第33話 攻略開始


 ロットが……なら暗雲の魔女は彼に力を与えて自分はここにいるって感じか。ロットとも、決着をつけないといけないな。


「ロットに関しては俺が今後どうにかします。これでも、俺はアイツの元使用人なんで」

「ふむ。ガルドならできると思うから期待してるよぉ」

「な、なんの話なのか分からなかっけど、かなりヤバいのは分かった……!」

「うん、です」


 それよりもだ。

 今は王都を救うために、暗雲の魔女と戦わなければならない。そして――妹のために。


「よし、ダンジョンに潜り込むぞ」

「「「了解」」」


 そうして、俺たちは一気に第六階層を攻略していく。

 雑魚は周りの人たちに任せて、強敵は俺が仕留めていく形だ。


氷の刃アイス・ブレード


 アンデッドを切り倒し、どんどん奥へと進んでいく。

 この階層は主にアンデッド系が出現するらしい。


 アンデッドなら、属性効果が一番高いのは光だ。


「サシャ!」

「ラジャ!」


 サシャは敬礼と共に跳躍し、


光の雨ライト・レイン


 アンデッドに向けて、光の魔弾を撃ち込んでいく。

 よし、一気に蹂躙することが出来た。


 今のところ、上手いこと彼女たちの能力を活かせれている気がする。


 ようやく第六階層の最後まで来た。

 ここにはどうやら主はいないらしい。


 ふぅ、と一斉にみんなが息を吐く。

 場が弛緩するのを感じた。


 やはり、今日中に攻略するとなると体力や魔力もかなり消費する。


「お前ら、魔力を回復するぞ。手、出してくれ」


 ユリはすぐに分かったのか、サッと手を出してくれた。

 残り二人は不思議そうに手を差し出してくる。


 一人一人に魔力と言う名の筋肉パワーを与えていると、ユリが唐突に聞いてきた。


「ガルドさんって、どうしてこんなにダンジョンの攻略に必死なんですか?」

「王都を守るためだ」


 焦るが、すぐに返答することができた。

 しかし、ユリは納得してくれない。


「でも、あなたはそこまでする思い入れを持っていないはずです。王都出身でもないし。他に……理由があるんじゃないですか」


 その言葉と同時に、エレア先生がこちらを心配そうに見る。彼女もまた、理由を知らないが、大抵は察しているからだろう。


 サシャはと言うと。

 なんか分からんが不思議そうに、ニマニマとしていた。


「……俺にはアイラという妹がいた。でも……俺を庇って死んだんだ。だから俺は〈死者蘇生〉って言う、失った命を呼び戻す魔法。それと暗雲の魔女が関連している可能性があるから必死で攻略している」


「……ごめんなさい」

「いや、いいんだ」


 空気が重くなっていくのを感じる。

 さすがのサシャもなにかを感じたらしい。


 下を向いて、押し黙っている。


「さぁ、次も張り切って行こうかぁ!」


 パンと手を叩き、微笑みながら階段を降りていくエレア先生。彼女は先生として、俺のフォローをしてくれたらしい。


 少しだけ、空気の重さが解消された気がした。


 さて、七階層目だ。


 魔物の様子からして、ここからはアンデッドが基本となってくるらしい。どれも凶暴化していて、等しく目が赤くなってきている。


 間違いなくここは暗雲の魔女のダンジョンで、ロットも彼女と接触していると考えていいだろうな、


 俺も魔力を与えているため、魔力量がかなり少なくなっている。戦えなくはないが、アウトロー戦を考えるとここからは彼女たちに任せた方がよさそうだ。


火球ファイア・ボール


 初級ではあるが、ユリの魔法は強力だ。

 〈火球〉のさらに上〈豪火球〉を凌ぐ勢いの炎がアンデッドを飲み込んでいく。


 そうして迎える階層主の部屋。

 今回は待ち構えていたらしい。


 名称は俺でも知らない。アウトローオリジナルの魔物だろう。


「憎い……憎い……」


 ぼそぼそと呟きながら、人型のなにかが迫ってくる。

 とりあえず、俺は魔力消費を極限まで減らし、それでも彼女たちにとっては力になるバフ魔法を発動する。


 三人の体から光が溢れ出したかと思うと、一気に収束する。


「よし。お前ら、大丈夫だな」


 頷くのを確認した後、俺は合図を出して攻撃を開始した。


 憎い憎いと呟いている魔物には、双眸がちゃんとある。

 そのため、サシャはすぐに光魔法を発動して相手の視界を奪った。


 相手が立ち止まり、今頃真っ白になた世界を彷徨い始めたところで、エレア先生が拘束魔法を使って敵の体を鎖で封じる。


「ガルドさん!」


 ユリが俺に攻撃力増加のバフをかけ、


「ハァァァァァァァ!!」


 俺は魔力消費なし。完全な物理攻撃。筋肉パワーで相手をぶん殴った。


 エレア先生の鎖までも破壊し、相手は壁まで吹き飛ばされる。煙が舞い上がり、視界が一時的に閉ざされた。


「ふぅ。どうやらやったらしいな」


 魔物は完全に死亡していた。

 ……いや、魔物ではなかった。


「これって……!」


 ユリが今にも悲鳴を上げそうになる。

 が、俺がそれを制して、


「次へ行こう。大丈夫、大丈夫だから」


 彼女の手を引っ張り、先へと進んでいく。

 見ては……いけないものを見てしまった。


 ただでさえ不穏な空気が立ち込めているのに、さらに場は暗くなる。そして、焦る。


 第八、第九、第十には……魔物がいなかったからだ。

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