。

 血が滲んでは回復しを繰り返す。


 ――そして、戦闘は突然始まった。


「憎い憎い憎い憎いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


 彼女が魔法弾を放ってきたのだ。

 俺は咄嗟に防御壁を地面から発生させて、それを防ぐ。


 防御壁を跳躍して、飛び越え、アウトローに向かって〈光の矢ライト・アロー〉を放つ。


 闇には、光を。当然の結論だった。

 しかし彼女はそれを弾き飛ばし、


「〈時間跳躍タイム・リープ〉!!」


 刹那、目の前にアウトローの姿が現れた。

 彼女の拳をすんでのところで回避する。


 ……時間を消しとばしてきたか。

 六百年前とは違う。


 確実に強くなっている。

 憎しみが、増幅している。


「私たちも――」


 ユリたちが一歩前に踏み出した瞬間、


「あなたの負けよ!!」


 俺を無視して彼女たちの方に魔法弾を打ち込む。

 だが――俺が負けだと?


「なにを勘違いしている」

「え……?」


 三人の方に手をやって、防御壁を発生させた。

 アウトローの魔法弾は完全に防御しきった。


「自分以外にも……防御壁を展開できるの!?』


 魔女は、手を口の方に持っていって驚愕する。

 ……そんあの当然だろう。


 魔法はなんのためにあると思っているんだ。

 魔法は人を苦しめるためにあるんじゃない。


 人を守るために存在しているんだ。


賢者を嘗めるなよ」

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